第88話
冒険者ギルドやお城にお裾分けしても大量にお菓子が余ったので、お昼時を過ぎた辺りでオウカ食堂に寄ってみた。
正確には、閉店までキッチンでこっそり下拵えとかしてた。
すみっこでやってれば案外気付かれないものだ。
……働いてる子達と背格好が近いからでは無いと思いたい。
で、閉店時間になって後片付けを始めた辺りで立ち上がると、すぐにフローラちゃんに見つかった。
「オウカさん……またですか」
「……えへっ」
小首を傾げて笑ってみた。
「可愛くしたってダメです」
そしてバッサリと切り捨てられた。
ちっ。ダメか。
「いや、今日はちゃんと理由があるのよ。お菓子のお裾分けしようと思って」
「それとこっそり下拵えするのと、何の関係が?」
「……えへっ」
もう一度小首を傾げて笑ってみた。
大きなため息を吐かれてしまった。
「えっと……なんかごめん」
「はあ……まあ今回は下拵えだけだったから良しとします。で、お菓子ですか?」
「あ、うん。たくさん作ったから持ってきた」
アイテムボックスから残ってたお菓子を取り出す。
我ながら、作りすぎたなー、これ。
「こんなに!? いいんですか!?」
「作りすぎちゃったからたくさん食べて」
「ありがとうございます。あ、サフィ! 今日休みの子達を呼んできてくれる?」
「はーい。私の分残しといてくださいねー」
サフィと呼ばれた子がパタパタと走っていった。
いやまあ、現在進行形でものすごい早さで減って行ってるけど、間に合うかな。
ちょっと年頃の女子を甘くみてたかもしんない。
結果から言うと、余裕で足りた。と言うか、かなり余った。
山のような量あったのが、半分まで減ってるけど。
うーむ。日持ちしないお菓子が多かったから頑張って食べたんだろうか。
次はその辺りも考えよう。
とりあえず余った分は再度アイテムボックスに収納。
これは、アスーラにも持っていくべきかな。
一人だと食べ終わるのに何日かかるか分からないし。
帰りに冒険者ギルドに寄ると、リクエストとお礼が書かれた紙を大量にもらった。中には代金を張り付けた紙もある。
ありゃ。お裾分けだったんだけどなー。
まあ仕方ないか。ありがたく頂いて次の材料費にしちゃおう。
リクエストの紙を見ると、主に手軽に食べられるお菓子派と特製プリン派に分かれたっぽい。
他にも色々と書かれていたので参考にしようと思う。
そのリクエストの紙の多くに、お菓子専門店を出してほしいと要望が書かれていた。
……うーむ。量産出来るなら考えてみてもいいかもしんない。
ただ道具がなー。誰かに相談してみるかなー。
翌朝。
まだまだ朝の空は寒いのでコートを装着してアスーラへ。
目的は勿論、お裾分けである。
……お裾分けとは何なのか、一瞬分からなくなったけど。
でもどうせなら知り合いみんなに配りたいし。
「という訳です」
紅茶を頂きながら、ヒムカイハルカさんに事の経緯を説明してみた。
相変わらずのほんわか笑顔で癒される。
「あら、ありがとう。嬉しいわ」
「あまり日持ちしない物もあるんで、早めに食べちゃってくださいね」
クリーム系は特に足が早いからなー。
んー。なんか良い手は無いものか。
色々試してみっかな。
「あ、それは大丈夫。マコトさんからいいもの貰ったから」
「……いいもの?」
「冷蔵庫っていってね。中に入ってる物を冷やしてくれる箱なのよ」
「おお…そんな凄いものあるんですか。さすが物作りの英雄」
リュウゲジマコトさんの持つ加護、『
あらゆる道具を作成し、使用する事が出来るらしい。
私も冷蔵庫頼んでみよっかなー。
……あ。て言うか、協力してもらえばお店の調理道具類の問題が解決するかも。
ちょっとお願いしてみよっかな。
さて、リュウゲジお宅に来てみたは良いものの。
ちょっと勇気がいるんだよなー。あの人に会うの。
ひとつ深呼吸して、ドアの横のボタンを押してみた。
ぽちっ。
ピンポーン♪
……やっぱ違和感あるなー、このボタン。
「はいはーい。おや、オウカちゃん。どしたの?」
「お菓子のお裾分けとお願い事がありまして」
「ふうん、そっか。じゃあとりあえず、お菓子もらおっかな」
「はい。好きなだけ持っていってください」
どさどさっと在庫を放出。
配り回ったとは言え、まだまだ量があるなー。
「うわ、こんなに!? すごいや、ありがとねー!!」
アイテムボックスから取り出したお菓子をせっせと並べていく。
おお、テンション高いなー。甘いもの好きなんだろうか。
「わぁ!! シュークリーム、マカロン、タルト!! 凄い、アイスクリームもある!!」
「えーと。何なら、全部置いていきましょうか?」
「まじで!? やったぁ!!」
おー。はしゃいでらっしゃる。可愛いなあ。
てか、ふと思ったけど、この人何歳なんだろ。たぶん私より歳上だよね…?
