第112話


 王城でやらかした翌朝。

 冒険者ギルドに立ち寄ると、今度はリーザさんが仁王立ちしていた。

 いつもの微笑みを浮かべてるのに、目が笑ってない。

 ……こえぇ。


「あの……戻りました」

「おかえりなさい。偵察だって、言いましたよね?」

「……聞いたような気はします」

「ちゃんとお返事、してましたよね?」

「……したような気がします」

「ちょーっと、お話しましょうね?」

「あ、はい……」



 めちゃんこ叱られた。



「まったく、いつも無理ばかりして……」

「やー。申し訳ないです」

「まあ今回は仕方の無い事でもありますし。今後は気をつけてくださいね」

「前向きに善処します」

「……ほんとに分かってます?」



 ジト目で睨みつけるのはやめて欲しい。

 あと、腕組んでるから胸がたゆんたゆんなって、あまり話に集中できなかった。

 何食ったらあんなになるんだろ。



 そう言えば、今回の件で新たに分かった、悲惨な情報がある。


 人造英雄の特徴として、身体の最高パフォーマンスを発揮される体型まで成長すると、そこで成長が止まるらしい。

 特に近接戦闘型に関しては、リーチの長い拳銃を用いることも合わせて、身軽に動ける体型をキープするのだとか。


 成長が。止まるらしい。

 今の体型で。


 割と真面目に絶望した瞬間だった。



「……オウカちゃん? どうしたの?」

「いえ、この世の真理に打ちのめされていた所です」



 両手で頭を軽く抑えて、大きくため息。

 これが、格差社会というものだろうか。

 少しくらい分けてくれないだろうか。マジで。




 リーザさんと少しお話した後、ふらっとオウカ食堂へ行ってみることにした。

 ちょうど忙しい時間帯は過ぎてるし、様子を見るくらいは大丈夫だろう。

 念の為、フローラちゃんにバレないように大きめの帽子を被って行くか。



 そんな事を思いながら大通りに向かっていると。

 街門のところになんか見慣れない人達が居た。


 よそから来た冒険者達なのだろうか。

 三人の男女で構成されたパーティで、みんな違う装備を付けている。


 ふむ。前衛、後衛、遊撃手、かな?


 鎧と大盾でガッチガチに固めた厳つい男性。

 大きな杖を持った若い女性。

 身軽な服装に弓を背負ったエルフの女性。

 中々バリエーションに富んだ人達だ。


 その内の一人、男性の冒険者が私に視線を向け、こちらに歩いて来る。


「すまない、道を尋ねたいのだが」

「あ、冒険者ギルドならこっちの道ですよ」

「その情報も有難いが、オウカ食堂という店を探していてな。知っていたら道を教えて欲しい」


 あ、なんだ。お客さんか。

 もしかして別の町からわざわざ食べに来てくれたんだろうか。

 そうだとしたら、ちょっと嬉しい。


「それなら大通りの……ってか、私もちょうど行くところなんで、案内しましょうか?」

「それは助かる。銅貨一枚で良いか?」

「や、ついでなんでお金はいりませんって。それより、どこから来たんですか?」

「エッセルだ」

「え。エッセルって、砂の都ですか?」

「ああ、船を使ってな」


 わお。そりゃまた遠くから。


 砂の都、エッセル。王都ユークリアから南、海を渡った先にある、砂漠の真ん中に作られた都市だと聞いている。

 北にある氷の都フリドールと合わせて、一度行ってみたいと思っている国だ。

 そんな所からわざわざ来てくれたのか。こりゃサービスしないとなー。


「そりゃまた遠くから……お疲れ様です」

「なに、どうと言うことはない。仲間から評判を聞いて、一度是非ともと思ってな」

「そんな所にまで噂が広がってるんですねー……あ、あの店です。ちょうど空いてるみたいですね」

「これは都合が良いな。親切にしてくれてありがとう」

「いえ、ついでだったんで。では」

「ああ。助かったよ」


 よし。私はちょっと裏手からこっそり忍び込んでお手伝い…もとい、様子見をしに行くか。

 たぶんみんな夜の仕込み中だろうし。紛れ込んでしまえば大丈夫なはず。


「すまない、少し良いだろうか」

「いらっしゃいませ。ご注意はお決まりですか?」

「いや、今日は弁当ではなくてな。人を探している」



 ……おっやあ? なんか、嫌な予感がするんだけど。



「十一番目の英雄、『夜桜幻想トリガーハッピー』が居ると聞いてやってきた。是非とも手合わせ願いたい」


 ……うっわ。目的はお弁当じゃなくて私だったの?

