第200話


 記憶を取り戻した私が真っ先にした事は、シスター・ナリアに抱き着く事だった。



「あら、オウカ? どうしたの?」

「思い出した! 私、全部思い出したよ!」

「……そう。おかえりなさい、オウカ」

「ただいま、お母さんっ!」


 そのまま、私が落ち着くまで優しく頭を撫でてくれた。




 次に行ったのが、アイテムボックスから通信機を取り出す事だった。

 何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせ、「しゃべるボタン」を押し込む。


「お久しぶりです。オウカです。お陰様で記憶が戻りました。フリドールに寄ってから王都に向かいます」


 通信機からは、様々な声で、了解と返事が来た。



 久しぶりに旅用のジャケットと革手袋を着け、ホルダーからインフェルノとコキュートスを取り出す。

 ブースター起動。向かうはもちろん、ネーヴェの居るフリドール。





「ネーヴェ!」

「マスター。この次第は皆から聞いていたが……変わりなさそうだな?」

「うん! 細かいことは移動しながらね!」

「ちょっと待て、まだ引き継ぎ作業がにゃぁっ!?」


 問答無用で拉致っておいた。





 空を飛んでいる最中に起こった出来事を説明した。

 けれど、聞こえて無かったかもしれない。


「はぁ、はぁ……ますたぁ、加減というものをだにゃ……」

「え、なに? モフり足りないって?」

「ちがっ!? あっ……にゃふぅ……」


 ふへ。このモフり心地ですよ。いやー、たまりませんなー。

 ……ちょっと尻込みしてるから、少しでも癒されておこう。





 さて。既に空けられた穴も埋められている街道を進み、王都が見えてきた訳だけども。


 門の手前で降りて木陰に隠れ、ちらっと見てみると。

 なんか、ド派手な垂れ幕が張ってあった。


 色鮮やかに描かれたそれには、大きな文字で。


「おかえりなさい、救国の英雄!」


 そう書かれていた。




 そして門のど真ん中に胸を張って仁王立ちをしている小柄な影。

 長い黒髪が風に吹かれてばっさばっさなってるけど、お構い無しだ。

 何してんだ、レンジュさん。


「……マスター? 行かないのか?」

「いや、うーん……行く、けど」




 あの日、あの時。

 ソウルシフトして記憶を失った私を見て、レンジュさんは静かに涙を流しながら、私を抱きしめてきた。

 ごめんねと、謝りながら。



 他のみんなも私を取り囲んで泣いていた。

 あの時の私には意味が分からなかったけど、記憶を取り戻した今。


 めっちゃくちゃ顔を会わせづらい。



 だってさ! 他の人もだけど、レンジュさんが泣くとか、想像も出来なくないか!?

 気まずいどころの話じゃないんだけど!


