第136話


 ……。なんか。うるさくて目が覚めた。

 なんだよもー。人が寝てるってのに騒ぎ立てやがって。


 とりあえず、体を起こして見ると。



 ベッドの下で、アレイさんが正座してた。



 そしてそれを取り囲むように、カノンさん、レンジュさん、カエデさんが立っている。



 ……なんだこの状況。


 見回すと、エイカさんはいつも通りツカサさんにアタックしてて。

 ハヤトさんはキョウスケさんと談笑している。

 誰も止めようとしない……ってか、関わりたくないんだろーなー。


 よし。よく分かんないけど、二度寝するかー。

 巻き込まれたくないし。


「ああ、オウカさん。起きましたか」


 即効でカノンさんに見つかってしまった。くそう、逃避失敗。


「……おはようございます。何してんですか?」

「お兄様を尋問中です」


 尋問て。何があったし。


「んー? よく分からな……いったぁっ!?」



 ベッドに手を着いてみたら、腕に激痛が走った。

 ……あー。思い出した。



「そっか……あの後、どうなりました?」

「お兄様がアイシアとキスしてたそうです」

「……いや、それも気になりますけど。倒したんですよね?」

「ああ、オウカちゃんのおかげだ」

「そりゃ良かったです。右腕折ったかいがありましたね」


 そっか。倒せたんだ。

 記憶に残った最後の光景。

 漆黒の魔人を穿いた、アレイさんの姿。

 どうやら、夢ではなかったようだ。


 ……良かったと。思うべきなんだろう。

 あの人は平気で人を殺せる人だ。

 和解なんて出来なかったのは、分かる。


 分かっては、いるんだけど。


「うーむむ……で、アレイさん、何で正座してんですか?」

「アイシアの呪いだ」

「……はあ。よく分かりませんが、状況は理解しました……よっと」


 足で反動を付けて起き上がる。

 少し、腕が痛んだ。


「あ、応急処置しか、出来てないか、ら」

「あいあいさ。また昼頃になったら顔を出しますんで」

「ちょっと待った。オウカちゃんに聞かなきゃならんことが二つある」


 ちっ。逃げそこなったか。

 だよね。そりゃ、聞かれるよね。


「一つ目。あのアガートラームは、なんだ?」

「……さあ。出来る気がしたんでやりましたけど、理由は分かりません」


 何故出来たのか。何故そう思ったのか。

 理由なんて分からない。分からないけど。


「んー。憶測おくそくになっちゃうんですけど。

 多分あれ、最初から出来たんだと思うんですよね」


 ソウルシフト。偽物の英雄を倒した時に出てくるカードを使って、英雄の加護を模倣する力。

 私の分ですら持っているのだけれど。


「だって私、アレイさんの偽物と遭遇してないんです。

 なのに、ヴァンガードの能力だけは最初から使えるんですよね。

 その辺が関係してんのかなーと」

「最初から情報を持っていたって事か?」

「ですです。これ以上はまだ分かんないですけどね」


 まー。理由というか、なんて言うか。

 製作者側の狙いが、分かった気はするけど。

 それはまだ、言わない方が良いと思う。

 今度会ったら直接聞いてみよっかな。


「ふむ。で、二つ目なんだが。スクラップドールズ、という言葉に心当たりは?」

「スクラップドールズ? や、私は……リング、分かる?」

「――不明。データベースにありません」


 おっと珍しい。こいつに分からないことなんてあまり無いのに。


「リングも分かんないそうです」

「そうか……分かった。呼び止めてすまんな」

「いえいえ。んじゃ、弁解頑張ってください」

「……おう」



 この後起こるであろう修羅場に関しては、後でキョウスケさん辺りに聞いてみよう。

 今はちょっと疲れたから、家で休みたい。

 食堂の仕込みの手伝いに行きたかったけど……片手じゃ無理だし。




 そう言えば、忘れてたけど。

 うちって、ギルド職員寮の最上階にある訳で。

 そして私はいま、右腕折ってるから飛べない訳で。


「……やっと、着いたー」


 体力も魔力も使い果たした身に取って、その階段はもの凄い難関だった。

 うへぇ……つっかれたー。


「ふう……ただいまーっと」


 とりあえず、そのままベッドに倒れ込む。

 そろそろ掛け布団とマットレス干したいなー。


 ……さておき。


「リング。答え合わせといこうか?」

「――承知しました」

「アレイさんの加護。ヴァンガードじゃないよね?」

「肯定」


 アレイさんの『疾風迅雷ヴァンガード』の能力はいつも使っている。

 でも、これは二つ名であって、加護の名前ではない。


 全てを撃ち貫く『神造鉄杭アガートラーム』。

 それが、アレイさんの加護。

 意志を貫く力と、あらゆるものを貫く力。

 この二つが合わさったものが、アレイさんの加護だ。


「大体さ。ヴァンガード使っても特殊な能力が使えるわけじゃないんだよね」


堅城アヴァロン』のように障壁を出せる訳でも無いし、

闇を見透す第三の瞳ヘイムダル・バレット』みたいに視力が強化される訳でもない。

 ただ戦い方を真似られるだけ。そしてそれは。


「『疾風迅雷ヴァンガード』のソウルシフトの効果ってさ。直接私に効果がでるもんじゃないよね?」

「肯定:シマウチハヤトの例に類似」


 ハヤトさんの加護『変幻自在の魔剣デュランダル』は、私には使いこなせない。

 多種多様に姿を変える魔剣。しかし、私はそもそも剣を使えないので全く意味が無い。

 それに似ている。けど。


「……多分、だけど。ソウルシフトの『疾風迅雷ヴァンガード』って、『神造鉄杭アガートラーム』を使いこなせるようになる能力だ」

「――肯定:昨日の戦闘データより推測」

「だよねぇ。そりゃ分かんないはずだわ。見落としてた」


神造鉄杭アガートラーム』は、私が使った劣化版でさえ、反動で右腕が折れるほどの衝撃が来た。

 それを連発なんかしたら、普通なら体が持たない。

 使いこなすには、特別な力が必要だ。

 多分、本来はそれを加えた加護が『神造鉄杭アガートラーム』なのだろう。


神造鉄杭アガートラーム』の性能はおかしい。

 この世界のあらゆるものを貫ける力。

 それは、他の加護と比べてもかなり異質だ。

 そしてこの力は、他の加護とは違って、魔王を確実に倒すことができる。


「てことはさ。たぶん、順番が逆なんだ」


 アレイさんが願ったから与えられた加護では無く、『神造鉄杭アガートラーム』を使わせる為に加護を与えた。

 だからクラウディアさんは、十人も英雄を召喚んで、わざと願いを曲解して加護を与えた。


 ……んじゃないかなーと、思う。


「……これさー。クラウディアさんに確認するべきかな」

「――回答不能」

「だーよねー。確認しても特に意味ないし」


 ただ、思うのは。

 女神様は、魔王の倒し方を知っていた。

 それは、魔王がどういう存在か知っていたと言うこと。

 つまり。たぶん。魔王が生まれた理由も、知ってるんじゃないかなー。


 まー、私の想像でしかないけどさ。


「……まーいっか。とりあえず、お疲れ様。今日は一日だらだらしようかー」

「――推奨行動:お疲れ様でした」


 ぐでーっと伸びて。

 そのまま眠りに着いた。

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