 しかも、手合わせって何?


「エッセルで仲間から話を聞いた。単独でオーガを倒した腕前を是非とも見せて欲しい。今、店にいるだろうか」

「えーと……いまお店には……あ、オウカさん! お客さんですよー!」


 うわ、やめて、手を振らないで。

 てゆか普段気付かない癖になんで今日に限って……


「む? あれは……先程の少女か?」


 あ。ダメだ。見つかった。

 ……とりあえず話して、穏便にお帰り願おうか。


 仕方ないので帽子をアイテムボックスに収納し、頭を下げる。



「ども。さっきぶりです」

「君がオウカだったとは……いや失敬。私はレイモンド。こっちがミアザにファシリカだ。

 君の数々の武勇伝を聞いて、手合わせ願いたいと思って王都まで来た。お願い出来るだろうか」

「いや、えーと、ですね。私はただの町娘なので、そういうのはちょっと…」

「……町娘? 一体何の話を……」



 レイモンドさんが困惑した顔をしている。

 うん、まーそうなるよね。さて、どうしたもんかな。


 ……あれ? あっちにいるの、冒険者のおっちゃん達か?


「おうこら、俺らのオウカちゃんに何の用だ、テメェら!!」

「ここらで悪さしようってんなら容赦しねぇぞ!?」


 あー。いつものパトロール中か。今日もお疲れ様です。

 じゃなくて。なんかこの流れ、やばくないか?


「ああ、すまない。ちょっと手合わせを……」

「なんだと!? 寄って集ってオウカちゃんを虐めようってか!?」


 各々武器を取り出して怒鳴りつける。

 いや、待って待って! ケンカ、良くない!


「おうお前ら!! ただで済むと思うなよ!!」

「いやみんな、ちょっと待っ……」




「ふむ。先に抜いたのは貴様らだからな」


 言うが早いか。

 レイモンドさんのシールドバッシュ盾の一撃で、おっちゃん達は数人纏めて吹っ飛ばされた。

 残った数名も盾を上手く使った攻撃ですぐに鎮圧されてしまう。


「ふん。口だけか。他愛もない」



 うわ、強っ。さすが遠くから来ただけあるわ。

 あ。てかあれ、お店の看板巻き込んでないか……?



「あーもー……お店の前でケンカしないでください。

 おっちゃん達、大丈夫?」

「お、おう……すまんな、オウカちゃん」

「みんなを守ってくれるのは嬉しいけど、あんまし無茶しないでよ?」

「ああ、すまねぇ……」

「とりあえず、怪我した人は中で見てもらってね」


 いつもはみんな気のいいおっちゃんなんだけどなー。

 荒っぽいのは仕事上、仕方ないのかも。

 てか、それよりも。


「うん、まー先に手ぇ出したのはおっちゃん達なんで、そこは仕方ないとして。お店に被害出さないでくれますか?」

「ああ、すまない。失念していたよ……申し訳ない。

 しかし冒険者に守られるなんて、英雄とはそんなものなのか?」


 …………。んー、なるほど。そう来るか。


「あーもー……分かりました。ギルドの裏手に広場があるんで、そっち行きましょう」

「おお、では?」

「しゃーないんで、お相手させてもらいます」


 いや、ほら、ちょっとね。

 色々と思うところはあるし。


 ……あー。ついでにうちの備品、ぶっ壊したしなー、この人。

 せっかく遠くから来てくれてんだし、サービスしないとね。


 リーザさんごめんなさい。面倒事、起こします。

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