第137話

 

 ゲルニカでの戦いから一週間後。

 ついにオウカ菓子店がオープンした。

 初日から凄い売れ方だったらしい。


 事前に準備していた分は午前中に完売。

 追加で作り足しても手が足りず、オウカ食堂からも何人か助っ人に行ったらしい。

 主な客層は若い女性と、意外なことに冒険者さん達。

 日持ちのする甘い菓子は携帯食として便利なんだとか。


 そしてほぼ同時期に、オウカ食堂アスーラ支店とビストール支店が営業開始した。

 どちらの店も結構いい感じに売り上げが伸びていて、今のところ目立ったトラブルはないとの事。

 開店から数日間は売り切れが続いたらしいけど、それも何とか乗り切ったらしい。

 とても喜ばしいことだ。



 と。フローラちゃんが言っていた。


 さすが本店店長。頼りになる。



「いやいや。店長じゃないですからね?」

「もーそろそろ店長でいいんじゃないかなー」


 実際、店長の仕事全部やってもらってるし。

 お店の名前もフローラ食堂に変えていいと思う。


「よくないですから。私は店長補佐です」

「たぶん、店員もお客さんもフローラちゃんが店長だと思ってるんじゃないかなー」

「そんな事は……ちょっとあなた達、何でそんな驚いた顔してるの?」


 なんでもないです、と。無言で首を横に振る新人の子達。


 そだよね。そう思うよね。

 みんなの認識的に、私はたまに下ごしらえ手伝いに来る人って感じだし。

 最近ベテランの子達がアスーラ支店に出張してくれてるから、代わりに私の事知らない子が結構増えてきたんだよね。

 帽子被ってればみんなに混じって居ても、案外バレないもんだ。


 ……背格好が周りと似てる訳では無い。と思いたい。


「あ、てかさ。食堂の方、新メニュー案があんだけど……時間ある?」

「時間はありますけど……オウカさんのお店なんですから、オウカさんが決めて良いのでは?」

「うんにゃ。ちょっと皆の意見を聞いてみたい。手間がかかるし」


 もちろん、お子様ランチの事である。

 揚げ物からハンバーグ、オムライスにプリンと多種多様なので、手間はもちろんコストもかかる……と、思う。

 その辺、私は採算とか考えずにやってるからよく分かんないんだよね。


「お店に出すかどうか、普段から働いてる子達に聞いてみたいんだよね」

「はあ……それでしたら、今晩みんなを集めましょうか?」

「お、じゃあそれで。せっかくだし、実際に食べてもらおっかな」


 そっちの方が分かりやすいだろうし。そうしよっかな。


「それは構いませんが…全部で五十人くらい居ますよ?」

「その程度なら大丈夫。慣れてるし」

「……改めて滅茶苦茶ですよね、オウカさん」

「慣れだよ、慣れ。んじゃ、よろしくねー」

「はいはい。ああ、それと……また隠れて作業してた件ですが」

「……じゃあまた夜にね!」

「あ、ちょ……」


 逃げるが勝ち。




 とりあえず自宅で夜の準備。

 メニューとしてはハンバーグ、エビフライ、唐揚げ、フライドポテト、ウインナー、花丸オムライス、特製プリンの七種類だ。

 これをそれぞれ50人前。中々に楽しい作業である。


 ハンバーグ。牛とオークのミンチを混ぜ合わせ、卵とパン粉で繋ぎ、塩コショウで味付け。

 他のメニューとの兼ね合いを考えて、強火で片面焼いたあとはひっくり返して蒸し焼きにしておく。

 全体的に油が多いからねー。ハンバーグはあっさり風味にしておこう。


 エビフライ、唐揚げ、フライドポテト、ウインナー。

 それぞれ下味や衣を付けておき、揚げ鍋の中を四つに区切ってそれぞれの場所で一気に揚げていく。

 この辺は特に問題ない。火傷にだけ注意しておけばポンポン作れてテンションが上がる。


 特製プリンは先に作って置いて冷やすだけ。

 こいつもレシピ通りに作れば特に問題ない。

 ちなみに、このプリンのレシピはフローラちゃんによって部外秘にさせられた。

 お店の売りだから他所で真似されると困るらしい。

 ……そんな大したもんじゃないんだけどなー。


 そしてメインのオムライス。

 人数分のオムレツを作るのが地味に大変だったりする。

 卵とミルク、砂糖なんかを混ぜて卵液を作っておいて、強火で焼いては丸めて行く。

 フライパンの持ち手をトントン叩くのが上手く巻くコツだ。

 お弁当として出さなきゃ行けないので余熱でしっかり火を通し、チキンライスの上にポンと置いたら、あと一手間。


 ケチャップでおっきな花丸を描いて、最後に旗を刺す。

 なんかこの旗が大事らしい。

 面白いし可愛いのでぜひ採用したい。



 これで完成。

 うん。やっぱ手間がかかるよなー。

 ある程度は作り置きにするか、数量限定になっちゃうかな。

 でも、みんなに教えてあげたいんだよね、これ。

 美味しくて、楽しい。それは絶対的に正義だから。


 あ、そだ。メニュー入りしなかったらオウカ特製弁当枠で作るか。

 お客さん達が広めてくれたら嬉しいなー。





「レギュラー化させましょう。すぐにでも」


 思いのほか絶賛された。


「手間を考えると料金は高めに設定すべきです。

 旗の種類を増やしてコレクションとしての価値も付与させた方が良いですね。

 専用のスタッフを用意するとなると…何人か候補がいるので担当させましょう。

 旗も手作りした方が売れ行きが上がります。

 そちらの材料に関しては木工ギルドに相談しに行きましょう」 


「え、うん……じゃあ、任せてもいいかな?」

「はい、明日の朝イチで手配します。ああ、レシピは書き出してありますか?」

「や、あるけど……」

「ください。今日中に書き写します。二週間を目標に店頭に並べましょう」


 フローラちゃん、ノリノリである。


「あの……そんなに大事なの、これ?」

「革命的なメニューです。王都の名産がまた一つ増えますね」



 うわお。さすが英雄のアイデア。



「全てのメニューを一度に、という発想も素晴らしいですが…

 何より今オウカ食堂間で流通している食材で足りるというのが良いですね。

 余分なコストがほとんど掛からず、新しく覚える料理も少なくて済みます。

 それに、この旗。食事に付加価値をつけるとは……さすがオウカさんですね」


 いや、ちょっと待とうか。


「待って、違うから。これ、私が考えたんじゃないから」


「あとは商品名ですね……分かりやすく、オウカの欲張り弁当などいかがですか?

 子どもでも覚えやすいので噂が広まるのも早いと思います」


「いや、そこは任せるけど……ちょっとねえ、聞いてる?」


「さあみんな! 通常業務の他にシフトを組み直しますよ!

 どうせ希望者を募っても全員になるでしょうから年長組だけ集合! 年少組は一旦帰宅、明日の朝礼でシフトを伝達します!」


「フローラちゃーん? おーい?」


「さあ、また忙しくなりますよ……!!

 オウカさん、本当にいつもありがとうございます。

 こんなに刺激的で楽しい日々が送れるなんて、私たちは幸せです」


「……あ、うん。どういたしまして」




 もういいや。諦めよう。

 とりあえず、みんな喜んでるからそれでいーや。

 ……あ、でも。夜更かししない事。これ、絶対だからね?

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