さくら・ぶれっと 〜剣と魔法のファンタジー世界でどちらも使えない町娘の私はガンカタ(拳銃)で戦う。自分の生い立ちを知りたいだけで、英雄だなんて呼ばれたくないってば〜
2月14日特別編「感謝の気持ちを込めて」
2月14日特別編「感謝の気持ちを込めて」
鮭の塩辛良し。炙りベーコン良し。唐揚げ良し。
服のボタンはしっかりと閉めてるし、通信機も腰から提げている。
腰の後ろにはいつもの拳銃。これで準備は完了。
あとは可能な限りの行動パターンを予想しておく。
よっしゃ。王城に行きますか。
先日、オウカ食堂にレンジュさんが特製弁当を買いに来たんだけど、あいにく売り切れた直後だった。
お店の前で駄々をこねる騎士団長が迷惑だったので、思わず一言。
「あーもー……分かりました。今度おつまみ持っていきますから」
「まじでっ!? じゃあ今日は大人しく帰るねっ!!」
という訳で、朝イチで王城に向かっている。
さずかにこの時間ならお酒を飲んでることは無いだろうし、さっさと終わらせて帰るとしよう。
今日は一日お休みの日だから、その後街でも見て回るかなー。
「門兵さん、ちわーす。レンジュさん居ます?」
「オウカちゃんか。騎士団長なら執務室にいるぞ」
「……執務室? え、仕事してんですか?」
まじか。あのレンジュさんが真面目に仕事してるなんて……
どっか体調でも悪いんだろうか。
「カノンさんとアレイさんに仕事を溜めすぎって叱られたらしい。昨日からずっと執務室だよ」
「あー。なるほど」
どんだけ溜め込んでたんだ、あの人。
「あざます。んじゃそっち行ってみますね」
「ああ、気をつけてな」
ぶんぶか手を振って別れたあと、うろ覚えの道順を頼りに騎士団の執務室に向かう。
数えられる程しか行ったことないけど、何とか迷わずに到着する事が出来た。
ふむ。どうせなら驚かせてやろうかな。
コンコンとドアをノックして、こっそりと中に入る。
「ああ、追加の書類? そっちの作業台にお願い。あと、昼からの模擬戦闘訓練のスケジュール再チェックもは終わった?」
書類から目を離さず、真剣な顔で何やら書き込んでいる。
珍しく、私だって気が付いていないようだ。
真面目モードのレンジュさん、珍しいなー。
「あとそこの警備の日程表、ジオスに渡しておいて。無理のある箇所の修正は終わってるから。早めにね」
足音をたてず、ゆっくりと忍び寄る。
「王都周辺の魔物の発生率が高いな……また集団討伐に行く必要があるか。そうとなると、冒険者ギルドに依頼出さなきゃだね」
「てぇい!」
横からハグしてみた。
「うぉわっ!!」
「お。レンジュさんのレアな悲鳴、いただきましたー」
「え、オウカちゃん!? なんでここに!?」
「暗殺しに来ました」
「なに物騒なこと言ってんの!?」
おお、慌ててる慌ててる。もうちょい攻めてみるか。
ハグしたまま頬擦り。うりうり。
「ちょ、待って、今ダメだから少し時間ほしいんだけど、ねえ聞いてる!?」
「やーですよーだ」
ニヤニヤ笑いながら、ぐりぐりとほっぺたを押し付けてやる。
ふふーん。たまには仕返ししないとね。
「ふぐっ!? 顔が近……待った、理性が……!」
「えー? 嫌なんですかー?」
「嬉しいけども!」
「ならいいじゃないですかー」
ふふ。レンジュさん、攻められると弱いからなー。
ちょっと楽しいかもしんない。うりうり。
「…………よっし!! オウカちゃんいらっしゃいっ!!」
あ、いつもの調子に戻った。もーちょい遊びたかったのに。
「どーもです。約束通りおつまみ持って来ましたよ」
すぐさま離れてアイテムボックスから作り置きしておいた料理を取り出す。
レンジュさんの執務机の上は書類で埋まっていたので、横にあるサイドテーブルに並べて置いた。
「え、マジで作ってくれたのかなっ!?」
「そりゃ約束しましたからね。作りますよ」
「めちゃんこ嬉しいなっ!!」
「あとまー、今日はオマケもありますよー」
「どんなオマケかなっ!? オウカちゃんをプレゼントっ!?」
「そんな訳ないでしょうが……はい、どうぞ」
綺麗にラッピングされた小さな小箱を手渡した。
添えられたメッセージカードには、ハッピーバレンタインの一言。
二月の十四日。つまり今日はバレンタインデーと言われる日らしい。
日頃の感謝を込めてチョコレートを贈るんだとか、お店のお客さんから聞いた。
英雄が持ち込んだイベントだし、レンジュさんも知ってるはずだ。
「ありがとうっ!! これは本命かなっ!?」
……本命? なんだろ。今日の本命って意味かな?
まーある意味これが本命だけど。
「そうですね。甘さ控えめでリキュール入れてある特製品ですよ」
「……えっと、まじ?」
「まじです。頑張って作りました」
だいぶ試行錯誤したからなー。味見出来ないし、苦労したわ。
主に味見役のフローラちゃんが。
若干酔っ払ってたし。
「……あの、さすがに想定外なんだけど……オウカちゃんがこんなにデレるなんて……」
「よく分かんないですけど……いらないんですか?」
「いや絶対ほしいけどもっ!!」
「んじゃ、味わって食べてくださいね。ではでは」
調子を取り戻してセクハラされる前にさっさと帰っておこう。
「え? えぇっ!? ちょ、オウカちゃん帰るの!? 返事とかは!?」
返事? なにの? あー、感想の事か?
「また今度、時間がある時におねがいしますー」
ぱたんとドアを閉め、早足でその場から立ち去った。
いや、ここで開けられると恥ずかしいし。
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箱の中には特製チョレート。そして、小さな手紙。
『いつもありがとうございます。大好きです』
そんなもん目の前で見られたら恥ずかしくて死ぬ。
追い掛けてくる様子も無いし、他の人達にもチョコ渡して帰るか。
後日聞いた話によると、レンジュさんは二日間ほど真剣に何かを悩んでいたらしい。
お店に来た騎士団員さんに聞かされて、私は首を傾げるのであった。
……まあ、今度会った時に聞いてみるかな。
更に後日。超真剣な顔で私の部屋に来たレンジュさんと何があったかは秘密だ。
恥ずかしくて絶対誰にも言えない。
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