第122話


 グラッドさんに呼び出され、私は昼前くらいに街門に足を運んでいた。

 今思うと、身嗜みだしなみを整えて来いと言われた時点で疑問に思うべきだった。




 確かに私はお願いした。

 王都ユークリア、アスーラ、ビストール間の流通を便利にしてほしいって。

 支店を出すに当たって食材などの調達をどうにかしたいって、イグニスさんにお願いしてたよ。

 でもさ。



 いま、目の前には。

 小さな小屋のような発着地点。

 下には鉄の線が二本、どこまでも繋がっていて。

 でっかい馬車。それが幾つも連なった形の乗り物。

 そして、馬車を引っ張る、でっかい車輪の着いた四角いゴーレム。


 なんだこいつ。ちょっと可愛いなー。



 とか。現実逃避してみたり。




 なんかね。思ってたより、大事になってる気がする。

 各街のお偉いさんとか、商業ギルドの人とか、有名な貴族様とか居る。

 あ、あそこに居るの、うちの町の領主様だー。



 そして、何故か居る、国王様。

 その横にはアレイさんとカノンさんの姿もある。


 みんなの前には、胸を張って堂々と立っている、事の張本人であるイグニス・フォレンシアさん。


 とりあえず引っ張り出した。




「おお、オウカであるか。見たまえ、これが吾輩の最高傑作、魔導列車型ゴーレム君一号である」

「待って。ちょっと待って。自走式なんちゃらゴーレムはどこいった」

「あれの改良型であるな」


 改良型て。そんな範疇をこえてないか?


「……ねえこの下の線、なに?」

「うむ、異世界の技術でな。線路という。この上を走らせる訳だ」

「……。んで、あの小屋は?」

「駅、という。魔導列車型ゴーレム君一号の発着点であり、人や荷物を上げ下ろしする場所であるな」


 当初の予想だと。

 走ることに特化したゴーレムが荷物を運んでくれるんだと思ってたんだけど。


 ねー。これさー。

 もしかしなくても、ヤバい事態なんじゃなかろうか。

 ほら、カノンさん、笑ってるようで目が笑ってないしさー。


「とりあえず、これ、私は関与してないって言ってくださいね?

 ほんっと頼みますから、ね?」

「む? しかしだな…」

「いやまじでお願いします。私、カノンさんに何言われるかわかんないし」

「あーいや、そうではなくてな。見たまえ」


 魔導なんちゃらゴーレム君を指差す。

 その先には、一つの彫刻エンブレム


 黒髪の乙女。オウカ食堂のモチーフが、そこに描かれていた。




 私は膝から崩れ落ちた。




「では簡単に説明をさせて頂く。

 まず吾輩はイグニス・フォレンシア。見ての通り魔族である。

 このゴーレムは魔導列車型ゴーレム君一号。

 地面に敷かれた鉄の線、線路の上を走るゴーレムである。

 馬より早く地を駆け、ゴーレムなので休むことなく走り続けることができるのである」


 ざわりと。皆がどよめいた。


「また、後ろの客室や貨物車に人や荷を乗せることができる。

 行先は限定されるとは言え、正に流通の革命とも言える代物しろものであろうな」


 そしてこちらに手を向け。


「此度はオウカ食堂より依頼を受け、英雄リュウゲジマコトにアドバイスを貰い、この魔導列車型ゴーレム君一号を開発した次第である。

 この様な機会を貰えたことを女神様に感謝している」


 ざわりと。皆がこちらを見た。

 やめてやめてこっちに話振らないで!

 私は途中から何も関与してないから!

 てかマコトさん、何て事してくれてんだ!



 うっわ。さすがにこんなメンツに注目されるのは、かなり怖い。

 下手な事したら不敬罪とか……ならないよね? 大丈夫だよね?

 内心ビクビクしながら、顔を見られないように少しうつむく。


 そしてさらに。



「さあオウカ。皆に一言、頼むのである」

「はぁっ!?」


 いきなりの無茶振りで追い詰められた。


 え、ちょ、唐突すぎない!?

 なんか、顔見知りの人達が笑いを堪えてるし…


 ……えぇい!! やりゃいいんでしょ、やりゃあ!?



「……リング。頼んだ」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 俯いたまま小声で発動する。

 いつも私に勇気をくれる、薄紅色の奔流。

 それがいつにも増して、頼もしく見えた。

 こんな時に何だけど、本当に助かるわ。



 うん、大丈夫。さあ、行こうか。

 風になびく黒髪を抑え、皆の前に立つ。




「お集まりの皆様。貴族様、英雄様、そして、国王陛下。

 私はオウカ。冒険者をしている、ただの町娘です。

 このような場に立つのは初めてなので、無礼があっても許してくれるとありがたいです」


 お偉い方々の言葉遣いなんて知らないけど。

 背筋を伸ばし、声を張り、堂々と。

 そして、笑顔を忘れないこと。

 シスター・ナリアに教わった、人と話す時の礼儀を忘れずに。


「現在王都ユークリアでオウカ食堂という弁当屋をやっています。

 そして今度、アスーラとビストールに支店を出す事になりました。

 今回の件は、店と店との流通に関する問題を、イグニスさんに相談した事が原因です」


 大丈夫。強い私を演じることには、馴れている。

 いつも通りにやれば、それでいい。


「もちろん配達業者の方達には迷惑の掛からないように、人や荷物に関しては制限をかけますが、もし何かあれば教えてください。

 私がすぐに解決する事を誓います。

 以上です。お聞きいただいて、ありがとうございました」


 胸に手を当て、深々とお辞儀をする。

 盛大な歓声が上がった。



 その後、細かな取り決めを行い。

 王様が一番に乗りたいと言い出して。

 それを護衛の人が止めたり。

 イグニスさんが高笑いしたり。

 なんだかんだで。とても盛り上がった。

 みんな楽しそうなので、とりあえずは良しとしようかな。




「オウカさん。後でお話があります」

「私は無実です」

「後で、お話が、あります」

「……了解です」

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