第156話


 結局、食べきれない量のお菓子を貰ってしまい、アイテムボックスに入れてお持ち帰りすることになった。


 ……何だったんだろう、あれ。

 途中で宴会とか始まるし。

 英雄様に乾杯とか言われても困るんだけど。



 耐寒装備を万全の状態にして高空を飛び、アスーラに着いたのは昼過ぎだった。

 休憩も挟まず飛んでたのに、あまりお腹は空いていない。

 まーあんだけ食べたからなー。

 とりあえず、イグニスさんとこ、行くか。




 イグニスさんのお宅に着くと、なんか異様な事になっていた。


『む? オウカであるか。話は纏まったであるか?』

「……いやまー、纏まりましたけど。何してんですか?」

『見ての通りである』


 いや、見て分かんないから聞いてんだけど。

 なんでゴーレムの中に入ってんの、この人。

 しかもなんか丸っこくて可愛いし。


「いや、なんですかこれ」

『海中作業型ゴーレム君二号である』

「……あー。列車の線引くためのゴーレムですか」

『うむ。海は魔導具が無いと魔力が通りにくいのでな。直接操作した方が楽なのだ』

「なるほど……でもそれ、ゴーレムに入る必要はあるんですか?」

『いや、魔道具があれば遠隔でも事足りる。これは我輩の趣味であるな』


 言いきられた。

 うん、まあ。何でもいいけどさ。

 でもこの可愛いゴーレムから低めな良い声が聞こえるのは、ちょっと抵抗があると言うか。


「ええと……とりあえず、王都に戻ろうかと思うんですけど」

『待つのである。一つ頼みがある』

「え、なんですか?」

『出られんのだ』


 ……は? 出られない? ゴーレムからってこと?

