3 見知らぬ知人と出会うこと。そして、自分の居場所に戸惑うこと。
私が出社すると見知らぬ男がその席に座っていた。
見知らぬ、と言ったが感覚が少し違う。どこにでもいる、見知らぬ誰かというべきだろうか。
彼がいること自体には違和感はないが、それが誰かというとまったく覚えがない。
「あの、あなたはどなたでしたっけ?」
問いかけた私に、男は不意を突かれたような表情をする。
「えっ、ずっと隣の席だったじゃないですか」
そう言われて思いついたのは、隣の席の関野君だった。普段は地味な男だが、飲みに行くとノリがよくて楽しい人だ。
そう言われると、見知らぬと感じていた男は関野君のように思えてくる。
私は一体どうしてしまったというのだろうか。
彼の言葉を聞くまではその判別ができず、どこにでもいる他人としか思えなかった。
「どうかしたの?」
我々のやり取りを聞いて誰かが間に入る。
「あ、部長!」
関野君……らしき男が反応する。
部長? 武藤部長のことだろうか?
武藤部長は毎日各支社を転々としており、確か今日はこっちに来る日のはず。ここにいても不自然ではない。
だが……。
私には目の前にいる人が武藤部長だとは思えない。どこか、その辺にいるおじさんとしか思えない。
思わず彼をじっと見つめる。
よく考えると、この人が武藤部長だったような。そう思い込もうとしたら、不思議と顔が武藤部長のもののように思えてくる。
「なんだよ」
武藤部長は無言で見つめてくる私に不信感を持ったのだろう。いぶかしげな声を上げた。
「あ、いえ、その……」
どぎまきして目が泳ぐ。自然、職場の様子が目に入った。
あれ? ここって、ここの人たちってこんなだったっけ?
誰一人として、見知ったと思える人はいなかった。
何年も通い、親交を温めてきた人たちのはずなのに、一人も知っていると思える人がいない。
知っているはずなのに知らない人々。不条理なギャップ、それによって生まれたパニックが波のように私の意識に押し寄せてくる。
この人たちは一体誰だ?
ここはどこなんだ?
自分の居場所は本当にここなのか?
頭の中に渦巻く疑問に、自分で納得できる答えを用意することができない。
私はめまいを覚えた。
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