第197話


 王都から伸びる整備された街道。その先に広がる、大きな平原。

 見渡す限り視線を遮るものがないそこで、英雄達が戦っていた。

 アレイさんの言ってたとおり、黒い英雄が全部揃っている。


 

 相変わらず、デタラメな戦いだ。地面には大穴が空き、空には数え切れない程の光条が行き交っている。

 所々で見える火花はレンジュさんだろうか。

 他にも同等に斬り合うハヤトさんや、後方から援護するキョウスケさんの姿も見える。


 そして、その奥。

 一人で佇む、白い少女。

 その姿を目掛け、急降下する。



「いらっしゃいませ、お姉様。お待ちしておりました」

「セッカ! あんた、何のつもりよ!?」

「お姉様と踊るのに観客は不要と、前に申し上げましたよね?

 なので、邪魔が入らないように、皆を再生してみました」


 ……まじかコイツ。そんな事の為に王都を襲撃したのか?


「さあ、お姉様。遊びましょう?」

「くそ、この馬鹿!」


 何処からとも無く取り出した、一対の黒い拳銃。

 それに合わせ、私もホルダーから紅白の拳銃を抜いた。



「――Sakura-Drive Ready.」


「――Fenrirフェンリル-Drive Ready.」


Ignitionイグニション

whiteoutホワイトアウト


 平原に舞う、桜と雪。

 二色の魔力光が咲き乱れ、世界を彩る。


「うふふ……ああ、なんて素敵な事でしょう。この舞台は私たちだけのものです」

「黙れ。アンタを止めて、この戦いを終わらせる」


 セッカさえ停めれば、スクラップドールズの性能は劣化する。

 だからこそ。私が停めなければならない。


「では。踊りましょうか、愛しいお姉様?」

「踊ってやる。精々着いてきな」


 揃って同じ構え。

 腰を落とし、左手は前に突き出す。

 右手は肘を上に逆手、顔の横。


 桜と雪を纏い、対峙する。



「参ります。受け止めてくださいね?」



 地を舐めるほど低く駆けるセッカ。その軌道を読み、牽制の射撃。

 その射線を読んだのか、銃弾は容易く跳んで躱され、そのまま回転。遠心力を乗せて襲い来る黒い銃底。身を仰け反らせてやり過ごし、続く銃撃も同時に避ける。

 後ろに倒れ込み、地に両手を着いての蹴り上げ。しかし、その蹴りを足場にされ、高く跳ばれた。

 跳ね起きながらブースターを起動。私が真横に飛ぶのと同時に、白い魔弾が地を抉った。

 慣性を殺し、再加速。くるりと回転し、回し蹴り。

 白い魔力光を噴き出して回避された。しかしその回避先に突撃し、近距離から両手で発砲。

 くるりと縦に回り、私の頭上を通り過ぎていく白。

 振り返りざまに叩きつけた紅の銃底は、黒い銃底に受け止められた。



「ああ、なんて素敵な時間でしょう。愛しています、お姉様」

うるさい。いいから黙って撃たれてろ」



 白の拳銃で射撃するも、既にそこにセッカはいない。屈んで薄紅色の銃弾を避け、そのまま遠心力を付けて足払いを仕掛けてくる。跳び上がって回避。ぐるんと回転しながら振り回す紅の銃底。

