第130話


「さて。お兄様へのお説教も終わった事ですし、今後の話を致しましょうか」


 長い……非常に長いお説教だった。

 同席したみんなも、途中からアレイさんに哀れんだ眼を向けていた。

 私も多分、同じような眼をしていると思う。


「敵を仮に魔王軍と呼称しますが、魔王軍がいるかもしれない以上、騎士団は自国待機が妥当です。

 となればやはり、私たちが行く他無いかと思われます」

「まあ、そうだろうな。前回と違って俺が狙いという訳でもないだろう。ゲルニカで戦ってる間に攻められる可能性は否定できん」

「マコトさんとハルカさんには残ってもらうのが良いかと。

 戦闘が行える加護持ちの内、何名かででゲルニカに向かい、敵を撃破するのが一番かと思われます」

「だな。その線で考えるか。魔王四天王が居たとしても、一人は倒して一人は味方、残るは二人だけだ。

 ならそいつらにはツカサとレンジュを当てて、残りを俺達が食い止める」

「となれば王国側は指揮官として私、遊撃手としてハヤト君が残る方が良いでしょうね」

「残りをカエデの転移魔法で移動させて、エイカに敵を補足してもらう、と。なんだ、最初の時と大して変わらんな」

「そうですね。いつもの事です」

「ならちゃっちゃと終わらせて、また酒でも飲みに行くか」

「私もご一緒します」


 笑い合う兄妹。



 とりあえず、何話してるかさっぱり分からん。

 強そうな敵はツカサさんとレンジュさんが引き受けるって事だけは理解出来た。


 ……てゆーかさ。

 七名がゲルニカに行くって言ってたけど。


 十人の英雄がいます。

 ハルカさん、マコトさんを引いて八名。

 カノンさん、ハヤトさんが残って残り六名。


 さて。残り一名は、誰のことかな?


 そもそも、なんで私はここにいるのかな?



「質問があります。それ、もしかして私も頭数に入ってませんか?」

「入ってるな」

「入ってますね」

「……いや、何で?」


 ちょっと待とうか。

 ただの町娘に何を求めてるのよ。

 それってつまり、ゲルニカまで行って戦って来いって事だよね?


「オウカちゃん。考えてみろ」

「……え。なんですか?」

「この戦い、もし俺たちが負けたら泥沼の戦争が始まる。また、大勢の人が死ぬことになるんだ。

 君はそれを、許せるのか?」


 思い出す、戦争時の記憶。

 私たちの町に、直接的な被害があった訳では無い。

 ただ、皆が、ずっと暗い顔をしていた日々。

 増えていく教会の子供たち。

 泣き喚く幼い子の声。


「無理ですね」

「だろ? 俺もそうだ。そして、どうしようも無いことに。

 俺には戦う力があり、守りたい物があり、引けない理由がある。

 だから、俺は行くんだ」

「えぇぇ……何か、ズルくないですか、その言い方」

「大人は狡いもんさ。いつだってな」


 ニヤリと笑う英雄。


「で、だ。列車の時と同じ事を、聞こうか?」

「……必要無いです。はい」


 降参。そう言われちゃったら、行くしかないじゃん。

 くっそう。いつか復讐してやる。


「改めてようこそ、英雄町娘さん」

「よろしくお願いします、英雄一般人さん」

「ただし、無茶はするなよ」

「アレイさんだけには言われたくないです」


 少なくとも私は、一人でドラゴンに挑んだりはしないし。

 ……たぶん。


「てか四天王って、具体的にどんな人なんですか?」

「ああ、イグニスは知ってるな? あと、前の戦いで一人倒している。

 残りは雷王のルウザ、劫火のフレイアだな。

 詳しいことは俺も知らんが……まあ、何とかなるだろ」


 なんだその物騒な名前。


「それ、本名なんですか?」

「知らん。俺らが来る前から呼ばれてる名前だからな。

 文句は先達に言ってくれ」

「はあ。で、いつ行くんですか?」

「早い方が良いが、どうする?俺たちはすぐにでも行けるんだが」

「……オーケーです。ぱぱっとやって、ささっと帰って来ましょうか。

 食堂の明日の仕込み、手伝いたいんで」


 善は急げって言うし。


「俺が言うのも何だが、良いのか?」

「良くないですよ。でも、嫌なことは早めに終わらせたい主義なんで」

「オーライ、気に入った。さて、行こうか」


 アレイさんとハイタッチ。

 んじゃまー。ちょっと行ってきますかねー。 




「いや、アレイさん。ちょっとええか?」


「何だハヤト。何か問題があったか?」

「そうやのうて……俺ら、朝飯も食っとらんけど」


 くぅ、と誰かのお腹が鳴った。

 ……誰だか分かんない事にしておこう。

 すっごい恥ずかしそうに俯いてる、大食いの英雄がいるし。


「……では、朝食後に向かいましょうか。

 その間、ハルカさん達や騎士団に伝達しておきます」

「そうしてくれ……しかし、この時間に料理長いるか?」

「ふむ。そういう事ならお任せください」


 アイテムボックスから簡易キッチンを展開。

 火元良し。水周り良し。食器良し。

 材料、アイテムボックスの中にたくさん。


「リクエストありますかー?」

「オムライスがいいなっ!! 花丸つきでっ!!」

「ほほう。私の得意料理の一つですね。お任せください。

 で、みんなそれでおーけーです? 他にリクエストは?」

「ああ、では折角ですし、お子様ランチにして貰いませんか?」


 お子様ランチ? なんだそれ。


「…賛成。あれは、ワクワクする」

「ツカサ君に賛成です」

「あの、お兄様……さっきまでのシリアス感はどこに行ったのでしょうか」

「さてな。それよりお子様ランチか……いつ以来だ?」

「私は、小学生以来で、す」


「……あの。すみません、お子様ランチって、なんですか?」



 みんなの説明を元に、とりあえず作ってみた。

 これめちゃくちゃ面倒だけど……お店で出すのはありかもしれない。


 今度みんなに提案してみよっかな。

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