第157話


 しばらくしてカノンさんが落ち着いたあと。

 抱きついて頬ずりしてくるレンジュさんを引きずりながら、いつもの客室にやってきた。

 尚、陛下は自室へ戻り、アレイさんは動けないとの事で訓練所に置いてきた。


「んでまー。流通も店舗も人員も、なんとかなっちゃいました」

「なっちゃいましたか……」

「なっちゃいましたね。不思議なことに」


 海の中を列車走らせて、フリドールのギルマスが用意した店舗で、現地で雇った人だけでお店をやる、と。

 改めて考えると滅茶苦茶だな、これ。


「んーまあ、お店が落ち着くまでは向こうに居ようかとも思いますけど……ちょっと問題が」

「問題ですか?」

「いや、こっちの子達。私がいないと無理しそうで怖いんですよね」


 て言うか間違いなくやる。

 やらない訳がないと確信している。


「ああ。話は聞いていますが、そんなにですか?」

「ほっといたら一日中働こうとしますからね」

「それはまた……」

「店長が率先として働こうとしてますし。どうしたもんかなーと」

「んー。それでしたらあちらには使い魔を送りますか?」

「……うん? どゆことです?」

「お店にまとめ役が居たら良いんですよね? でしたら、カエデさんに頼めばなんとかなるかと」


 ……つかいま? なんだっけ、それ。


「そう言えば旅してる時に見張り役作ってたねっ!!」

「おかげで覗きを発見できましたね」

「……え、覗き?」

「女性陣が水浴びしてるところを覗こうとした輩がいまして」


 うっわ。命知らずな。


「首謀者は吊るしました。お兄様も見たいなら見たいと言ってくれたらいいのに」

「え。アレイさんが首謀者なんですか?」

「ちなみに共犯者はキョウスケさん以外の全員です」

「……あらま。ちょっと想像できないですけど」


 全員ってことは、ツカサさんとかハヤトさんとかもって事だよね?

 マコトさんは……どっち側だろ。ちょっと分かんないけど。


「珍しくお酒を飲んでいた様ですね。その場のノリだと供述してました」

「なるほど……あ、いや、じゃなくて。つかいまってなんですか?」

「なんと言うか……魔法で視覚や聴覚を共有できる生き物、ですね。

 猫だったり鳥だったり、色々種類がいます」


 おー。なんか凄いな、それ。

 遠くにいても見たり聞いたり出来るのは便利そうだ。

 言葉とかは話せるんだろうか。


「そちらをフリドールに配置したら良いのではないかと」

「んー……でもそれ、私にも使えるんですかね?」


 私、魔法も魔導具も使えないんだけど。


「その辺は直接聞いてみるのが良いと思います」

「なる。んじゃちょっと聞いてみますかね」

「ああ、多分そろそろこっちに来る頃かと。魔導列車に関して意見を聞きたかったので読んでおきました」

「おー。あざます。で、レンジュさんはそろそろ離れませんか?」


 さっきから地味に暑苦しい。

 そして、ちょっと居心地が良いのが逆に怖い。


「もうちょい堪能したいかなっ!!」

「はあ……まあ、いいですけど。最近慣れてきましたし」

「ついにオウカちゃんがデレたっ!?」

「調子に乗ってると風穴開けますよ?」

「ごめんなさいでしたっ!!」


 この人は……これさえ無けれは素直に尊敬出来るんだけどなー。

 何かとスキンシップ過剰なんだよね。

 多分、私の事を思ってなんだろうけど。

 それが余計たちが悪いというか、断りにくいんだよねー。


 そんなたわむれをしていると。


「お待たせしまし、た」


 ぱしゅん、っと聞きなれた音がして、カエデさんが転移してきた。

 おー。相変わらず可愛いなー。


「カエデさん。どもです」

「こんにち、は。それで、魔導列車だっけ。

 あれ凄いよね。馬車の客室を連ねるって発想が生まれる事自体もだけどそれを全自動で行えるゴーレムを短期間で開発して実用化できる当たりさすがマイスターイグニスだと思ったし刻まれてる魔導式には少し興味があるから今度実物を見てみたいかな」


「はいストップ。興味があるのは分かりましたけど、今日はそっちじゃなくてですね」


 カエデさん、相変わらずだなー。

 目がキラキラしてて可愛いけど……何言ってるか分からん。


「違うの?」

「オウカさんに使い魔を作ってほしいんです。出来ますか?」

「使い魔を? 自律式なら出来ると思うけど、感覚共有型は無理だと思う」

「あら、自律式ですか。緊急時に連絡させることは可能ですか?」

「可能だよ。但しその場の判断は任せることになっちゃうけど」

「ああ、そこは致し方無いかと。人員を向かわせるよりコスト面で楽でしょうし」


 うん。さっぱり意味が分かんないわ。


「……あの。つまり?」

「フリドールの支店に連絡役を置くことは可能だよ」

「おー。じゃあそれでお願いします」

「形はどうするの? 動物型かな?」

「んー。んじゃ、白猫で」

「白猫? ああ、昔飼ってたんだっけ」

「ですです」


 教会で飼ってたネーヴェは、とても綺麗な白猫だった。

 賢かったし、あの氷の都には似合うと思う。


「分かった。少し時間がかかるけど良いかな?」

「お願いしますー!」

「承りまし、た」


 あ、通常モードに戻った。

 

 んー……でも白猫かー。

 モフらせてくれる子だといいな。


「因みに、お話出来たりは?」

「出来る、よ」


 ふむふむ。なら、直接頼み込んでみるか。

 あ。白で思いだした。


「そういやカノンさん、フリドールでセッカに会いました」

「セッカ……話にあった白い少女ですか?」

「はい。なんか、戦い方とか私にそっくりでしたね」


 そっくりと言うか、ほとんど同じだった。

 立ち回り、力量、手札まで。

 姉妹機と言うだけはある。


 ……認めたくは、無いけれど。


「なんか、あいつ、ヤバいんですよね。どうしても身内って感覚が出てきちゃうんです」

「なるほど……オウカさん、次に遭遇したらすぐに連絡をください。私も直接話を聞いてみたいです」

「その時はアタシも行こっかなっ!!」

「分かりました。その時は通信機使いますねー」


 たぶん、他の人がいた方が良い気がするし。

 なんか流されちゃいそうで嫌なんだよね。


「よろしくねっ!!」

「や、ちょ、だから顔近いですって!」

「良いでは無いか良いでは無いかっ!!」

「良くないですって……あ、ちょ、何処に手ぇ入れて……ひゃんっ!?」

「ちょ……レンジュさん、やりすぎでは……?」

「わ……あれは、さすが、に」

「にゃははっ!! 大人の階段を登ろうねっ!!」


「そこは、だめ……だって、言ってんだろうがぁっ!!」



 今日も、王城に銃声が響き渡った。

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