第142話


 朝、冒険者ギルドに顔を出すと、リーザさんに呼び止められた。

 定期的に行われている集団討伐に参加して欲しいとの事。

 あいにく今回は希望者が少なく、手の空いてそうな私に声を掛けたらしい。


「おっけーです。んじゃちょっと行ってきまーす」

「あ、くれぐれも、無茶はしないでね?」

「善処しまーす」 


 まあ、あの森なら変なの出なきゃ大丈夫だと思うし。

 最悪の場合、通信機持ってるからね。

 ……うん。大丈夫だと思っておこう。




 とりあえず、いつもの森に到着。

 リングにマップを出してもらうと、既に人と魔物の光点がちらほら散らばっている。

 まーとりあえず、魔物が多いとこ行くかな。


「リング、頼んだ」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 臨戦態勢。桜色を纏い、地を駆ける。

 マップを頼りに、道すがらの敵を討伐しながら進む。




 視界を覆う木々の中。

 剣戟けんげきと怒号が聞こえてくる。

 敵数は七。味方が四。

 敵はゴブリン。武装している。



 敵味方が入り乱れている。迂闊に魔弾は使えない。

 ならば、突っ込む。



 腰部ブースター起動。低空を舞い、すれ違いざまに一匹の剣を横から蹴り飛ばす。

 正面に盾持ち。回転、銃底を打ち付け、盾を弾く。

 空いた胴体。回転。ブースター加速の遠心力を乗せ、胸を打つ。


 二匹を巻き込んで飛んでいくのを見やり、次の獲物へ。

 冒険者と切り結んでいるゴブリン、その横手から激突。

 悪足掻きに振り下ろされた剣は、銃口を添わせて流した。



「ありがてえ!! 『夜桜幻想トリガーハッピー』か!!」

「出来ればその名で呼ばないで欲しいんだけどね」



 冒険者と並んで、前へ。

 低く走り、敵の足を払う。

 作られた隙に突き出されたのは、冒険者の剣。

 胸を刺したのを視界の隅で捉え、横から襲い掛かる棍棒を躱す。


 敵と交差。入れ替わる瞬間、足を撃ち抜く。


 悲鳴を上げて倒れるゴブリンを、他の冒険者が始末してくれた。

 仲間を置いて逃げようとする奴を後ろから撃ち抜き、敵が体勢を立て直しきれない内に残りを撃破。



 マップを確認。周囲に敵性反応無し。

 よし。次だ。



「じゃ。気をつけてね」

「おう、助かったぜ。そっちも気をつけてな」

「ありがと。またね」



 疾駆。敵群は、近い。






 戦場を駆け巡り、ほとんどの敵性反応の撃破を確認。

 冒険者側に死者は無し。軽傷が数名。

 ほぼ最善の結果に胸を撫で下ろした。

 


 サクラドライブ解除。拳銃をホルダーに戻す。




 ……んー? よく見ると見知った顔が何人かいるなー。

 あ、あっちの人、いつも飴くれる人じゃん。怪我が無くて良かった。


「おう嬢ちゃん、さっきは助かったぜ」

「あ、さっきのおっちゃんじゃん。怪我は大丈夫?」

「こんなもんかすり傷だ。しっかし、大したもんだな、英雄ってのは」

「いや、私、英雄じゃないからね? ただの町娘だからね?」

「なんだ、まだ町娘名乗ってるのか。いい加減無理があるだろ」


 そんなことは決して……ない、と思いたい。

 かろうじて、ギリギリセーフじゃないかな、うん。


「俺たち全員分と同じ数を一人でやっておいて、ただの町娘は無いわ」

「うぐっ! いや、ほら。武器が強いだけだから」

「……まあ、構わんがな。ほれ、討伐証明部位も取り終わったから帰るぞ」

「はーい」


 おっちゃん達に囲まれて、わいわいと王都に向かう。

 んー。やっぱみんな、顔は怖いし荒っぽいけど、いい人達なんだよなー。

 ほんと、大きな怪我がなくて良かった。




 そんな事を考えていた矢先。



「――オウカ:敵性反応。魔力パターン類似。偽英雄です」

「……まーじか。おっちゃん達、ごめん。ちょっと先に帰ってて」

「あん? どうした?」

「私のお客さんが来たみたい。お出迎えしてくるわ」



 ブースターを起動。高空へ飛ぶ。

 さてさて、次は誰だろ。

 あと遭遇してないのはカエデさん、ツカサさん、レンジュさん。

 それにハルカさんとマコトさん、だよね。

 戦闘系じゃなければいいなー。




 やがて、見えてきた。

 森の横手にある草原に、黒い影が一つ。

 こちらを見上げるその顔は、カエデさんそっくりだった。


 両手を掲げると、大きな魔法陣が現れる。

 やば、空に居たら狙い撃ちされるわ。


 地面に降りて、そのまま走りながら通信機を取り出す。

 けれども。


「あれ? 反応しないんだけど」

「――魔力阻害粒子が散布されています。通信機、及び魔弾は使用できません」

「……は?」


 さっきの魔法陣か?

