第133話


 襲いかかってくるもの。

 動くもの。

 見えるもの。

 その全てを、撃ち抜いた。


 乱れた呼吸を整える。

 荒れた鼓動を押さえ付ける。

 倒した数は覚えていないけど、見た感じだとかなりの数になる。

 これを全て、一人で倒した。


 サクラドライブ。

 これは、やっぱり危険なのかもしれない。

 ただの町娘。私の身体能力は他の子と大して変わらない。

 それなのにここまで戦えるのは、凄いのを通り越して怖いよね。


 ……でも。これがあるから、救えた命があった。

 借り物の力でも、守れたものがあった。

 これが私の運命なら、私が使うべき力なら。

 それでもいいのかなと、思う。



 桜色が、消える。

 戦意が途切れ、サクラドライブの効果が切れた。

 薄紅色の魔力光が音もなく散っていく。



 うーん。まー、今度誰かに相談してみっかなー。



◆視点変更:ハヤサカエイカ◆



「敵影無し。状況終了を確認……カエデさん、お疲れ様でした」


 上空を目視して敵が残ってない事を確認した後、素の状態に戻っているカエデさんにねぎらいの言葉をかけた。


「……ちょっと、疲れた、ね」

「相変わらずハイテンションでしたからね」


 魔法使用時のカエデさんの性格、嫌いじゃないけど、ちょっとやりづらい。


「……言わない、で。恥ずかしいか、ら」

「そうですか……しかしまあ、オウカさん、凄かっですね」

「笑ってた、ね。あれ、何匹倒したのか、な」

「目視できる範囲で三百は超えてますね」


 群れ、軍団レギオン、そんな範囲を超えた、言わば魔王軍そのもの。

 それを単体で狩り尽くした。

 まるで、公園で遊ぶ子どものように、無邪気に笑いながら。


「……。町娘?」 

「完全に、自称ですね」


 うん、早々に撤回すべきだと思う。



◆視点変更:オウカ◆



「あ、どもですー。お疲れ様でしたー!」



 二人の姿を見つけて、大きく手を振る。

 カエデさんが小さく手を振り返してくれてテンション上がった。

 あーいう何気無い仕草も可愛いんだよなー。


 駆け寄って両手を上げると、二人とも片手を上げてくれた。

 いえーいとハイタッチ。

 カエデさんは恥ずかしそうに、エイカさんは穏やかに微笑んで。

 うーむむ。ほんと、観賞用にお持ち帰りしたい。



「んで、どうしましょうか。レンジュさんとツカサさんは大丈夫ですかね?」

「あ、見に行ってみ、る?」

「え、いいんですか? 見たい見たいー!」

「んっと……じゃあレンジュさんの、所、に」

「あ、ちょっ、転移は……」




 ぱしゅんっ




 気付くのが遅かったか……目が回るー……

 うあー……ん? ここ、さっきの金髪さんが居た辺りか……な?



 えーと。なにこれ?

 何か……何も居ないのに、所々で火花だけ散ってるんだけど。

 あ、いや、金属同士がぶつかり合う音は聞こえるけど。



「あら珍しいですね。レンジュさんが本気で戦ってます」

「え、何か見えるんですか?」

「はい。加護の力ヘイムダル・バレットで。

 と言うかオウカさんも見えるのでは?」

「あー。なるほど。リング、できる?」

「――SoulShift_Model:Heimdall bullet. Ready?」

「Triggerっと。お、見え……た?」


 強化された視界の中では。

 金髪の男の人と、真顔のレンジュさんが、斬りあっていた。


 凄まじい速さで動き回り、受け、弾き、躱し、捌き。

 互いに譲らない。どちらが強いかなんて分からないけど、良い勝負に見える。


 凄い。いや、レンジュさんが凄いのは知ってたけど……

 相手の人、ルウザさんだっけ。あの最強の英雄と互角に戦っている。

 うわー。すっご。


 ……あ、止まった。

 なんか笑いあってるし。


「……キリがないな」

「……そうだねっ!! ちょっと終わりが見えないかなっ!?」

「なんだいきなり……ああ、そういう事か」


 ちらりとこちらに目を向け、問いかけてくる。


「お前達はコダマレンジュの仲間か?」

「え? あ、はい。そです」


 なんか見た目は派手だけど……落ち着いた男の人って感じだな。

 敵のはずなのに、話してて落ち着く。


「ふむ。なるほど……友の為に道化を演じるか。お前は、良い女だな」

「……。当然っ!! なんてったって最強だからねっ!!」

「ふ……さて。では、次の一太刀で終わらせようか。互いに力量も分かったであろう」

「おっけーっ!! 次で決めちゃうからねっ!!」



 距離を離し、二人が向かい合う。

 


「我流にて、名は無い。俺の最速の技だ」


「コダマリ児玉流ュウ、ゴクサイ極彩式シキ、シデンイ紫電一閃ッセン。

 アタシの一番得意な技だっ!!」



「いざ……」

「ではではっ!!」



「「尋常に立ち会おうかっ!!」」



 瞬間。『ヘイムダル・バレットエイカさんの加護』は起動してたし、瞬きもしていなかったのに。


 剣閃どころか、何も見えなかった。

 掛け声の後、立ち位置が入れ替わっていた二人が、そこに居た。


 その姿を追うように、横向きに雷が走る。

 パリパリと音を立てて二人に追いつくと、そのまま虚空へ消え去った。




「ふ……ふはははは!! コダマレンジュよ!!」


「……なにかなっ!?」




「素晴らしい時間だった…!! 見事也!!」




 叫ぶ。ルウザさんはそのまま。

 仰向けに大の字で倒れ込んだ。


「恐れ入った。この後に及んで峰打ちか」

「……ごめんねっ!! でも、許して欲しいなっ!!」

「敗者に語る言葉は無し。だが、赦されるなら、そうさな。

 また、立ち会いを希望する」

「うーん……まっ!! 機会があったらねっ!!」

「俺が勝ったら求婚させろ。お前はやはり、良い女だ」

「残念っ!! 先約がいるからねっ!!」


 私に飛び付いて楽しげに笑う、最強の英雄。

 え。先約って、私!?


