第135話
◆視点変更:カツラギアレイ◆
「くふ、くふふ……ああ、なんてこと。
アレイとの幸せな時間を、ほかの女に邪魔されるなんてね」
胸を貫かれて尚嗤う、魔族の姫。
美しく、艶やかに、俺の頬に残った左手を当てて。
消えてしまいそうなほど小さな声で、
「ああ、愛しい人。アレイ。やっぱり、私の終わりは貴方なのね」
「言ったろ。お前を撃ち抜くのは俺だ」
まあ実際にはオウカちゃんに助けられた訳だが。
やはり俺は、英雄なんて柄じゃない。
「くふふ……ああ、やっぱりダメだわ。もう長くは持たないみたい」
「そうかよ。清々するな」
「連れない人。ねえ、愛しのアレイ? 仲間が、出来たのね?」
「……そうだな。共に戦える仲間が、いつの間にか居たんだ」
「なら、安心ね。アナタはもう一人ではないのだから」
赤い三日月のような唇で。
微笑む。
「アイシア……俺は、お前が怖かった。
死の象徴。恐怖の具現。笑い方も、何もかも。
何より、俺に執着して来るのが、怖かったんだ」
「くふ。知ってるわよ。アナタの事だもの」
「……お前、本っ当に面倒臭い奴だな」
最初から分かってはいた。
何故アイシアが怖いのか。
誰より死に近い俺なんかに、執着してくること。
アイシアは俺を心から求めている。
それが歪んだ感情を元にした想いであっても、想いの強さは変わらない。
望まれること。それ事態が、怖かった。
「俺は、お前と一緒には行けない」
「知っていたわ。だから殺して、手に入れようとしたのに」
「悪いな。俺はまだ死ねないんだ。女神との約束を果たしてないからな」
「……あら? 魔王はもう、倒したのに?」
「違う。あのポンコツ女神が本当に願ったのは、魔王を倒すなんて事じゃない」
「俺はまだ、世界を救えていない」
瞬きを三回。呆然とした顔。
ああ、こいつ、こんな顔も出来たのか。
「……くふふ。欲張りな人。ああ、愛しいわ、アレイ。
やはりアナタは、私の英雄。
私を救ってくれた、優しくて弱い、最強の英雄」
「勘弁してくれ。英雄なんて柄じゃない」
それに。
「俺はひとりじゃない。仲間が助けてくれるなら、世界の一つくらい、きっと救えるだろ」
たとえこの身が英雄でなくても。
仲間たちと共に在り。
そして。意志を貫く事さえ出来れば。
ただの一般人でも、成し遂げることはできると。
俺はそう。信じている。
「ああ、なんて美しいの……本当に、アナタが欲しかったわ、アレイ」
「そうかよ。すまんな」
「……もう終わりが近いから、一つだけ。教えてあげる」
「なんだ?また呪いでも残して行くのか?」
「スクラップドールズが、そろそろ完成するわ」
「……おい待て、なんの話だ?」
「英雄が揃った。世界が再び回り出す。
だからこそ私は生まれ変わり、アナタともう一度、会うことが出来た」
「いや、言ってる意味が……」
胸倉を掴まれ、力づくで引き寄せられ。
しかし優しく、キスをされた。
「く、ふふ。ご馳走様」
「何を……」
「魔王から英雄に祝福と呪いを。これでアナタは私を忘れないでしょう?」
「……ほんと、最悪だな、お前」
「ねえ、アレイ。きっと世界を救ってね、愛しい人」
「……言われずとも救ってやる。お前はあの世で待ってろ」
「ええ、その時は……きっと、続きを。
また、
「……お断りだ。だが、茶飲み話くらいなら、付き合ってやる」
「くふふ。じゃあ、先に逝くわね。またね、愛しい英雄サマ」
「またな、魔王。いずれ、そちらに行く」
魔族の姫は、最後にもう一度微笑むと。
黒い塵となり、風と共に散って行った。
終わったと思うが同時に、膝が崩れる。
傷を負いすぎた。目眩が酷い。
「アレイっ!? 大丈夫かなっ!?」
駆け寄ってくる蓮樹に支えられ、なんとか意識を保つ。
まだだ。帰り着くまでは、終わらない。
「楓、オウカちゃんを観てくれ」
「大丈、夫。魔力が枯渇してるだ、け」
「……こいつ、本当に無茶苦茶するな」
「
「そだねっ!! かなり無茶するからねっ!!」
ペシリと額を叩かれる。
ああ、本当に。
仲間とは、ありがたいものだな。
「……ところでアレイ。さっきのキスは、何なのかな?」
「それ、私も、聞きたいか、な」
真顔の蓮樹と、不満そうな楓。
なるほど。確かに、呪いを残して行きやがった。
「まあ待て、とりあえず、帰ってからにしてくれ」
「……構わないけどもっ!! その時は歌音ちゃんも一緒だからねっ!!」
「私からも全部、説明しま、す」
「……勘弁してくれ。マジで」
世界を救う前に。
俺は仲間に殺されるかもしれない。
◆視点変更:???◆
英雄達が転移したのを見届け、隠蔽魔法を解除致しました。
さすがは英雄です。四天王の二人だけでなく、復活した魔王を倒してしまうなんて。
予想範囲内ではありましたが、確率は低かったのに。
それに、十一番目の英雄。世界のイレギュラー。
あの方が英雄達と共に居ること。それこそが奇跡的です。
ああ、なんて喜ばしい日なのでしょう。
英雄達は素晴らしい成果を残してくれました。
待っていてください、お姉様。
約束の日は近いです。
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