第132話


 アレイさんが連れ去られてからおよそ十分ほど。

 開けた荒野の先に、敵が見えた。


 うじゃうじゃと居る魔物の群。

 その左右両端に、明らかに格が違うのが一人ずつ。

 金髪にオールバック、刀を腰に提げた男性と。

 赤髪にフワフワしたローブを着た女性。


「んーと。あれが四天王ですかね?」

「はい。金髪がルウザ、赤髪がフレイアです」

「んじゃアタシは金髪もーらいっ!!」

「…じゃあ、フレイアさんの方に行ってくる」

「おけです。んじゃ、私もちょっくら行ってきますね……って、もういないし」


 速すぎんだろ、二人とも。


「とりあえずお二方、空はお任せしても良いですか?」

「はい。空は私たちが担当します」

「任せ、て」

「よっしゃ。ではでは、景気付けの一発、行きますね」



「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition!! リング、やるよ!!」

「――OK. SoulShift_Model:Avalon. Ready?」

「Trigger!! 障壁を背部に展開!!」

「――Complete展開.Bullet装填Type完了 : Quadruple 四重収束Penetrate貫通弾. Ready Over.」


 数えるのも馬鹿らしい魔物達の大軍。

 その中心を狙い。


「撃ち抜けぇ!!」


 放たれる四重に束ねられた魔弾。

 射線上の全てを消し飛ばし、余波で背後の山を穿った。


「上出来! 突っ込むよ!」

「――了解。敵性個体、マップに表示します」

「お利口さんっ!」



 薄紅色の残滓ざんしを振り撒きながら、駆ける。

 こいつら全員、風穴開けてやろう。




「凄まじい火力ですね、今の砲撃……」

「うん……町娘は流石に、無理があるか、な」

「あんな町娘はいませんよね」

「そろそろ、撤回した方が、いいんじゃないか、な?」

「……さておき。私たちも仕事をしましょうか…『闇を見透す第三の瞳ヘイムダル・バレット』起動。

 我が魔弾はあまねく全てを撃ち墜す」

「そだ、ね……『天衣無縫ペルソナ』起動……

 ……ふはははは!! 実に愉快だ!! ならば私も全力で行こうじゃないか!!」



 構えられた超長距離狙撃銃ドラゴンイーターと、

 空を覆う程の巨大な魔法陣。


 二人の英雄による圧倒的な殲滅が開始された。




 低空を吹っ飛びながら、周囲の敵を撃ち抜く。

 狙い、撃ち、殴り飛ばし。

 廻りながら、加速する。


 敵の振り下ろしを銃底で捌き、その背後の敵ごと圧縮魔弾で撃墜。

 身体が火照ほてる。心が躍る。

 ここは私のステージだ。

 動くもの全てを倒すまで。


 さあ行こう。クルクル回って。

 さあ飛ぼう。ブースターで再加速。

 さあ、踊ろう。果ての見えない輪舞曲ロンドを。




 この身は、桜色の弾丸サクラブレット

 放たれた弾丸は、誰にも止められない。




「リング!! ヴァンガード!!」

「――SoulShift_Model:Vanguard. Ready?」

「Trigger!!」




 狂ったように加速する。

 銃底を振り抜き、慣性を殺さず回転、加速。

 速く、速く。

 迅速に、余すこと無く、喰い散らかせ。




「このまま行くよ!!」

「――Code:Vanguard How英雄の咆哮ling. Ready Over特攻準備完了.」

「おぅるぁあ!!」




 衝突。轟音。

 撥ね飛ばし、更に加速。

 まだまだ敵はたくさんいる。

 まだまだ、止まらない。

 加速し続ける。打ち抜き、撃ち放ち、立ち止まること無く。


 夜のような黒髪が揺れる中、

 視界に薄紅色の魔力光が散りばめられる。


 楽しくて、笑みが溢れる。




夜桜幻想トリガーハッピー』、その名を現しながら。

 ただ前へ、突き進む。




 楽しい。心地よい。心が燃える。

 けれども、頭は冷静に。

 確実に敵を仕留めていく。


「あはははは!!」


 その笑い声すら置き去りにして、駆ける。

 最早攻撃など当たらない。

 受け、逸らし、躱し、跳ね除ける。

 全方位が見えるような感覚。


 戦場に響く発砲音、怒号、笑い声。

 さあ。私と一緒に、踊ろう。

 この身が、この魔力が尽き果てるまで


 あと半分くらいしかいないけれど、ああ。



 この時間が、終わらなければ良いのに。



◆視点変更:コダマレンジュ◆



 戦場の中央から聞こえる、オウカちゃんの楽しげな笑い声。