「ほう。だが、鍛練のみでこの境地に至った俺だ。諦めは悪いぞ」

「そうかっ!! じゃあ次があったら頑張ってねっ!!」


 ちょ、抱きしめないで、暑くるしい!


「ははは……さあ、行け。魔王は此処では無い。知っているだろうがな」

「あたし達はお互いに時間稼ぎ役だからねっ!! あっちの事は心配してないけどねっ!!」

「お前にそこまで言わせるか。会ってみたいものだ」

「全部終わったら、王都に遊びに来てねっ!! それじゃねっ!!」

「達者でな」

「ばいばーいっ!!」


 いつものテンションで大きく手を振るレンジュさん。

 ……なんだ? なんか、違和感と言うか。


 んー。……分からん。分からんけども、とりあえず。


「お疲れ様でした。頑張ってくれたんですね」


 何となく、抱きしめた。


「………えっと? いや嬉しいんだけどもっ!! どうしたのかなっ!?」

「何となくですよ、理由は分かりません。でも、こうしたいなって」

「……オウカちゃんが、デレたっ!?」

「はいしゅーりょーでーす」

「あまりにも無慈悲っ!?」

「さって、ツカサさんとこ行きましょうかー。カエデさん、お願いします」

「……じゃあ、飛ぶ、よ」




 ぱしゅんっ





 やっぱ、ちとフラフラする……

 いや便利なんだけどね? 転移魔法。ちょっと慣れるまでが大変かも。


 ツカサさんは……あ、居た。けど。

 ……何してんだ、あれ。


「……ツカサ君? なーにーを、しているんですか?」


 恋する乙女が、人前では見せてはいけない顔になっていた。

 うわっ! こわっ!


「…エイカ?ああ、終わったのか。見ての通りだ」

「……二人でお茶してるように見えますけど!?」

「…そうだけど。なんか話が合って」


 二人揃って、岩場に腰掛けてのんびりとお茶を飲んでいる。


「あ、はい、どうも……フレイアです。彼女さんですか?」

「ツカサ君。フレイアさん、良い人ですね」

「…ああ。良い人だね」


 ちょろすぎる。安定のエイカさんだった。

 てかほんと、何してんだ勇者。


「あら、そちらの方……そうですか。ルウザさん、負けちゃいましたか」

「アタシの大勝利だねっ!!」

「では、ツカサさん。どうしますか?」

「…フレイアさんが俺たちを止めるなら、相手をするけど」

「うーん……立場上、止めなければならないんですよね」

「…分かった。じゃあ、やろうか」

「あの、優しくしてくださいね? 痛いの、苦手なので」


 足元のホコリを払って立ち上がる二人。

 ……なんだかなー。



「…ごめんなさい。多分、すごく痛いと思う。

 フレイアさんに当たる攻撃は一つしかないから」

「あら? もしかして、バレてます?」

「…うん。形を成した炎の精霊。それがフレイアさんだよね?」


 え、そなんだ。普通の人にしか見えないのに。

 ……あ、いや。言われてみれば、服の端っことか揺らめいてるな。


「正解です。と言うか、私に当たる攻撃が出来るんですか……ほんと、いつも不運です……」

「…なんか、ごめん」

「はい。一応、防衛だけはやらせて頂きますね」


 腕を上げる。それに伴って、フレイアさんの足元から炎の竜巻が巻き起こった。


 うわ、あっつ!? ここまで熱気届いてんだけど!


「…熱い」

「ごめんなさいね。でも、抵抗くらいはしないといけないから」

「…うん。じゃあ、行きます」


 告げてから。大きく、踏み込む。



 その一歩で地面が窪み。



 次に振るわれた左手は、炎の渦を切り裂いた。



 そのまま一足飛びに距離を詰め。



「…トオノリ遠野流ュウ、シャ芍薬ヤク」


 優しくお腹に右手を添わせ。

 物凄い音がして、フレイアさんの背中から衝撃波が飛んでった。




 ……は? なんだ、いまの。何が起こったの?


「…ごめんね」


 倒れてきたフレイアさんを抱き抱え……え、ちょ、なんかツカサさん燃えてないか!?


「ツカサ君!?」

「…大丈夫。服しか焼けてない」

「そっか。良かった……」


 いや、どんな体してんの、あの人。

 服が焼き焦げる温度でも火傷一つしないとか……勇者、やっばいな。


「あのー。今何したんですか?」

「…とおし。気の流れを制御して、打撃を相手の内部に留める技」

「……ごめんなさい、言ってる意味が分かりません」


 気ってなに? 魔力とは違うものなの?

 てゆか炎って物理的に殴れるものだっけ。


「…今度、説明するね」

「あ、はい。お願いします」

「…とりあえず、寝かせておけばいいかな……行こうか」

「んじゃラストはアレイさんとこですけど……行っても大丈夫ですかね?」


 最強の英雄二人が邪魔になるって言ってたけど。


「…大丈夫。俺が盾になるから」

「そうですか。ありがとうございます」

「…ん。カエデ」

「わかっ、た」

「ちょ、だから待っ……」



 ぱしゅんっ

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