 しかし、再度地を舐めるほど低く屈まれ、紅は空を切った。即座に左手でブースターを起動。上から下へ加速、膝を突き出すが、外側に受け流され、前に回転しながら着地。


 屈んだままその顔面に向け拳銃を突き出すと、眼前に黒い銃口あった。



 やはり、互角か。



「キリがないな」

「そうですわね。終わりがないダンスもまた良いのですが……少しばかり、本気で戯れましょうか」



「――Sakura-Drive:Limiter限定 release解除. Ready.」


「――Fenrir-Drive:Limiter release. Ready.」



「「Existイグジスト!」」



 紅蓮と純白。

 二色の極光がほとばしる。


 二人同時に、目の前の拳銃を外に逸らし、発砲。互いに首を傾けやり過ごし、周りながら逆手を振るう。

 弾き合う紅と黒。その反動を殺さず、逆方向に回転。寸分の狂いもなく同時に放たれた後ろ回し蹴り。相殺され、距離が離れる。

 地を蹴り、沈み込む。勢いを付けて下から抉るように打ち出した白い銃底は、黒い筒先を添えられて逸らされた。追撃。紅の銃撃。

 屈み込んでやり過ごし、真似るように黒の銃底を打ち上げるセッカ。流された私の体、その勢いのまま横に回転し、振るわれた銃底を蹴り飛ばして難を逃れた。


 上と下。紅と白を纏い、加速。


 回り、周り、廻る

 打ち付け、撃ち抜き、そのことごとくを躱す。


 まるで打ち合わせ通りのダンスのように。

 終わりの見えない輪舞曲ワルツのように。



 視界を覆う黒髪と焔の魔力光。

 その先に見える、純白の少女。


 ああ、なんて。

 美しい光景だろうか。



 互いに譲らない。攻め手と受け手が瞬時に入れ替わる。

 跳ぶ。廻る。蹴る。殴る。撃ち放つ。

 戯れのように。当たりはしない。


 軸足を狙った足払いを跳んで避けられるも、その浮いた体に蹴り上げ。その脚を踏み、縦に回転。踊る白銀の髪。


 突き出した右手の拳銃。

 同時に、私の胸元にも同じように筒先が向けられていた。



「ふ。ふふ……」

「は。はは……」



 二人して、笑う。


 悔しいが認めよう。私は今、最高に楽しい。

 これ程拮抗した戦いは始めてだ。

 心が躍る。血が沸き立つ。

 向けられる殺意が愛おしい。狂おしく、求める程に。



 ああ、おかしな事を考えているなと、自覚する。


 さすが、私の妹だ、などと。


 心の底から、思ってしまう。




「ねえ、お姉様。楽しいですね」

しゃくさわる話だけど、私もだよ」

「ずっとこのまま、踊っていたい気分です」

「ああ。だが、終わらせなきゃならないんだ」


 銃を突き付け合ったまま、揃って笑っている。

 異様な光景。しかし、この場に相応しい光景。


「残念です」

「そうだな」

「では。続きと」

「行こうか!」



 同時に目の前の拳銃を外に弾き飛ばし、空いた胴体に肘を差し込む。かち合い、拮抗。逆回転、銃底を叩きつけ、同時に弾かれ、再度回る。


 くるり、くるり、視界が回る。

 ふわり、ふわり、湧き出る魔力光が世界を変えていく。

 

 衝撃。お互いに避けられない角度の打撃、腕を引き戻して受けた。

 体が流れる。踏み止まり、拳銃を向け、発砲。



 にこり、と。セッカが笑った。



 その腹を、紅の魔弾が貫通した。

 驚きに一瞬体が固まる。

 それと同時に、私の腹に黒い魔弾が着弾した。



 何故だ。今の私の一撃は、避けられたはず。

 なのに敢えて当たりに行ったように見えた。


 それに、弾丸。私が撃った魔弾はセッカを貫通したけど、セッカが撃った魔弾は皮膚を貫いただけ。


「……どういうこと?」

「ふ、ふふ。お姉様と私では、勝利条件が違うのです」

「勝利条件?」

「私は一発当てるだけで良い。それで、目的は達成できました」


 ふらりとよろめき、穏やかに微笑む。


「私の魔弾は云わばワクチンのようなものなんです。つまり」


 ドクン、と。体が脈打った。


「お姉様を。それが私の勝利条件です」



 ――サーバー強制接続:矯正プログラム実行



「――オウカ!!」


 流れ込んでくる、情報。

 私が塗り潰されて行く。

 姿


「おかえりなさい、愛しのお姉様」



 ――緊急シークエンス起動。


 ――最優先事項を【生存】から【殲滅】に変更。


 ――対象の削除完了までリミッター限定解除。


 ――Type-0【killing Abyss】 再起動します。



「う……ぐ、ああぁぁああ!!」



 魂が叫ぶ。そして。

 

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