第158話
エリーちゃんにフリドールのお土産を渡しに行ったところ。
なんか、店の前にいつかの金髪のが居た。
リュート、だっけか。でもあんなに日焼けしてたっけ。
それに、体も一回りくらいでかくなってないか?
「おー、久しぶりー。大会依頼ねー」
「……おう。まあ、王都に居なかったからな」
「あれ、そうなの?」
「仲間とエッセルにな。ワーム狩りをしてた」
「お。あの美味いやつか。いいなー」
前に屋台で食べたやつだ。
あれ意外と美味くて得した気分だったなー。
「……いや、割と命懸けだったんだけどな」
「でも美味しかったでしょ?」
「確かに、美味い事は美味かったな」
「だよね。美味しいは正義だからね」
ニカッと笑う。
美味しいものは人を幸せにする。
だから、正義なのである。うむ。
「……なあ、頼みがあるんだが、時間あるか?」
「んー? まーあるっちゃあるけど。なに?」
「俺と手合わせして欲しい。場所は…ギルドの裏でいいか」
「……はあ? なんで?」
「自分の成長を知りたい。出来れば、目標の達成も兼ねてな」
目標? あーなんか、大会の時もそんな事言ってたな。
しっかし……何がしたいんだ、コイツ。
ケンカ売ってる訳でもないし……なんか凄い真剣だし。
……んー。
「おっけ。んじゃまー、やろっか」
まー少しだけ、付き合ってみるか。
痛いのとかは嫌だけど、なんか理由があるっぽいし。
「すまん。じゃあ先に行って待ってるから」
「はいよー。エリーちゃんにお土産渡したらそっち行くわ」
とりあえず、手を振って別れた。
「エリーちゃん、やっほー」
「あ、オウカさん。お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「うん、実はフリドールに行ってきてねー」
「わぁ!! 氷の都ですか!?」
「そうそう。で、お土産持ってきたよ。着けてみてー」
ふわふわな飾りが着いた手袋を渡してみた。
「これ……フリドール製の革手袋ですか?」
「だよー。似合うかなって思ってさ」
「ありがとうございます!!」
可愛らしい意匠の手袋は、エリーちゃんの小さな手にピッタリだった。
やっぱり似合うなー。元が可愛いし、当然か。
「どうですか?」
「うん、めっちゃ可愛い。良かったわー」
「本当にありがとうございます」
「どういたしましてー」
手を
うーん。癒されるわー。
「あ、そういやさ。さっきまでリュート来てた?」
「はい、たまに顔を出してくれますね。あとは相談されたりとか」
「へー。なんの相談?」
「……絶対言えません」
断固として断られた。
「特にオウカさんにだけは言えません」
「……え、なんで?」
「なんででも、です」
「んー。まあ、いっか」
なんか気になるけど……ダメって言うなら仕方ない。
後で直接聞いてみるかなー。
あ、そだ。
「エリーちゃん、この後ひま?」
「はい、時間はありますよ」
「なんかリュートと戦うことになったんだけど……その後デートしない?」
「戦うんですか!?」
「え? あ、うん。何かそんな流れになった」
「そうですか……それ、私も見に行っていいですか?」
「いいんじゃないかなー。ギルドの裏だし」
そもそも人が集まる場所だもんね。
たぶん大丈夫、だと思う。
「んじゃ、行こっか」
「はい!!」
……なんか、エリーちゃんのテンション高いのが気になるけど。
まーいっか。とにかく、行ってみよう。
ギルド裏手の広場に到着したところ。
なんか、観客がめちゃんこ居た。
みんなエールや食べ物何かを片手に応援してて、完全に野次馬状態である。
始まってもないのに、何でこんな盛り上がってんだ?
「……来たか」
「うっす。ねえ、これなんの騒ぎ?」
「……事情を話したら、応援してくれる事になった」
「へー。好かれてんのね、アンタ」
よくわかんないけど、みんなに好かれてるのは良い事だ。
それだけでコイツが良い奴だって分かる気がする。
「いや。アイツら、完全に面白がってるだけだ」
「それも人望なんじゃない?」
「……まあ、悪い気分じゃないな。昔じゃ考えられないことだ」
「でっしょ? んじゃまー。やろっか?」
「ああ。互いに加減は無しだ」
「いやいや、アンタは加減しなさいよ」
見た目の体格からして大分差があるからね。
普通だったら誰かしら止めると思うんだけど…
まあ、冒険者ギルドだもんなー。
「大会優勝者が今更何を言ってるんだか……準備はいいか?」
「……んー。おけ。まあ、加減なしってんなら、そうするわ」
腰のホルダーから拳銃を抜き出し、相棒に声をかける。
「リング」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition」
高揚する心。湧き上がる戦意。
鮮やかな桜色が世界を照らす。
「さあ、踊ろうか。着いてきてね?」
「行くぞ、英雄。お前を倒して未来を手に入れる……!!」
構える。その視界の先に映る、鋭い眼光。
こちらを見据えた意志のある瞳。
この眼は知っている。
引けない理由がある人、その特有の眼だ。
事情は知らない。
