第121話


 気がつくとやはり王城に運ばれていた。

 カエデさんが応急的に、折れた骨や傷ついた内蔵などを治してくれたらしい。

 魔力が回復したら改めてキョウスケさんが治してくれるんだとか。


 みんなにお礼を伝えてから帰宅すると、そのままベッドに倒れ込み、うつ伏せのまま眠ってしまった。



 お昼にお腹が空いて目が覚めた。

 軽食をとり、ついでに入浴を済ませて、治療院に向かい。


 カエデさんとキョウスケさんの二人から、一日安静にするよう言われてしまった。

 改めて治療してもらった後、帰宅して更に爆睡。


 なんかね。魔力足りなくなると眠くなるっぽい。

 もしかしたら、毎回意識失ってるんじゃなくて、寝てるだけなのかもしれない。



 結局起きたのは夕方だった。

 ぴょんぴょん跳ねた髪は直すのが面倒なので、ブラシでといて深めに帽子を被っておく。

 どうせ今日は何の用事も入れられないし。



 冒険者ギルドに顔を出し、一応依頼表をチェックしてみる。

 特に緊急なものもないので、椅子に腰掛けて足をぷらぷら揺らす。

 ……暇だ。



 何となく眺めていると、結構出入りが激しいのが分かる。

 意気揚々とギルドを出ていく人達。

 疲れた顔で受付に向かう人達。

 今日の活躍を語り合ってる人達。

 まだ夕方なのに宴会を始める人達。



 そして、それらの対応を笑顔で行う受付のお姉さん達。

 あれ、疲れないのかな。

 私ならずっと笑顔作ってたらほっぺた顔が固まっちゃいそうだけどなー。

 冒険者のみんなは結構お人好しが多いから、そうでも無いのかな。

 ……昨日の、あの男とは違って。



 あの後、あの人はどうなったんだろう。

 片腕が千切れた状態で、王都に辿り着けたんだろうか。

 普段どんな生活をしてるんだろう。

 やせ細っていたし、ちゃんとご飯食べれてるんだろうか。


 この後に及んで、心配してしまっている私がいる。


 人に殺されかけたのは、初めてだった。

 敵意を向けられる事は何度もあった。

 けれど、殺意を持って殺しに来る人は今まで居なかった。

 怖かった。ぶるりと身震いする。

 

 あの時。ツカサさんが間に合わなかったら。

 私は殺されていたんだろうなと思うと。

 なんだかアバラが痛むような、気がする。


 普段穏やかなツカサさんが怒っていた。

 それだけの事態だったのだ。

 それだけの事態だったのに。


 それでも多分。私は同じことを繰り返すのだろう。


 心配をかけて。

 怒られて。

 叱られて。

 騙されて。

 裏切られて。


 それでも。

 私は目の前で困っている人がいるなら。

 それを助けずには居られないのだと思う。



 何故だろう、とは思わない。

 私の尊敬する人が、そんな生き方をしていたからだ。

 強くて優しくて、怒ると怖くて。

 でも、その笑顔は心から安心できて。

 大好きな人。

 恥ずかしくて絶対言えないけど、私達のお母さん。


 シスター・ナリア。私の英雄。

 その姿に憧れた。

 だからこそ、同じ道を歩みたいと思った。

 私の全てを受け入れてくれたあの人みたいに。


 出来ることには限りがある。

 全部を救いたいなんて、傲慢だと思う。

 けれどせめて、私の手が届く範囲なら。

 助けたいと、思ってしまう。

 それは、悪いこと、なのだろうか。

 分からないけど。でも。

 私はそうありたいと思っている。



「…ねーリング。私は、ワガママなのかな」

「――私見:オウカの行動は理解の範疇はんちゅうを超えることがあります」

「あー。ま、そうだよね。私自身も意味わかんない時あるし」

「――ですが、オウカの行動で助かった人達がいるのは事実です」

「……ん。ありがとね、相棒」


 誰かのために、なれているといいな。



「……んで、リーザさん。どしたんですか?」

「あら。気づいてたのね。驚かせようとしたんだけど」

「そりゃ正面から歩いてきたら気づきますって」

「何か考え込んでるから行けるかもって」

「んなわけないでしょ。リーザさん存在感凄いですし」


 特に一部分が。どことは言わないけど。


「ね。あっち、見て」

「んあ? 何ですか、あの人だかり」

「いつも元気なオウカちゃんが大人しいから、みんな心配してるのよ」

「……あれま。そりゃすみません」


 心配かけちゃったかー。悪いことしちゃったなー。


「あそこにいるみんな、オウカちゃんの事大好きだからね」

「そうなんですか?なんかいつも遠巻きにひそひそ話されてますけど」

「あー。それはまあ、ね。照れ隠しみたいなものかな」

「……。よーわからん」


 でも、ちょっと嬉しいかも。

 向けられる視線は確かに好意的なものに感じる。

 温かな、眼差し。


「えーと。なんだろ。お礼言った方がいいんですかね?」

「普段のオウカちゃんになれば、みんな喜ぶと思うわよ」

「んー。まあ、明日には戻ってるかと思います」

「そう……何かあったら遠慮なく相談してね」

「いつも頼りにしてます」


 何となく気恥しいけど。

 周りの人達には、本当に感謝している。

 いつだって明るく振る舞えるのは、周りの人達のおかげだ。



 だからこそ。守りたいものがあって。

 だからこそ。譲れないものがある。



「……とりあえず、ご飯食べてきます」

「あら。いつもの宿屋?」

「はい。あそこの料理、美味しいので」


 とにかくあれだ。

 美味いもの食って、寝て。

 また、頑張ろう。


 いつだって、美味しいは正義だ。

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