第109話
オウカ食堂で新メニューが販売されだして一週間後。
だいぶ落ち着いてきたなーと思っていたところで、冒険者ギルドから呼び出しをくらった。
そういや私、一応冒険者なんだよね。
なんか最近料理ばかりしてて、割と本気で忘れかけてたけど。
「んで、どしたんですか?」
「それがねー。森に大型の魔物が出たって噂があってね」
「うわ、またオーガですか?」
「オーガより大きいの。トロールって知ってる?」
「あー。なんか縦にも横にも大きいやつですよね」
なんて言うか、太ったおっちゃんをそのまま巨大化させたみたいな見た目だったと思う。
怪力で再生能力があるけど、頭は悪くて動きも鈍い、だったかな。
「そうそれ。今回は偵察だから、倒す必要はないんだけど……お願いできる?」
「おっけーです。動きが鈍いなら最悪、飛んで逃げます」
「……頼んでおいてなんだけど、絶対無茶はしないでね? いい? 偵察だからね?」
「やだなー。わかってますよー」
把握はしてますよー。守るかどうかは別として。
だって、オーガよりでかい魔物でしょ?
そんなんが森にいたら、採取依頼受けた新人さんとか危ないし。
まあ、無理そうなら逃げるけども。
「んじゃ行ってきますね」
「くれぐれも、無茶はしないでね?」
「はーい」
無茶はしませんけど。ちょっとね、試してみたい事があるんだよね。
森に到着。上空から見てみるけど、それらしき姿はまだ見えない。
「リング、検索。トロール」
「――検索完了:マップに表示します」
「おけ。てかほんとに居るのか」
んー。前の集団討伐から大して日も経ってないんだけど……これはまた、例の魔物発生案件かな?
だとしたら、あとでカエデさんにも連絡しておいた方が良さそうだ。
ま、とりあえず。
良い機会なので、実験台になってもらおう。
森の中に降りると、トロールを目視できた。
うぉう。でっかい肉の塊だな、これ。
あと何気に臭いがきっつい。あんまし長居はしたくないな。
「リング、とりあえず試して見よっか」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition」
立ち上る魔力光。消える不快感。湧き上がる戦意。
既に慣れきってしまった感覚。でも、悪くない気分だ。
ひとまず牽制の射撃。通常弾を腹に放つ。
硬い皮膚と分厚い脂肪に阻まれ、貫通はしなかった。
これは想定内。次は、圧縮弾。
きゅおん、と甲高い音を共に大気を裂く圧縮魔弾。
これも、トロールを貫通するも、受けた傷はすぐさま再生された。
遅れてきた反撃は余裕を持って回避する。
背後の木が、メキメキと音を立てて倒れた。
当たったらヤバそうだな。まあ、こんだけ遅かったらまず当たらないけれど。
それよりも、次だ。
「リング、アヴァロン」
「――OK. SoulShift_Model:Avalon. Ready?」
「Trigger。障壁を背部に展開。やるよ」
「――
「こ、れ、な、ら……どうだっ!!」
デバイスまで駆使した四重の極光。
それはトロールの右肩当たりを貫通し、周囲の木々をも巻き添えに焼き尽くし。
それでも、敵はすぐに再生する。
さすがに先程より速度は落ちるが、十秒後には元の姿に戻っていた。
「うわ。まじか」
これ、他の冒険者だと割とどうしようも無いんじゃないだろうか。
剣で斬っても魔法で焼いても、この再生速度だとあまり意味が無さそうだし。
でもまあ、試すのに丁度いい敵ではあるか。
「リング、試し撃ちしようか。周りに人は?」
「――検索:反応無し」
「おっけ。じゃあ、頼んだ」
「――Sakura-Drive:Limiter release. Ready.」
「
体から
まるで、命を燃やしているかのような
収束されていく
これ、ほんとに大丈夫か?
まあ、今更引く気はないけど。
「行くよ、リング」
「――Ma
背部に障壁が構成される。
インフェルノの銃口に、魔法陣が浮かび上がる。
「――Expans
シャラン、シャランと鈴のような音がする。
鼓動が、速くなる。
「――Sa
視界の全てが紅く染まって行く。
心は、高揚する。
「――
音が、鼓動が、臨界を超える。
ゆっくりと、インフェルノの銃口を向けて。
「――
トリガーを、引いた。
衝撃。天空を貫く紅蓮の極光。
鳴り響く教会の鐘の音のようで。
それは、終わりの光景だった。
紅蓮の魔力光が薄れゆく中、目にした物は、恐ろしい程の結果だった。
トロールどころか、射線上の見える範囲全てが、円形に抉り取られている。
パチパチと音を立て、周囲の森が焼けていた。
ブースターと障壁を合わせても勢いを殺しきれず、後ろにひっくり返った状態で、それを見た。
……やっべえ。やらかしたわ、これ。
思うと同時、急激な虚脱感に襲われる。
なるほど。これが魔力枯渇ってやつか。
体内の魔力を使い果たした時に現れる症状。
私は魔法が使えないから、何気に初体験だ。
視界がぐるぐる回る。
なんだこれ、気持ち悪っ……
でも、ここに居るのはまずい気しかしない。早くこの場を離れよう。
これ、絶対、怒られる。
ふらつく足を引き摺りながら、私はのろのろと王都へ帰還した。
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