第141話


 という訳で翌日。

 ミールちゃんと希望者全員を連れ、カエデさんとこにやってきた。


「わ。たくさんいる、ね」

「思いのほか希望者がいまして。いっそ全員連れていこうって話になりました」


 その分、私が昨日お弁当の在庫を可能な限り作ってきたので、お店の方は問題ない。

 …………と思いたい。


 いや、まあ。フローラちゃんが半ギレだったので、こんど差し入れ持っていこうと思う。


「てな訳で。カエデさんところで魔法を学びたいって事なんですけど……大丈夫ですかね?」

「あ、うん。最初だけ、やり方を教えるか、ら。

 後は分からない時、に。聞きに来る、感じ、で」

「なる……ちなみに私が魔法使えるようになったりは?」

「……多分、無理じゃないか、な」


 わお。救国の魔法使いに断言されたわ。

 んーむ……でもやっぱ使えるようになりたいなー。

 せめて魔道具だけでも安定して使えないもんだろうか。

 私が触ると変な動き方するんだよねー。


 いやまあ、現状困ってはいないけど、なんかね。

 簡単な魔法ならみんな使えるのに、私だけってのは、ちょっとキツかったし。


「あ。で、この子がミールちゃんです」

「はじめましてー。ミールです」


 おー。フローラちゃんに教わったとおり、しっかり挨拶出来てる。

 偉いぞー。ちゃんとお辞儀もできたねー。


「ご挨拶できて、えらい、ね。私は、ミナヅキカエデだ、よ」

「知ってる! 絵本の英雄サマだよね!」

「そうだ、よ。それでね、ちょっと調べてみても、いいか、な?」

「うん! じゃなくて、えーと……お願いします?」

「いつも通りで、大丈夫だ、よ。じゃあ、手を出し、て」


 優しく微笑んで、ミールちゃんの手を取る。

 小さく頷くと、そっと目を閉じた。

 二人の足元から白い魔力光がふわふわと湧き出て来る。


「魔導式起動。展開領域に接続。施行。

 其は真。其は偽り。其は光。其は闇なれば。

 至れ。深淵に。汝が名を告げよ」


 魔力光が一際輝いた。

 かと思ったら、ぱしゅん、と。

 二人の姿が消え去ってしまった。


 あれ、今の転移魔法かな?

 いきなりどうしたんだろ。



 ……まあ、とりあえず、待つか。




 みんなの相手をしながらしばらく待っていると。

 ぱしゅん、と同じ音を立てて、二人が戻って来た。

 ……ん? 何か、カエデさんの表情……困ってる?


「転移魔法の暴発ですか……事態は把握できました。でも……」

「でも?」

「この子は魔法領域に接続不良があります。アストラルサイドの座標がずれてしまって、それに伴ってマテリアルサイドの座標が移動してますね」


「……うん? あすとらる……なんですか?」


 まったく意味が分からん。


「あ、ええっと。体と魂が上手く繋がってないって言ったらいいのかな。

 魂の方が勝手に動いちゃって、体がそれに着いて行っちゃう感じです」


 ……なるほど?

 よく分からんけども。とりあえず、魔法的な見方をしたら原因がわかったっぽい。

 でもなんか、聞いてる感じだと、ちょっとヤバそうな気がするんだけど。


「んーと。大丈夫なんですか?」

「完全に接続が途切れてる訳じゃないから特に問題はないと思う。でもこれは外部からの改善が難しいです。少なくとも私には無理かな」


「えーと。それ、王国中の誰でも無理って話では?」


「正直なところ、私以上に魔法式に詳しい人を知りません。

 ただ、本人が制御方法を学べばキャンセラーを常時展開出来るようになるので、そうなれば解消されるかも」


「……つまり?」

「ミールちゃんが魔法を覚えたら大丈夫かな」

「おお、分かりやすい。じゃあその方向で行きたいんですけど…カエデさん、いつ頃なら手が空いてますか?」

「研究が一段落したから、今なら大丈夫です」

「場所はどうしましょっか。王城に教えて貰いに来る感じで大丈夫そうです?」

「ええと。多分、お城は無理じゃないか、な。

 人数も多いか、ら。私が行った方が良いか、も」


 あ、喋り方が戻った。

 んー……好きなこと話してる時のキラキラ感も好きだけど、こっちの方が見てて癒されるなー。

 あっちは何言ってるか分かんない時あるし。


「それはありがたいんですけど、いいんですか?」

「大丈、夫。教えるの、楽しいか、ら」

「んー……了解です。それじゃ、曜日を決めてお店の方に来てもらう感じですかねー」

「うん。それで、いいか、な」


 そう言って、優しく微笑んでくれた。

 うわぁ。絵になるなー。



「……あの。今なんか、定期的に英雄様がお店に来るって言いました?」


 連れてきた子の内、年長組の子が頬を引きつらせながら聞いてきた。

 んー? なんだ?


「そう言ったけど。どしたー?」

「いや、オウカさん。何気にこれ、結構大事では?」

「何が? ……あ。そっか」


 なんか感覚がマヒしてたけど、救国の英雄だもんね。

 そりゃ確かに大事だわ。

 んー。でもなー。ぶっちゃけ、今更感あるしなー。


「まー何か問題あったらその時考えよっか」

「いや、まあ。僕たちとしてはとても嬉しいんですけど……」

「なら大丈夫じゃん。カエデさん優しいし、問題なしじゃない?」

「うーん……まあ、帰ったら分かりますよ」


 歳に似合わない苦笑い。

 ……なんだろ。何か忘れてる気がするけど。

 んー。まあ、思い出せないなら仕方ないか。


「んじゃ、そういう事で。よろしくお願いします」

「神託、承りまし、た……なんちゃって」

「あの、マジでお持ち帰りしていいですか?」

「え?」


 アレイさんの真似を照れながらするカエデさん、めちゃ可愛いんだけど。

 ……そゆとこ、アレイさんに見せたらいいのに。


「まーとりあえず、今日は帰りますね」

「ん。また、ね」


 愛らしい英雄様は、小さく手を振りながらお見送りをしてくれた。




 そして私は。とても大事な事を忘れていたようで。


「なるほど。つまり、定期的に英雄様がうちの店に来ると」

「……はい。そうなりました」


 フローラちゃん、激おこ。


「という事は、英雄様を見にお客さんも増えますよね?」

「……そうですね、はい」


 ぺし、ぺしと帳簿を叩きながら、無表情。


「更には、ただでさえ人手不足なのに数人いない状態のシフトを組めと。なるほど?」

「……いやほんと、ごめんなさい」


 あ、よく見るとコメカミに血管浮いてたわ。


「胃痛で死にそうなんですが」

「……てへっ?」


 小首を傾げて笑ってみた。

 こちらを見るフローラちゃんの視線が、更に冷たくなった。

 あ。やっべぇ。


「ちょっとそこで正座しましょうか。言いたいことが山ほどあります」

「……はい」



 フローラちゃんのお説教は、二時間続いた。

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