 え、てかそれ、ヤバくないか?


「サクラドライブはっ!?」

「――使用不可。撤退を推奨」

「マジで!? ちょ、この距離だと無理じゃない!?」

「――砲撃、来ます:回避を」

「ぎゃああぁぁああ!?」


 空中を覆い尽くすような、黒い魔弾。

 それから必死になって逃げ回る。


「無理だってこれ!! 空飛べないなら逃げらんないじゃん!!」

「――提案:撤退が不可なら距離を詰めるべきです」

「そうね!! 遠いと撃ち放題だからね!? でもこの中を走れってかなり無理がまたきたぁっ!?」


 また同じ量の魔弾が降り注ぐ。

 ヤバいヤバいヤバい!! とにかく逃げながら近づかないと!!



 間断無く飛んでくる魔弾を何とか避けながら、とにかく走る。

 あーもう!! 拳銃使えればこっちからも撃ち返せるのに!!

 あ、くっそ、アイツ笑ってやがる。ムカつく。



「リング!! 何とかならないのこれ!?」

「――詮索中:ですが、解決方法が見つかりません。

 ――魔法陣を破壊しない限り状況は打破できないかと」

「だろうねっ!?」



 なんつー厄介な。てか、一発の威力がおかしくない!?

 こんだけの量で当たったら終わりってめっちゃ怖いんだけど!!



「死んじゃう死んじゃう!! うぎゃあぁぁああ!!」



 ひたすら逃げ回る。

 途中、直撃コースだった魔弾に銃底をぶち当ててなんとか回避。

 よし、うちの子達拳銃の方が硬い!

 これならまだ行けるかも!

 でもこれ、めっちゃ心臓に悪いわ!!



「もうちょい、でぇ!!」



 避けて躱して走って跳んで、当たりそうなやつは打ち落として。

 何とか残り数メートルまで近付いた。

 この距離なら、行ける。



「く、ら、えぇぇっ!!」



 拳銃を振り回して銃底を叩き付ける。

 ガラスの割れるような音がして、魔法陣が消えてった。


 よっしゃ!!



「今までのお返しだぁっ!!」



 両手で発砲。私の放った魔弾は偽英雄の胸に当たり、そのまま敵は倒れる。

 どろどろと溶けていくそれを見ながら、尻もちをついた。




 いやー……何気に今までで一番ヤバかったんじゃないだろーか。

 心臓がすっごいバクバクいってるし。

 怖かったぁぁ……


「うひゃー……しんどいわー」

「――敵性反応無し:お疲れ様でした」

「あんがと……そだ、連絡入れとこ」


 通信機を取り出してボタンを押す。


「こちらオウカです。今までカエデさんの偽物と戦ってましたー。

 なんか魔力阻害粒子? ってのが出てたらしくて、通信機使えなかったです。以上」

『位置特定。周囲に動体無し……オウカさん、大丈夫でしたか?』

「エイカさん、どもです。死ぬかと思いました…」

『レンジュさんがそちらに行くそうです。すぐに到着するかと』

「おまたせっ!! 大丈夫かなっ!?」


 言うが早いか、最速の英雄が現れた。

 相変わらずだなー。


「おー。速いですね。いちお、大丈夫ではあります。けど」

「どうしたのっ!? 怪我でもしたっ!?」

「いえ、その……腰が抜けて立てません」


 レンジュさんの顔みたら安心して力が抜けちゃった。

 あ、手足が震えてるし。


「なるほどっ!! じゃあアタシが運んであげようっ!!」

「あはは。お願いします」

「りょーかいっ!! って、言いたいところだけどもっ!!」

「だけども?」


「――オウカ、敵性反応:魔力パターン類似。偽英雄です」


「今度はアタシのお客さんかなっ!?」



 最強の英雄が見つめる、その先に。

 同じ姿をした黒い偽物が、立っていた。

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