第89話


 アスーラから戻ったその足で王城に向かい、カノンさんに取り次いでもらった。

 ちょっと用事を済ませて来るから待っていて欲しいとの事。

 待ってる間、門兵さんと世間話とかしてみる。


「嬢ちゃんもすっかり街の名物になったなぁ」

「いやー。基本的に流されてるだけなんですけどねー」

「流されていい結果がでるんなら、そりゃ人望があるって事だ」


 人望かー。どうなんだろ。私に人望がある訳じゃないと思うんだけどなー。


「うーん。まあ、良い人ばかりだなーとは思うけどね」

「あぁ、でかい街の割に気のいい奴が多いよな。

 おっとそうだ。菓子、ありがとよ。美味かった」


 あ、食べてくれたんだ。良かった。


「どうも。あ、そだ。もしかしたらお菓子屋さんやるかもしんないです」

「そりゃいい。開店したらみんなで行くぜ」

「はい。て言ってもまだ何売るかも決まってないんですけどね」

「楽しみにしとく……っと。いらっしゃったぞ」


 促され目を向けると、今日も美人なカノンさんがこっちに歩いてきてた。

 おお、柔らかに微笑んでる。目の保養になるなー。


「オウカさん、こんにちは。今日はどうされました?」

「ちょっとお店を増やすかもしれないのでその相談に」

「なるほど、わかりました。では奥でお聞きしますね」


 いつもの部屋に移動。

 その間もいつもよりにこやかにしている。

 ふむ。何となくこっちも嬉しくなるなー。


「カノンさん、何か良いことでもありました?」

「え……いえ、その。先ほどですね、頂いたプリンを食べたところでして」

「お。どうでした?」

「素晴らしい出来映えでした」


 頬に手を当てて、ほう、とため息を吐く。

 うわ、色っぽいなー。


「そりゃ良かったです。作った甲斐がありました」

「……それでちょっと浮かれていたかもしれません」


 おお。意外な一面と言うか。

 いつもクールだけどそんなところもあんのね。


「また持ってきますねー」

「お願いします。ところで、お店を増やすというのはオウカ食堂の別店舗ですか?」

「や、今回はお菓子屋です。要望があったんでやってみようかなーと」


 ピシリ、とカノンさんが固まった。


「……あのクオリティのスイーツを王都で売るのですか」

「ええっと、何かまずいですか?」

「王都の特産品が増えそうだな、と」

「んーむ……そですかね?」


 あー。そういやお菓子屋ってあんまり見ないしなー。

 アイスクリームとか特に売れるかもしんない。


「まあ確実に売れますね。お店の場所や人員は決まっているんですか?」


 あ、そっか。お店の場所とか考えないといけないのか。

 前回私は何もしてなかったから思いつかなかったわ。

 あと、働く人もか。うーむ。


「いえ、かんっぺきに忘れてました。道具は揃ってるんですけどね」

「なるほど……店舗に関しては、確か大通りの一角が丁度空いていたかと思いますよ」

「お。そこ使えたらいいですねー」


 さすがカノンさん。頼りになる。

 さてさて。後は人員と店舗造りかな。


「んー。働く人に関してはオウカ食堂で希望者を募ってみます。建設は……冒険者ギルドで依頼をだそうかな」


 建設に関しては、前回は展開が早すぎてろくなお礼も出来なかったからってのもある。

 今回は依頼にしておけばそこは問題ないはず。


 どちらかというと問題は人員じゃないかなー。

 みんな仕事を覚えた頃だろうし、職場を移りたくはないと思う。

 その場合はまた探し回らなきゃなんないけど……まあ無理させるよりはいいか。


「てな訳なんで、またしばらくバタバタすると思います」

「分かりました。前みたいにいきなりは止めてくださいね?」

「あはは……気を付けます」


 苦笑いするカノンさんに、同じく苦笑いを返した。




 お城を後にして、今度はオウカ食堂へ。

 フローラちゃんにみんなを集めてもらい、新店舗の説明をした。


「という訳で、お菓子屋やりたい子はいる?」

「……オウカさん。話が早すぎませんか?」

「早めにこっちでやっとかないと不味いのよ。前回は周りに流されっぱなしでお礼も受け取ってくれなかったし」


 その結果、ギルドの一角を借りる予定が従業員百人超えの店舗になったからね。

 暴走しすぎでしょ、みんな。


「あー。異様な速さでしたからねえ」

「んで、出来れば何人かあっちに回ってほしいんだけど……てか希望者結構いるね」


 手を上げてる子達を見る感じ、大体三割くらいかな? 思ってたより少し多いなー。

 いやまあ、ありがたいんだけどさ。


「この人数ならこちらも何とかなりそうですけど……足りますか?」

「他にも人を雇うつもりだから大丈夫。近所のおばちゃん達に募集かけてみる」

「それ、希望者来ます?」

「たぶんそこそこ来ると思うよー」


 新しい店舗ってだけでも興味はもってもらえると思う。

 冒険者ギルドにも依頼を出すし、後は待つだけかなーとか思ってたり。

 店員も建築もそこそこ良い条件だからね。


「んで、開店は二ヶ月後を目安かな。前回が早すぎて参考にならないのが痛いけど」

「お店の規模にもよりますけど、妥当かと思います」

「んじゃ大丈夫かな。後は仕入れ先だねえ」

「そちらもアテがあるんじゃないですか?」


 んー。どかな? いつも買い出し行ってるお店とか、頼んだらいけるかもなー。


「まあ、たぶんなんとかなる、かなー?」

「……改めて考えるとオウカさんの交遊関係広すぎませんか?」

「……うんまあ、自分でも思うところはある」


 英雄、騎士団、冒険者、ギルド職員、商人、大通りの店のおっちゃん達を始めとした街のみんな、アスーラやビストールの人々。

 うん。中々凄い気がする。いろんな人から良くしてもらってんなー。

 今度ちゃんとお返ししないと。


「そんな訳で準備を進めたいと思うんで、悪いんだけど引き継ぎ作業とかよろしくね」

「ははは……まあ、なんとかやってみます」


 顔を引き攣らせながら、フローラちゃんがから笑いした。

 うん。なんか、ごめんね。


「まー無理が出そうだったら早めに教えてね。色々調整してみるから」

「分かりました……ところで、その。身内割引なんかはあります?」

「ふふ。全品二割引の予定だよ」


 それに、建設に関わった人もオウカ食堂のとお菓子屋の割引チケットを渡す予定だ。

 王都の冒険者って下手したら通常の依頼でも報酬受け取らなかったりするからね。

 知り合いの依頼だったら尚更だ。

 先払い分として割引チケットを渡しておけばお店に来るだろうし、最悪の場合はその時に無理矢理報酬を渡す予定だ。


 普通、逆じゃないのかなーと思わなくもない。

 と言うか、ちゃんと生活出来てんだろうか、あの人たち。

 今度こっそり調べてみるかなー。


「世の中、色々な人がいるんですね」

「私からしたら休日も働きたがるってのも不思議だけどねー?」


 知ってんぞ。またやってるだろ、お前ら。

 あんまし酷いようならまたお説教コースだけど、今のところ無理はしてないから見逃している。


「う……気を付けます」

「ほんと、体壊したりしないようにね?」

「はい。今のところ、体調管理は万全です」

「よろしい。んじゃ冒険者ギルドに寄ってくから、後はお願いねー」


 さてさて。ついでに、大通り沿いの店全部に挨拶回りしときましょうか。

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