第108話


 昨晩は慌ただしくも楽しい夜だったなー。

 英雄たちの違った一面も見れて、とても楽しかった。


 とか思いつつ、朝から昼前まで、キッチンで昨日頂いた食材を調理していた。

 寝起き直後からなので、寝巻きのままである。


 今日も今日とて、良い感じの仕上がりだ。

 出来上がり次第アイテムボックスに収納していき、あらかた完了した後、着替えてから外に向かう。




 本日の予定はアスーラ。

 使った調味料や食材の買い出しをしなくちゃならない。

 主に魚介類。現地で買うのが一番安くて新鮮だし。

 そんでもって、出来ればハルカさんとリュウゲジマコトさんにお裾分けしたいし。



 という訳で、港町アスーラに到着。

 今日は特にトラブルも無く、のんびり空を飛んでいけた。

 港近くの市場で海の幸とスパイスなんかをお安く買うことができてホクホクな私です。


 ハルカさんの家に向かい、コンコンと扉をノックするも、返答がない。

 あれま。留守かな?


「こーんにーちわー!」

「あら、この声はオウカちゃん?」

「ですです。てゆか、ハルカさんどこですかー?」

「いま裏庭で作業中なのよー」

 

 お。裏庭ってことは、お墓の手入れとかしてんのかな。

 それならちょっと手伝わせてもらおう。


「ハルカさーん。私も手伝いま…………す?」

「あら、ありがとう。でも今終わったところよ」



 いつもの聖母のような微笑みを浮かべて。

 ナイフを持った血塗れのハルカさんが、そこに居た。



「うぎゃあ!? え、何ごとですか!?」

「え? ああ、今、ベヒーモスを解体していたから」

「ベヒーモス!? ええっ!?」


 見ると確かに、家の裏手に解体されたベヒーモスらしき肉塊が並んでいる。

 え、いやでもこれ、何百キロとかいう単位のデカさじゃない?

 普通は複数人でやるものだよね?


「あら、そう言えば見せるのは始めてかしら。

 これが私の加護、『終焉の担い手ブレイブリーリッパー』よ」

「あ、なる、ほど?」


 なんだっけか。確かにあらゆる物を解体出来る能力、とかだったような。

 え、こんなデカブツにも適用されんの、それ。

 て言うか血塗れでニコニコ笑顔って絵面がえげつないんだけど。


「ごめんなさいね、こんな格好で。それで、今日はどうしたの?」

「いや、ええと、ちょっとお裾分けに……来たんですけど、出直した方が良かったですか?」

「あらありがとう。今綺麗にするわね。

 魔道式起動。展開領域確保。対象、ヒムカイハルカ。その身の不浄を清めよ」


 オレンジ色の魔力光が立ち上り、魔法が使用される。

 お、おお? 返り血が全部無くなっていく。

 ふぉぉ……やっぱ魔法って便利だなー。


「魔道式起動。展開領域確保。対象、目前半径十メートル。

 其は停滞。停まり、滞れ、揺らぐもの」


 続けて詠唱すると、肉塊が全て凍りついた。

 うわぁ。すっご。夏場でも氷つくり放題じゃん。


「お待たせ。中へどうぞ」

「あ、はい。おじゃしまーす」

「多分そろそろ、マコトさんも来ると思うわよ」

「そうなんですか?ちょうど良かっ……」



 しゅぱんっ



「やっほーおひさー! あれ、オウカちゃんだ。こっちもおひさー!」

「……た、みたいですね」


 そろそろ聞き慣れてきた転移魔法の音と共に、リュウゲジマコトさんが転移して来た。

 相変わらずブカブカの白衣に身を通し、余った袖ごと手をぶんぶん振っている。


「あら、いらっしゃい。そろそろクッキーが焼ける頃よ」

「お、ナイスタイミングだったね」


 相変わらず可愛いなー……じゃなくて。

 転移ってそんな気軽にできるもんじゃ無いはずなんだけど。

 よく知らないけど上級の魔法石をたくさん使うんじゃなかったっけ。

 なんかもー、なんでもありだな、この人。


「お久しぶりです。今日はお裾分けに来ました」

「お菓子? お菓子かな? お菓子だよね?」

「お菓子もありますけど……メインはレッドドラゴンです」

「おお。ついにオウカちゃんもドラゴンスレイヤーになったんだね」

「あらあら。おめでとうございます」


 ぽふぽふと手を叩くリュウゲジマコトさんに便乗して、嬉しそうに手を叩くハルカさん。


 誰がドラゴンスレイヤーだ。

 アレイさんみたいな規格外の人と一緒にしないでほしい。


「違います。王城で余った食材を頂いたんです」

「む、そっか。まあ、オウカちゃんならいつか達成できると思うけどね」

「いや勘弁してくださいよ」


 ただの町娘になんてもん求めてんだ。

 明らかに無理だろ、そんなの。


「ふむ……? まーいっか。ねえ、ドラゴン肉って生なの?」

「や、揚げてあります。タイラントウルフの煮込みもありますよ」

「……は?」


 ピタリと動きを止めて、瞬きを三回。

 そして小さな子どものように、私の服の裾を掴んで見上げてきた。


「揚げたの? ドラゴンを?」

「揚げました。ドラゴンを」

「……ぷっ!! あはははは!! 思い切ったねえ!!」


 英雄サマ、大爆笑である。


 まー今回は自分でも思い切ったなーと思う。

 何せ最高級のお肉を、揚げ物にしたのだ。

 そんな贅沢なこと、勿体なくて中々できない

 いや、したんだけどね。


「や、悩んだんですけどね。王様に献上するってんですから頑張りました」

「しかも王様にだしたの!? うっわ、ボクもその場に居たかったなー!」

「普通にもぐもぐ食べてましたね」

「あ、だろうねえ。今度久しぶりに遊びに行くかな」

「……そんな気軽に行く場所じゃないと思いますけどね」


 まあでも、この人ならそんな感じだろーなー。

 本当の意味で自由奔放だし。


「オウカちゃん、食材自体は残ってるのかしら」

「あーはい。ハルカさんにはそっちもお裾分けしようかと」

「あら、ありがとう。嬉しいわ」

「料理好きだと聞いてましたんで」


 情報源は教会で読んだ絵本だけどね。

 ……よくよく考えると、あの本ってよく出来てたんだなー。

 書いてる事、大体あってるし。


「ねえ、ボクお腹すいた。はーやーくー」

「はいはい。オウカちゃんもどうぞ」

「はい。お邪魔します」

「ドラゴンの揚げ物とか初めて食べるから、期待で胸が膨らむねー」

「ふふん。自信作ですよ」

「おお。それは楽しみだ」

「あらあら…私もちょっと楽しみですね」


 何か和む。

 穏やか美女のハルカさんと、性別不明だけど小柄で可愛いマコトさんのコンビって、カエデさんと同じくらい癒されるわ。

 ……いやまあ、見てる分はね。



 みんなでお昼ご飯を食べた後、出したお菓子もマコトさんに食べ尽くされた。

 結構な量あったのに……ほんとお菓子好きだなー。


 そんで私は私で、お土産にハーブティーの茶葉と、ハルカさん特性のチョコクッキーまで頂いた。

 これ、王都のお店で売ってるやつより美味いんだけど。


 ううむ。今度焼き方教えてもらおう。

 

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