第140話


 状況を整理してみよう。

 昨日町から帰ってきて、夕飯と入浴を済ませて。

 髪を乾かしてから、少し本を読んで、寝た。

 もちろん鍵は掛けていた。




「リング。何があった?」

「――詳細不明。四時間ほど前:突如として現れました」

「……いやー。かんっぺきに忘れてたわ。そういや、こんなこともあったなー」


 最近無かったから油断してた。

 てゆかぶっちゃけ、忙しくて忘れてた。

 そういやカノンさんに相談して、そのままだったなー。

 ちょっと後で聞きに行ってみるか。


「……とりあえず。起きて服を着ようか、ミールちゃん」

「んう? ん……おはようございます」


 ミールちゃん来襲、再び。


 ……とりあえず、私も服着るか。




 とりあえず、ミールちゃんを部屋に返した後。

 王城。いつもの客室にて。


「てな訳なんですけど。何か進展ありました?」

「いえ、申し訳ないですが。特に報告は上がってきてないですね」

「んー……そですか。どうしたもんかなー」


 今日も美人なカノンさんは、少し困り顔で謝ってきた。

 うん。困ってるカノンさんもまた良き。

 ……じゃなくってさ。


「ここで情報入ってこないとなると……お手上げですかね」

「似たような事例があれば噂になると思うのですが…」

「ですよねえ……」


 朝起きたら女の子がベッドの中に居ました、とか。

 確実に噂になるよね。色んな意味で。

 普通に考えて、まず有り得ない状況だし。


 ……普通に、考えて?


「あの。これ、もしかしてカエデさん案件なのでは?」

「……あ。確かに。すみません、失念していました」

「んー。ダメ元でちょっと話してきます」

「はい。恐らく自室か書物庫に居るかと」

「ありがとうございます。んじゃ、行ってきます」


 とりあえず、探すかー。




 ……いや。うん。結果的に見つかったけど。なんてーかさ。

 まさか、こんなとこに居るとは、思わなかった。

 て言うか、めたんこ怖いんだけど。




 お城に隣接した塔の屋根の上。

 そこに腰掛ける、探し求めた目的の美少女。

 優しげに微笑む彼女は、まるで一枚の絵画のように美しかった。




 それは、それとして。

 ここ、くっそ高いんだけど。

 しかも、風強いし。

 落ちたら一発アウトなヤツなんですけども。


「……あの。カエデさん?」

「わ。あれ、オウカちゃ、ん?」

「はいどうも。貴女のオウカです。てか何故こんなとこに?」

「うん。ここは、お気に入りなんで、す。王都の人達の、暮らしが見えるか、ら」

「………。なるほど」


 魔族との戦争を終わらせた英雄。

 その後の復興に至るまで、世界を救ってくれた救世主達。

 彼らの努力の成果が、ここにある。


 まー確かに。最高の眺めだね、ここは。




 ただ。風が強いのは頂けない。

 今にも落ちそうなんだけど、私。


「あの……ちょっと相談があるんですけど……とりあえず、中に入りません?」

「そだ、ね。落ちたらトマトみたいに、なるから、ね」


 クスリと笑う英雄サマ。

 いや、笑い事じゃないんだけど。

 この人もたまに分かんない事言うよなー。




「無意識下の転移?」

「に、なるんですかね。朝気がついたらベットの中にいるんです。しかもドアの鍵かかったままで」


 ついでに真っ裸で。


「ん、どうだろ。魔法起動領域を意識せずに展開してるなら有り得るけど、転移魔法を使えるほどの魔力を持っていて制御出来ない事由は稀だと思う。けど、不定期に特定の場所という事なら他者の関与は無いと思う。あるとすれば特定行動を要因とした魔法式を無意識領域に刻み込んでる可能性かな。これは高度な技術が必要だけど私程度の知識があれば不可能ではないよ。ただし刻印に時間がかかるから本人の希望があるか長時間拘束するしか無いから今回のケースでは選択肢から除外しても良いかと思うな」


「待って。まったく意味分かりません」


 やば、スイッチ入っちゃったか。

 やっぱり魔法と料理の話振ったらこうなんのね。

 それはそれで可愛いけど……話が専門的すぎてついていけない。


「えーと。つまり?」

「話を聞いただけじゃ、分からないか、な」

「んー。なるほろ?」

「直接たら、何かわかるか、も」


 よっしゃ。フローラちゃんに相談して、明日にでも連れて来るか。


「……ところで、カエデさんって魔法の事どのくらい好きなんですか?」

「私の人生、そのものか、な」

「なるほど」

「オウカちゃん、も。勉強してみ、る?」

「結構です。どうせ使えないし」


 あ、でも、ワンチャンあるなら勉強してみるのもアリか?

 んー。最近忙しいから、手が空いてからかなー。


「魔法は学問としてもとても面白いよ。特に魔法式の刻印に関しては個人差が出るから一人でも多くのケースを見てみたいし何よりオウカちゃんは特例だから私とは違った魔法式を使ってそうだしとても興味が」


「はいストップ。止まりましょうか」


 いや、目がキラキラしてすっげぇ可愛んだけどさ。


「あ。ごめん、ね」

「んー。まあとりあえず、今回は遠慮しときます」

「そっか。興味が湧いたら、いつでも言ってきて、ね。

 知り合いの人とか、でもいい、よ」


 ほう、なるほど? つまり、専門家が直接魔法を教えてくれる、と。


「……。それって、年齢制限とかあります?」

「若ければ若いほ、ど。良いと思うか、な」

「んっと。もしかしたら、何人か連れてくるかも知れません」

「わ。大歓迎だ、よ」


 人生の選択肢は、多い方が良いと思うからね。

 特に子ども達にとっては。




 と言う訳で。困った時のフローラちゃん頼み。


「オウカさん、またですか。勘弁してください」

「……えへっ?」


 小首を傾げて笑ってみた。


「可愛くしてもダメです」

「んー。真面目な話、何とかならないかな?」

「いやまあ、何とかなりますけど」

「フローラちゃん愛してる」


 はぐはぐ。


「うわっ!? ちょっ!! 離れてくださいって!!」


 さすが店長、頼りになるわー。

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