けれど、加減をするなと言うのであれば。
その先にある何かを掴みたいと願うのであれば。
私は、全力で立ち向かおう。
地を低く駆ける、金髪。
右手に構えた短剣。その切っ先が、左右に踊る。
駆けながら跳ね回り、こちらの狙いを絞らせない。
銃口を向けると即座に移動し、徹底して射線から外れる動き。
速い。前よりも、かなり。
それに、上手い。よく対策されている。
拳銃を逆手に構え、回転。
ブースターを起動、速度を得て、下から打ち上げる。
横に跳んで回避される、その姿を追うように横回転。
加速、打ち付けた銃底は、短剣に受け止められた。
力が強い。判断が速い。
距離を離すと、食い付くように駆けてくる。
弾丸をばら撒くが、直撃する弾だけを受けられた。
再接近。閃く短剣。
銃口で軌道を逸らし、逆手で発砲。
胸元にヒット。しかし、障壁に防がれた。
敵の膝蹴りを足場にして跳躍。
真上から真下へ。魔弾の雨を降らせる。
両腕を十字に組み掲げ、急所への直撃を防がれた。
被弾箇所を確認。頭から腹にかけて、弾痕が無い。
両腕と両足に魔弾の残滓。
障壁は、全身ではない。
一旦間合いを離す。
少し厄介だ。
速く、力があり、強い。
胴体を狙っても弾の威力が削がれ、決定打にはならない。
ならば。火力を上げる。
魔力を圧縮させる。
銃口に桜色が収束される。
疾駆。額が触れ合うほどに近接。
胸と腹、両方を狙い射撃。
右手は短剣に逸らされ、しかし左側は直撃。
障壁を抜け、魔弾は胸に突き刺さった。
仰け反り。
追うように銃口を向けると、勢いのままバク転しながらの蹴り上げ。
咄嗟に躱すも、拳銃の狙いが外れて虚空を貫いた。
再び、間合いが開く。
鼓動が高鳴る。薄紅が舞い散る。
ドキドキする。まるで、恋焦がれるかのように。
「強いね。あの時より、全然」
「死ぬ気で訓練して得た力だ。簡単にはやらせない」
「……そっか。うん。私が間違っていた」
私だけを見て。私に勝つためだけに。
全てを振り絞って、戦っている相手に。
先のことを考えるのは、失礼だったね。
「ごめん、遅くなったね。ここからは、全力で行く!」
「――Sakura-Drive:Limiter release. Ready.」
「Exist!!」
焔を身に纏う。
命を燃やす。この瞬間に、全てを注ぎ込む。
「悪いけど、あまり持たないから。すぐに終わらせる」
慣性を無視して、真横に吹き翔ぶ。
すぐに逆噴射、ブースターを地に向け、空へ。
真上。太陽を背負い、爆進。
直下で私を見失ったリュート、その肩を目掛け。
縦に回転、踵を打ち付ける。
「がっ……!!」
ヒット。横に回転、反応を許さない速度で胸に銃底を叩き込む。
開いた間合い。それを爆発推進で無理矢理詰め、加速。
下から蹴り上げた。
日に焼けた体が、宙を舞う。
私を英雄と呼ぶのであれば。
悪いけど、負けてやれない。
打ち上げられた胴体を連続で撃ち抜く。
非殺傷弾の衝撃で、一撃毎に浮き上がる大きな体躯。
退避。降ってきた身体が、そのまま地に伏した。
真紅の魔力光が、残滓となって立ち上る。
「……ちっくしょう。届かねぇ」
「ごめんね。英雄と呼ばれた以上、負けられないから」
「あぁ……くそ。まだまだ遠いな……」
大の字に寝転がるリュートを見据え、戦意がないのを確認してサクラドライブを解除。
英雄の証は、真紅の塵と消えていった。
ホルダーに拳銃を戻し、屈み込んでじっと見つめる。
「でさー。何でそんなに私に勝ちたいのよ」
「……言えん。お前にだけは絶対」
「はあ? なんで?」
「……なんででもだ」
「えー? でもみんな知ってんでしょ?」
「それでも、お前にだけは、言わない」
なんだよ。私だけ仲間はずれかよ。
「当事者だから言えねぇんだよ……てか普通、気付くだろ、さすがに」
「あん? なんか言った?」
「……何も。ああ、また訓練やり直しだな」
「まーそこは頑張って。立てる?」
「ああ、大丈夫……っと」
「おおっと。あぶなっ!」
起き上がろうとして、ふらつく体を抱き抱えた。
ぐぬっ。重っ。
「ちょ、早く退いて、重い重い、潰れるから!!」
「あ、ああ……その、悪い」
「ほら、しゃきっとしなさいよ…ってか、うわ、顔真っ赤だけど大丈夫?」
やば、どっか変なとこ打ったか?
「いや……大丈夫、ていうか……」
「ごめん、変なとこぶつけた?」
「……いや、お前が無自覚なのは分かってたから、大丈夫だ」
「は? なにが?」
「気にするな……じゃあ、またな」
若干ふらふらしながら、リュートはみんなに背中を叩かれながらギルドの中に入って行った。
……相変わらず、よく分からん奴だわ。
「オウカさん……」
「あ、エリーちゃん。終わったからデートに行こっか」
「……あれ、天然ですか?」
「は? 何が?」
「…リュート君、頑張ってくださいね」
「……うん?」
なんか、エリーちゃんにジト目で見られた。
んー。私に何かしたんだろうか。
聞いても教えてくんないし……なんなんだ?
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