 いや、転移魔法使えるよね、この人。


『様々な魔術式を刻んでいたら偶然、転移阻害機能まで付いてしまってな。昨日からこの状態なのだ』

「……なにしてんですか、ほんと」

『うむ。すまないが、一旦壊してくれ』

「……でもこれ、真ん中撃ち抜いたらダメなやつですよね?」

『我輩も貫通するであろうな。外側から地道に頼む』

「……。とりあえず、削りますよー」


 魔力をドリル型に形成して、地道に掘っていった。




「すまない、助かったのである。これで二度目だな」

「そですねー。とりあえず、大丈夫ですか?」

「うむ。眠い」

「……んじゃ、私行くんで。ゆっくり休んでください」

「ああ、次に来る時までには改良しておくのである」

「お願いします。毎回削るのは疲れるんで」


 地道に削ってったから時間かかったし。

 ハンマーとか作れたら良かったんだけど…

 魔力で作ったら重さが無いからなー。



 ……なんか、めっちゃ疲れたけど。

 まー、王都戻るか。うん。




 フリドールに比べて暖かな空を行き、森を通り越して王都に到着。

 んー。帰宅するより前に王城に行っとくか。

 早めに伝えないとカノンさんに怒られそうだし。


「門兵さん、ちわーす!」

「おう、オウカちゃん。通りなー」

「あざまーす!」


 既に顔パス状態だ。

 まーこんだけ頻繁に来てりゃねー。

 とりあえず、通してもらうか。



 広間に行くと、ツカサさんとエイカさんが居た。

 ……居た、んだけど。


「えーと……こんにちは。カノンさんいますか?」

「…カノンさんは今、王様と話してる」

「ありゃ。んじゃちょっと待とうかな」


 んー。タイミング悪かったな。しゃーないか。


「…たぶん、すぐに終わると思うよ」

「あいあいさー! んで、何やってんですか?」

「…鍛錬?」

「……なる、ほど?」



 なんか。上半身裸で腕立て伏せしてるツカサさん……ってゆか、あれ指立て伏せって言うのかな。

 右手の親指一本ですいすい動いてる、その背中に。

 恍惚な表情で、ツカサさんの背中を撫でてるエイカさんが乗っている。


 なんか、うん。関わっちゃいけない気がする。


「…オウカさんも、乗る?」

「遠慮しときます」


 やめてください。上に乗ってる人の目が怖いんで。

 私を巻き込まないで。



「んじゃアタシと遊ぼっかっ!!」


 ぽすんっ、と。

 後ろから何かがぶつかってきた。


 何かと言うか、レンジュさんが。


「おっと? 唐突すぎて訳分かんないですけど……いきなり抱きつくのは辞めてくださいね、レンジュさん」

「やっはろー!! 向こうでアレイと遊んでんだけど一緒にどうかなっ!?」


 遊んでた? なんか珍しいな。大体いつも訓練とかしてる気がするけど。


「アレイさんと何してたんですか?

「まあ見てのお楽しみかなっ!!」

「はあ……んじゃまー、暇ですし。見に行きます」

「一名様ご案内だねっ!! こっちだよっ!!」


 なんか、手を繋いで連行された。




 そんで、連行された先では。

 アレイさんが壁にもたれかかって座り込んでいた。

 ……ピクリとも動かないんだけど。え、生きてるよね?



「あの……アレイさん?」

「……ああ、オウカちゃんか」

「どしたんです?」

「……レンジュにフルボッコにされた」

「え。レンジュさん……?」


 こんなボロボロになるまで何してんだ、この人。


「いやいやっ!? ちょっと戦闘訓練してただけだからねっ!?」

「や、それはそれでどうなのかなーと思うんですが」


 世界最強の騎士団長と戦闘訓練とかめっちゃ大変そうなんだけど。

 どうせレンジュさんから言い出したんだろうけどさー。

 アレイさんも何で断らないんだろーね。


「でさっ!! ちょっと一緒に遊ぼっか!!」

「え、嫌です」

「断固たる拒否っ!?」

「痛いのもキツイのもセクハラも嫌なんで」

「痛くもキツくもないよっ!?」


 どうせならセクハラも否定してくんないかなー。


「はあ……で、何やるんですか?」

「んっとねっ!! ちょっとアタシと戦ってみてっ!!」

「は? 嫌ですよ」

「確固たる意志を持った拒否っ!?」


 負けるの確定してん何でやんなきゃなんないのよ。

 嫌に決まってるでしょーが。


「で。アレイさん、大丈夫ですか?」

「あー……まあ、大丈夫だ。生きてはいる」

「ほんと何されたんですか」

「まあ、やれば分かる。ちょっと付き合ってやってくれないか?」


 アレイさんまでそんなことを言い出した。

 えぇ……なんで? めっちゃ大変そうだし、メリットないんだけど。


「やですよ。痛そうだし」

「勝てたらカノンが褒めてくれるぞ」

「さてやりましょうか。ルールを教えてください」


 どんな手を使ってでも勝ちに行く。


「オウカちゃんのそゆとこ好きだなっ!! ルールはアタシを捕まえたら勝ちっ!!」

「あとはまあ、ハンデとしてレンジュは半径三メートルの円の中しか動けない、加護は使用不可だ」

「は? それだけ?」

「それだけだよっ!!」


 これならワンチャンいけるか?

 んー……まあ、やってみるかー。


「んじゃっ!! はじめっ!!」

「行きます……よっと!!」


 右手を伸ばす。半身になって普通に躱された。

 からの、左手。背を仰け反らせて回避される。


 む。体柔らかいなこの人。

 じゃあ足だ。スネを狙ってキック。


 うわ、バク宙して避けられた。

 ちょっとドヤ顔なのが可愛い。


 けど、うーん……これは、中々手強いな。


「ちなみになんだが。そのゲームクリア出来たの、ツカサだけだからな」

「……え。マジですか?」

「考えても見ろ。音速を超えるってことはって事だからな。

 当然、反応もできる訳だ」


 あ。なるほど。

 えーでもそれ、ズルくないか?