……深く考えちゃいけないのかもしれない。
「ちょっと冷凍庫に入れてくるから待っててねっ!!」
「はーい」
お菓子の山を抱え、奥へ走り去って行ったら、
……ん? 冷凍庫? 冷蔵庫とはまた別なんだろうか。
「おまたせー。可能な限り詰め込んできたよー!!」
「あ、どーも。てか冷凍庫ってなんですか?」
「物を凍らせておく箱だよー。冷やすのは冷蔵庫」
なるほど……それは便利そうだ。
私が冷やす必要がなくなるし、お店のみんなが助かると思う。
「ふむ……それって作るの難しかったりします?」
「うん? そうだねぇ……僕なら簡単に作れるけど?」
ふむ。ちょっと交渉してみよっかな。
「因みに、大きめの冷蔵庫と冷凍庫二つずつだとお幾らですか?」
「そだねー……何に使うの?」
「や、お菓子屋さんやってほしいって言われてまして」
「んじゃただでいいよ。その代わりたまにお店に行くから割り引きしてほしいなー」
「え、いいんですか?」
こんな便利なもの、相当のお値段だと思ってたんだけど。
「いいのいいの。他に必要なものとかない?」
「えーと。魔力で動く自動泡立て器とか、一定温度を保てるオーブンとか、あります?」
「ああ、それなら在庫があるよー」
マジか。
「称えていいですか?」
「それは嫌かなー。こっちは……そうだね、泡立て器が銀貨二枚、オーブンは銀貨二十枚くらいかな」
「安っ!? え、マジですか?」
性能の割に価格が低すぎるんだけど。
「マジマジ。特別価格だけどねー」
「おー。じゃあオーブンは二台で、泡立て器を十個お願いできますか?」
「まいどありー。持って帰れる?」
「アイテムボックスに突っ込むから大丈夫です」
わーい。言ってみるもんだなー。
これで色々と楽になるなー。
さすが英雄サマ。なんでもありだ。
「おー。んじゃ、ちょっと離れてくれる?」
「へ? あ、はい」
白衣のポケットに手を突っ込み。
「よい……しょっと!」
ドゴンッ!
……いま、どっから出したコレ。
オーブン二台と泡立て器十個、ハルカさんとこで見た冷蔵庫と、良く似た箱。あとこっちが冷凍庫かな。ちゃんと二個ずつある。
いやいや。明らかにポケットに入る大きさじゃないよね。
ポケット型のアイテムボックスなんだろうか。
あれ、でも英雄ってアイテムボックス使えないって聞いた気がすんだけど。
マジでこれ、どうなってんだろ。
……これも深く突っ込まない方がいいんだろうか。
「ええと……じゃあ、貰っていきますね」
「美味しいお菓子を作ってね」
「頑張ります。では」
「まったねー!」
白衣の袖をぶんぶか振ってのお見送り。
……見る分は可愛くていいんだけどなー。
ひとまず、問題が解決しちゃった訳だけど……お菓子屋さん、やらなきゃなんないよね、これ。
カノンさん辺りに相談してみよっかな。
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