第129話


 目が覚めると、光に満ち溢れた真っ白な空間に居た。

 またか。



〈オウカ。お久しぶりですね〉



 まるで天上の音楽のような美しい調べ。

 振り返ると、この世のものとは思えないほど綺麗な女性の姿。

 女神クラウディア。


 ……さてさて。こないだの手紙の件かな?


「お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」

〈アレイの夢に繋がらなかったので、オウカを呼びました。

 今日は伝えたい事があります〉

「お? 真面目な話ですか」

〈私はいつでも真面目ですが……特に深刻な話です〉


 うーん。恋愛相談って真面目な話と言えるんだろうか。

 さておき、深刻な話ってなんだ?

 わざわざ呼ぶくらいだし…魔王でも復活したとか?


〈ある意味、正解です。魔王の欠片をより集め、力を得た者がいます〉

「……うん? カケラ? え、魔王って倒されたんですよね?」

〈アレイに伝えてください。ゲルニカに彼女達はいます〉

「や、話に着いて行けてないんですけど」

〈アレイに話せば分かります。時間がありません。早急に伝えてください〉

「……なんかよく分かりませんけど、とりあえず伝えたら良いんですね?」

〈はい。世界に脅威が迫っています。宜しくお願いします〉


 世界の脅威。魔王。そして、英雄への伝言か。

 なーんでそんな大事なことを、私に言うかな。


 まーとにかく、承りました。

 明日にでも伝えに行きます。


〈また、世界を救ってください。頼みましたよ〉

「了解です。神託は必ず届けます」




〈……ところで、その。手紙はどうなりましたか?〉

「あー。なんて言うか…読めなかったみたいです。アレイさんの知らない言葉で書いてましたよね?」

〈……あっ〉

「今度直接聞くって言ってましたよ」

〈え、そんな、ちょっと待ってください。直接だなんて……〉

「乙女の気合いで乗り切ってください。ではまたー」

〈ちよっと待って! オウカ!〉


 悪いけど、私にはどうすることも出来ません。




 起きてすぐに王城に向かい、アレイさんを呼んでもらった。

 客室で待つこと十分。

 いつも通り覇気のないアレイさんがやってきた。


「おはようございます。アレイさん、大事なお話があります」

「おう、おはようさん。帰っていいか?」

「ダメです」

「嫌な予感しかしないんだが……話ってのは?」

「女神様から神託を受けました」

「またか。今度はオーク肉でも要求してきたか?」


「えーと。魔王のカケラを集めた人がいる。彼女達はゲルニカにいる、だそうです」


 表情が、変わった。


「魔王の欠片。確かにそう言ったんだな」

「はい。そう言ってました」

「神託、承った。わざわざ足を運んでもらって悪かったな。

 後は俺に任せてくれ」


 ……ほう。俺たち、じゃなくて、俺に、ね。

 やっぱりか。


「なるほどなるほどー」


 アイテムボックスから通信機を取り出す。


「オウカです。女神様より神託を受けました。

 行先はゲルニカ。アレイさんが単独行動する可能性があります」


「おまっ…なんて事を!?」

「なーにーがっ!! なんて事なのかにゃーっ!?」

「おー。お早いお着きで。おはようございます、レンジュさん」

「おはようっ!! 知らせてくれてありがとうねっ!!」


 さすがレンジュさん。行動が速くて助かるわー。


「……くそ、やってくれたな」

「どーせ一人で行く気だったんでしょ? 前回の話はカノンさんから聞いてますよ」


 二年前に魔王が復活した際、王国軍と冒険者、他の英雄達を置いて。

 一人で魔王軍に特攻したらしいからね、この人。


「予想通りです。残念でしたね、魔王殺しの英雄サマ?」

「くっそ……ふざけるな!! また子ども達を戦争に引っ張り出す気かお前は!!」


 鋭い目付きで恫喝する、救国の英雄。

 あのね。私もそろそろ限界なんだよ。


「ふざけてんのはどっちだ!! 残された方の身にもなれ、バカ!!

 アンタが死んだら皆悲しむんだよ!!」


 譲れない。

 この人は、何でもかんでも抱え込みすぎだ。

 少しは仲間を頼れ、石頭。


「……まーそれに、ほら。もう知られちゃった以上、単独行動は出来ませんからね。

 心配なら、貴方が守ってください」

「……くそったれ。分かった。一人では行かない」

「念の為、暫くはエイカさんに見張ってもらいましょう。

 私も定期的にリングに検索サーチしてもらいます」

「そこまでするのか!?」

「やりますよ。前科がありますからね、アレイさん」


 絶対一人では行かせないからね。

 何なら常に検索しても良いかもしれない。

  



 私とアレイさんが睨み合う中、不意に。

 レンジュさんがアレイさんを後ろから抱きしめた。




「…ねぇ、アレイ。ちゃんと連れてってよ。

 もう少し、アタシ達を頼って」


「レンジュ……信頼はしている。俺はただ……」


「子ども達には綺麗な世界だけを見ていて欲しい。アレイはそう言ったけどね。

 汚い部分も合わせて、世界なんだよ。

 アタシ達が居なかった二年間で、あの子達はそれを分かってる。

 だから、もういいんだよ」


「……そうか。知らない内に成長するもんだな」


「そうだよ。守られるだけの子ども達は、もういないんだ。

 だから今度は、仲間を頼ろう」


「ああ……そうだな」



 レンジュさんの手に自分の手を重ね、優しく微笑むアレイさん。




 尚。私はソファの上で頑張って気配を消している。

 人の目の前でイチャつくの、辞めてくんないかな。

 だいぶ気まずいんだけど。

 てゆかそろそろ、皆来ちゃうと思うけど。


「……あの。そろそろ皆、来ますよ?」

「……おう。なんか、すまんな」

「あ、アハハ……アタシは用事を思い出したからちょっと席を外すねっ!!」


 言うが早いか、レンジュさんは風より早く走り去って行った。

 あんだけしおらしい姿も、あんだけ顔真っ赤な所も初めてみたわ。


 

 やがて、他の皆もやってきた。

 怒ってたり、悲しそうだったり、苦笑いしてたり。

 けれどみんな、どこか優しい眼をしていた。

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