 うわぁ……でもこれ、行かない訳にもなー。

 もう連絡しちゃったもんなー……


「……しゃーない。行くか」

「どこに行くのかなっ!?」

「そりゃもちろん王都……に……?」



 振り返ると。

 ニコニコ笑顔のレンジュさんが、両手を広げていて。


 反応する間もなく、抱きしめられた。



「うおぁっ!? え、いつ来ました!? 目ぇ離してないんですけど!?」

「にゃははっ!! それは残像ってやつだねっ!!」

「また無駄な加護の使い方をして……」

「にゃはっ!! ……はは、は。本当に、記憶が戻ったんだね」

「レンジュさん?」


 抱きつかれていて顔は見えない。けど、声が震えている。

 肩に、温かいものが落ちてくる。


「ごめんね。助けてあげられなくて。ありがとう。帰ってきてくれて」

「……はい。ただいまです」


 しばらくの間、そのまま抱きしめあっていた。





「……ところで、このまま押し倒しても合法だよねっ!?」

「風穴開けてやりましょうか?」





 少しトラブルはあったものの、無事レンジュさんと再開を果たし、改めて街に向かう。

 門兵さんは少し驚いた顔をした後、笑顔でそのまま通してくれた。


 久しぶりの王都は、何も変わらなかった。


 ……って、言いたかった。




 なんかもう、街中お祭り騒ぎだ。

 露店から普通のお店まで大売出し。

 いつもより活気に溢れていて、少し戸惑った。



 帽子を深めに被り目立たないようにしては見たものの、隣にいる騎士団長のせいですぐにバレてしまい、街中の人に囲まれてしまった。



「おう、おかえり、オウカちゃん!」

「最近顔見せないから心配してたのよ!」

「元気そうでなによりだ!」


 思い思いの言葉を受け、嬉しいような恥ずかしいような、そんな感情が溢れてくる。


「マスター。先を急ぐのでは無かったのか」

「あ、そうだね。みんなごめん! また後でね!」


 大きく手を振って挨拶したあと、改めて王城へ向かった。





 王城の広間。そこには見慣れた英雄たちの姿と。


 そして何故か、美しく微笑むセッカの姿があった。



「あらお姉様。お久しぶりですね」

「……いやいやいや。アンタ何してんの?」

「拾われました。今の私は使い魔なんです」

「はぁ!?」

「私は既に魔力を持たない存在です。誰かから供給されないとまともに生活すら出来ません。そこをカエデさんが拾ってくれたのです」

「友達が、増えた、よ」



 ……おい。色々とツッコミ所があるんだが。


 と言うかツッコミ所しか無いんだけど。

 何でこいつ、普通の顔してここにいるんだ。

 てか何でみんな受け入れてんのよ。



「はあ……まーいいわ。アンタ、悪さはしないんでしょ?」

「したくても出来ませんね。精々、お姉様へのセクハラくらいかと」

「風穴空けてやろうか」



 セクハラ要員を増やすんじゃない。対応に困るだろうが。



「あら、姉妹のスキンシップではありませんか」

「うるせぇわ……あーそうだ。悪さしないってんなら、アンタも一回連れてかないとね」

「はい? 何処へですか?」

「アンタが私の妹ってんなら、母親に会っておくべきでしょ」

「……宜しいのですか?」

「シスター・ナリアのゲンコツは痛いからね。覚悟しときなさいよ?」



 笑いながら、告げる。

 色々あったけど……もう終わった事だ。

 なにか実害が残った訳でもないし……悪いことしたなら、黙って叱られとけ。



「お姉様……」

「あ、でも関係者には謝っときなさいよ。だいぶ迷惑かけてんだから」

「あぁ、それに関してなのですが……謝りに行ったら、二つ返事で許されてしまいました。オウカちゃんの妹なら、と」

「……あー。うん、まあ、良かったんじゃない?」


 王都のみんな、優しいと言うか、緩いと言うか。

 ありがたいんだけど、もうちょい危機感持とうよ。


「まーいいわ……とりあえず皆さん、お久しぶりです」


 ぺこりと頭を下げると。みんな笑顔でこちらを見ていた。


 そんな中、カノンさんが一歩前へ出る。


「おかえりなさい、オウカさん。いえ、次期女王陛下とお呼びするべきでしょうか?」

「……うっわ。そういやそんな事もありましたね」

「オウカさんがいない間に正式な発表がありましたので、既に辞退は出来ない状態ですよ?」

「……後で陛下と話してきます」


 かんっぺきに忘れてたわ、それ。

 あったま痛い……


「ともあれ、お兄様を救ってくださってありがとうございます」

「や、ぶっちゃけタイミング良かっただけなんで」


 アレイさんを撃つ直前にあいつを止められたのはホント、偶然にすぎない。


 いやまー、リングがタイミングを見計らってたのかもしれないけどね。


「それでもですよ、英雄様」


 ニコニコと笑う美女カノンさん。眼福眼福。

 いや、でもさ。


「私は英雄なんかじゃありませんよ」



 リングを優しく握りしめて、笑う。




「私は、ただの町娘なんで」




〜Happy End〜






























◆視点変更:リュウゲジマコト◆



 ああ、終わってしまった。

 せっかく二百年かけて用意したのに、つまんないな。

 女神を騙して召喚されたふりをして、アレイ達を騙して最高の舞台を用意したのに。

 用意した死霊術師ネクロマンサーも無駄になっちゃったしなー。


 まあいっか。それなりに楽しめたし。


 さて、次はどうしようか。

 この世界では遊び尽くしたし。他の世界に渡ってもいいかもしれない。


 ボクはまだまだ遊び足りない。

 満足するまで、付き合ってもらおうか。


 遠見の魔法が込められた本を閉じて。

 ボクは笑った。



〜To Be continue?〜



お読みいただきありがとうございました。

これにて「さくら・ぶれっと」は完結です。

次回作は既にストックを準備していますので、お待ち頂けると嬉しいです。


【最後に作者からのお願い】

面白い!と思って頂けたら♡応援、★評価、コメント、レビューなどお願いします。

とても励みになります。


もし良ければ、さくら・ぶれっと完結アンケートに御協力ください!

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