第110話


 王都に着くと、門の前に魔王カノンさんが仁王立ちしていた。


 思わず回れ右すると、そこに最速の英雄レンジュさんが現れた。

 右手を胸の前に立てて小さく謝ってくる。


 やはり、魔王からは逃げられないらしい。

 あ、はは。やっべ。


「……で。今回のアレはなんですか?」

「いやー、そのー。興味本位でぶっ放したら、トロールが消え去りました」


 反省はしている。後悔はしていないけど。

 だって、危険だったことには変わりないし。

 私はどうでもいいけど、他の人が襲われたらシャレにならないじゃん。


「……興味本位、ですか」

「……あはは、その、ごめんなさい」

「謝れば済むという話では…オウカさん?」

「…………はい?」

「何か顔色が悪いですが、何処か怪我でも?」


 あー、やっぱり? そうかなーとは思ってました。


「…………やー。怪我とかはしてないんですが……レンジュさん」

「なにかなっ!?」

「…………あと、頼みました」


 ふらりと真後ろにぶっ倒れる直前、誰かに抱き抱えられる感触がした。

 ナイス、レンジュさん……





 目を覚ますと。知らない部屋のベッドに仰向けで寝ていた。

 知らない部屋って言うか、まー……めっちゃ豪華だし、王城の中だろうな、ここ。


 て言うか、誰もいないな。

 ……逃げるなら、今のうちかな?


 ベッドから降りようとして、頭がクラりときて、そのまま横に倒れた。

 どうも、体調は戻ってないらしい。


「リング。私どのくらい寝てた?」

「――およそ二時間です」

「二時間か。それでも回復してないのね」



 まーあの威力だし、納得だけど。

 アレ、やっばいわ。絶対人のいるところで使わないようにしよう。

 ……アレ使えば、マコトさんが言ってた通りドラゴンも倒せるかもなー。

 英雄謹製の武器、恐るべし。

 ただまー使い勝手は最悪だな。毎回ぶっ倒れるのは勘弁してもらいたい。


「――オウカ。報告が二点あります」

「お?なに?」

「――オウカの魔力は現在枯渇状態です。拳銃型デバイス、並びにサクラドライブは使用できないので注意してください」

「あー。そりゃそうだよね。りょーかい。んで、二つ目は?」

「――つい先程、完了到しました」

「んあ? 何が……」


 コンコン、と。

 不意に、ドアがノックされ、ガチャリと開かれた。


「オウカさん。起きましたか?」

「あれ。エイカさん?」

「すみません、声が聞こえたもので……体調は大丈夫ですか?」


 穏やかな、困ったような顔で尋ねられた。

 こちらを覗き込んできた時、サラリと綺麗な黒髪が流れる。


「大丈夫って言いたいところですけど……まだフラフラしますねー」

「キョウスケさんもカエデさんも居ないので応急処置のみ行っています。無理はしないでください」

「なるる。ありがとうございます」

「それでですね。ちょっと一緒に来ていただけますか?」

「……あー。お説教でしょうか」


 どうにかして逃げらんないかな。なんか、エイカさんも真面目な顔になってるし。


「いえ。お説教は多分後回しです。アレイさんから皆を集めるように言われましたので」

「……アレイさん? てゆか私も?」

「ある意味、オウカさんがメインですね」


 ……お説教が後回しで、私がメイン?

 なんだ? 他に何かやらかしたっけ。


「アレイさんが、女神の神託を受けました。例の手帳の件です」


 ……なるほど。そりゃ確かに、ある意味私がメインだわ。




 エイカさんに案内された客室には、既に英雄達が集まっていた。

 ただ、先程言われたようにキョウスケさんとカエデさん、それにアスーラに居るハルカさんとマコトさんの姿は無い。


 カノンさんと目が合うと、少し申し訳無さそうに頭を下げられた。

 ……うん? なんだろ。後で聞いてみるかな。



「お、オウカちゃんも来たか。これで全員だな」

「アレイさん、どもです」

「……で、だな。本題なんだが、例の手帳の件をポンコツ女神クラウディアに問いただしたら、さっぱり分からんと言って来やがった。どうもアイツの知らん言語らしい」

「……は? 女神様なのにですか?」


 女神様なのに、分からない事とかあんの?

 てかポンコツとか言うな。女神様だぞ、おい。


「まあ、クラウディアだからな。俺もあまり期待はしてなかったが、とにかくこれで手がかりは途絶えた訳だ。

 一応、今度カエデを連れて例の遺跡に行ってはみるが」


 なるほどー……あれ?

 そういや、リングに解析頼んでなかったっけ。

 そっちはどうなってんのかな。


「リング。手帳の解析ってさ」

「――はい。先程の報告、二点目に当たりますが。

 ――手帳の解析が完了到しました」


 ……おおう。マジか。


「あの、アレイさん」

「ん? どうかしたか?」

「なんか、解析出来たらしいです、手帳」

「解析って……誰が?」

「うちの相棒です。つい先程解析完了したとか」

「ほう。あのバカクラウディアより余程優秀だな、その相棒」


 リングを褒められてるけど、何とも言えません。

 この人たちの中の女神様像を一回詳しく聞いてみたい気もする。


「……とりあえず。リングってさ、他の人に声を聞かせられないの?」

「――不可能判定:モデリング完成までお待ちください」

「おっけ。んじゃ私から説明しとくね」

「――了解しました。報告致します」





 リングに説明された内容を自分の中で噛み砕いて説明してみる事にした。


「えーと。通訳します。

 あの手帳は古代言語で実験記録が書かれていたようです。

 記録者? 達? は、私みたいな人造英雄を量産して、対魔王用の兵力にしようとしてたみたいですねー。

 んで、Type-0からType-10まで、それぞれ英雄の能力が振り分けられていたらしいです。

 私が何回か遭遇した黒いやつ、あれは人造英雄の失敗作? みたいです」


「……とりあえず、続けてくれ」


「んっと、それでですね。Type-0は試作機として、サーバーって場所に色んな情報を送ったり貰ったりできるらしいです。

 そのType-0には色々種類がいて、、【killing Abyss】シリーズみたいですね」


「シリーズ? 他にも居るのか?」


「えーと待ってくださいね。リング?

 ……あーはい、記録によると何機か成功してたみたいですけど、兵力として使う前に魔王軍にやられちゃったみたいですねー」


 いつか夢に見た女性。あれは多分、私のなのかな。

 見た目的にはお姉ちゃんだけど……どうなんだろ。

 他にもいるなら会ってみたいかも。


 まあ、どうでもいいか。


 使



「ちなみに【killing Abyss】は近接戦及び対単体に特化した機体らしいです。他にも…」


「……オウカちゃん。とりあえず、そこまでにしよっか」


「レンジュさん? なんですか、いきなり」



 不意に、抱きしめられた。

 小さくて、でも確かに暖かな、腕の中。




「大丈夫だよ。アタシたちが人間である以上、オウカちゃんは人間だからね。

 だから、そんなに泣かなくてもいいんだよ。

 キミはシスター・ナリアさんの娘、オウカなんだから。

 アタシの大切なオウカちゃん。もう、自分を虐めるのはやめよう。

 君の命はそんなに軽いものじゃないんだよ」




 涙で歪む視界の中、レンジュさんが珍しく真面目な声で語りかけて来た。

 あはは……真面目にやれるなら普段から、そうしてくれたら、いいのに。




 心が、決壊した。




 優しく抱きしめてくるレンジュさんの胸の中で。

 私は小さな子どもみたいに、泣きじゃくった。

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