 なるほど。トリガーハッピーとはまた、的を得た二つ名だ。

 あの子は事の本質を見極める観察眼を持ってるね。


「俺に挑むのは、貴殿一人か?」

「そうだね。此処は私に託されたから」

「成程。いやはや、敵が多人数で無いのは久方振りだ」

「アタシもそうだね。訓練以外だと、久しぶりだ」


 此処には他に誰もいない。

 ならば、道化の仮面は必要無い。


「名乗られよ、若き剣士よ」

「ユークリア王国騎士団長、児玉 蓮樹コダマレンジュ

 そちらは?」

「ルウザ。亡き魔王様より『雷王』の名を頂いた」

「分かった。覚えておくよ」

「語り継がれるは何方か一方のみか。それもまた、悪くない」

「そうだね。アタシ達には相応だね」


 彼は恐らく、強い。

 携えた刀、それは本来この世界に存在しない物。

 己で辿り着いたのか、それとも、誰かに託されたのか。

 何方にせよ、其れだけの地力があると言う事。


 久しぶりに、全力を出せそうだ。


「先に伝えておく。アタシの加護は『韋駄天セツナドライブ』。

 地を蹴る度、加速する能力だよ。

 そちらは、音を越えられるかな?」

「無論。俺の脚は雷と同速で駆ける。故に、雷王よ」

「それはまた。なら、話は早い」

「そうだな。では、殺し会おうか」

「いざ。推して参る」


 互いに駆け寄り、斬る。


 抜刀。

 剣速。

 太刀筋。

 威力。


 その全てが、同等。


「は。これはまた。若い人間と甘く見たか」

「アタシもだね。楽しめそうだ」


 鍔迫り合い。

 力も同等。ならば次は、己の鍛えた技。

 あちらも同様の考えの様で、同時に距離を取る。


「蓮樹とやら。流派を聞いても?」

「児玉流。異世界にて一子相伝の剣術だよ。そちらは?」

「すまない。俺は我流にて、俺の代で終いだ」


 我流。己一人の力でこの境地に辿り着いたと言うのか。

 なんと言う才能。心が躍るね。


「なら、ルウザ流と覚えておくよ」

「ふむ。悪くない心地だ。では、仕切り直すか。異世界からの客人よ」

「ああ。願わくば、この時間が刹那に消えないよう」

「然り。楽しもうではないか」


 斬撃。互いに斬り合い、身を躱し、受け流す。

 太刀筋が似ている為、次の攻撃が予想しやすい。

 其れはあちらも同じ様で、互いに笑みが溢れ出る。


 ああ、本当に。



 この時間が、終わらなければ良いのに。



◆視点変更:トオノツカサ◆



 戦うのは好きじゃない。

 でも、亜礼アレイさんに教えて貰ったことがある。

 戦う力があって、守りたいものがある。

 そして引けない理由があるなら、戦うしかない。

 それが、俺が憧れる人の生き方だ。


 亜礼さんは、強くない。

 身体能力も普通で、加護の恩恵も薄い。

 本人が言ってるように、一般の人と大して変わりはないかもしれない。


 それでもあの人は、いつでも俺たちの前にいた。

 胸を張って堂々と、俺たちに教えてくれた。


 正義が何なのか、俺はまだよく分かっていない。

 でも、亜礼さんは、俺にとって正義の味方、そのものだ。



 だから、任された以上。負ける訳にはいかない。



「…劫火のフレイアさん、で合ってる?」

「合っていますが……どうかその二つ名では呼ばないでください」

「……どうして?」

「私には過ぎた二つ名です。身に合いません」


 なるほど。ちょっと、阿礼アレイさんっぽい人だな

 少しやりずらい。


「…そっか。じゃあ、フレイアさんって呼ぶね」

「ありがとう。貴方の名前は?」

「…遠野司トオノツカサ。元一般人のバケモノだよ」

「そうですか……引いてもらう訳にはいきませんか?」

「…ごめん。俺には引けない理由があるから」


 戦うのは好きじゃない。

 試合とか、そういうのは良いけど。

 殺し合いとか、そんなのは、慣れない。


 でも、それでいいって、亜礼さんは言ってた。

 自分が正しいと思う道を行け。

 間違ってたら止めてやるって。

 だから俺は。


「…ごめんなさい。フレイアさんを、倒します」

「優しい子ですね。出来れば、こんな出会いをしたくなかった」

「…俺もです。普通に話し合えば、仲良くなれたかもしれない


 語り合う時間。すぐに戦わなきゃいけないんだろうけど。

 でも少しでも、相手の事を知っておきたい。

 そうしなきゃ、罪を背負うことすら出来ないから。


 ああ、でも。



 この時間が、終わらなければ良いのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る