 確かに加護は使ってないけどさー。


「さあさっ!! オウカちゃんならどうするかなっ!?」

「んー……これ、なにしてもいいんですか?」

「自分を危険に晒すこと以外ならっ!!」

「あれは二度とやりません。じゃなくて……」


 ……これ、案外簡単なんじゃないだろうか。

 いやまあ、一部の人しか出来ないと思うけど。


「……実は私、フリドールに行ってきたんですよ」

「おやっ!? そうなのっ!?」

「あそこ、めっちゃ綺麗な街ですね。白くてキラキラしてました」


 うん。綺麗だったなー。また今度観光に行こう。


「雪とか降ってると更に良い感じだよねっ!!」

「でもアレですよね。こっちと違ってめっちゃ寒くて……」

「確かにっ!! あの寒さだけは頂けないねっ!!」

「なんかこう……寒いと人肌恋しくなりますよね」

「ちょっと分かる気がするかなっ!!」

「まだちょっと引きずってまして……ちょっと寂しいというか」




 両手を前に出して、じっと目を見つめながら、微笑む。




「レンジュさん、ぎゅーしてください」




「よろこんでっ!!」



 超速で飛び込んできた。

 はい、げっと。


「……はっ!? しまったっ!!」

「いえーい。勝ちましたよー」

「オウカちゃん……なんつーか、すげぇな」

「いやまー。レンジュさん用の対策はめっちゃ考えてますからねー」


 まあ、色々と。ある程度予想は出来るようになってきたしなー。

 てゆか想定してないと怖いんだよ。割とマジで。

 

「……んで、カノンさんはそろそろ戻って来ますかね?」

「あ? なんだ、気付いてなかったのか。ほれ、そこだ」

「んあ?」


 振り向くと。

 顔を横に向けて必死に笑いを堪えているカノンさんと。

 こっちを見てニヤニヤしている国王陛下の姿が。

 うっわ。まじか。今の、見られたよね?


「あー……ええっと。お久しぶりです、陛下」

「おお、久しぶりじゃな。またレンジュに勝ったのか。やるのう」

「レンジュさん相手に、真面目にやったらダメだって学びました」

「なるほどのう……確かに絡め手でしか勝てんじゃろうなぁ」

「……て言うか、なぜここに?」

「いやいや。オウカが来とると聞いての。ちょっと顔でも見ようかとな」


 え。それって、わざわざ私に会いに来てくれたってこと?

 うわ、恐れ多いというか、なんと言うか。


「それは、えーと。ありがとうございます……?」

「今日はどうしたんじゃ? また菓子でも持ってきてくれたのかの?」

「や、今日はフリドールから帰ってきた報告をしに来ました。詳しい話をカノンさんとしようと思って」

「そうかそうか。ゆっくりして行くと良い」


 うーん。こうして話してると、やっぱり気のいいおじいちゃんって感じなんだよなー。

 暖かい人柄が言葉に滲み出てるって言うか。


「ああ、それとレンジュや」

「なにかなっ!?」

「程々にの。やり過ぎは色々と良くないでの」

「……りょーかいっ!!」

「いや、了解したならそろそろ離れましょうか」


 ほっぺたを引っ張る。

 む。柔らかい。伸びる伸びる。


「ひょっほひひゃいはひゃっ!!」

「何言ってるか分かんないです……って、カノンさん?」


 未だに笑いを堪えているカノンさん。

 いこれ、大丈夫か?


「……っ。すみません、ふふ。ツボに入ってしまって……」

「まあ、何でも良いですけど。お話できます?」

「もう少し……お待ちくださいっ…」

「はあ……そですか」


 壁にもたれ掛かるアレイさん。

 私に抱きつくレンジュさん。

 なんかツボってるカノンさん。

 そして私たちを穏やかに見ている陛下。


 なんだこの状況。



 ……とりあえず、カノンさんが落ち着くの待つか。

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