第79話


 一回戦の後、色々な屋台を巡ってみた。特に遠くの街の特産品が面白い。

 雪熊の燻製肉とかデスワームの輪切り焼き、キラーサボテンのジュースなんかもある。

 王都近隣ならともかく、他の都市には行ったことがないのでかなり新鮮だった。


 特に目を引いたのが、実演されていた魔法都市製の魔道具たち。

 小さな水晶に魔力を流すと火が出たり、板状の魔道具に魔力を通すと対になった板に文字が浮かんだり。

 見たことがあってもデザインが違ったりして楽しかった。

 ……まあ、どうせ私には使えないから買ってないんだけど。



 代わりにではないけど、食材や調味料に関しては色々買い込んでみた。

 主に甘味。牛の搾りたてミルクやイチゴ、赤砂糖に百年草の花の蜜、それに小豆や糖蜜花に炭酸石、極めつけはなんと言ってもスナイプビーの蜂蜜。


 年に一度のお祭りなだけあって、試してみたかった調味料類をかなりの数仕入れる事が出来た。

 武術大会が終わったらこれらを使って新レシピを研究したいところだ。



 その後、少し手伝いでもしようかとオウカ弁当の店舗に寄り、こっそりキッチンに入ってたらフローラちゃんに見つかって怒られた。

 曰く、武術大会に出たのにお店に来るのは働きすぎらしい。

 そうでもないと思うんだけどなー。みんな朝から晩まで働いてるじゃん。


「……あれ、ちょい待ち。フローラちゃんって今日、休みのはずだよね? 何でお店にいんの?」

「あ。えっと、それは……」

「あっれぇ? あそこの子達も今日はお休みじゃないかなー?」

「これは、そのですね……」

「……おいこら、集合。一応言い訳を聞こうか」



 やっぱり休みの日にも仕事出てたのか。

 あれほどダメだって言ってたのに。


 とりあえず、今日休み予定だった子達は強制的に帰宅させた。

 ついでに、明後日までお店に出ないように約束させた。

 代わりはいないんだから、もっと自分達を大事にしてほしい。


 ちなみに約束を破った場合、新作スイーツ無しの刑を言い渡しておいた。

 本日様々な調味料を仕入れたのを教えた上で。

 たぶん、約束が破られることはないだろう。



 その後結局、帰らせた子達の代わりにキッチンの仕事を手伝い、閉店まで鍋を振り続けた。

 明日の仕込みをやろうとしたら全員に止められたので、おやつの手作りビスケットを置いて帰宅。

 屋台巡り中に買っておいた空魚の串焼きと豆パンを美味しく頂き、お風呂に入った後、夜更かしする訳にもいかないのですぐに眠ってしまった。



 で。翌朝目を覚ますと、目の前にミールちゃんが居た。


 ……ええ。昨日、鍵かけたはずなんだけど。

 なんでいんのこの子。

 ぐっすりすやすや寝てるんだけど。


 とりあえず、ほっぺたをつついてみた。



 ……おお。ほっぺたぷにぷに。

 ふよんふよん。むにーん。


「……いひゃい」

「あ、起きた。おはよ」

「おはようございます」


 目をつぶったまま、眠そうにぺこりと頭を下げる。


「うん、おはよ。でさ、なんでいるの?」

「……なんでだろう」


 いや、首を傾げられても困るんだけどさ。


「……とりあえず、朝御飯食べよっか」

「うん、食べる」



 厚切りのベーコンを焼いて、その隣では卵を落として目玉焼きを作る。

 ついでにチーズを軽く温めて、チーズ、ベーコン、目玉焼きの順番にパンに乗っける。

 これで、おひさまパンの出来上がり。


 私が初めて作った料理で、シスター・ナリアにすごく誉められたメニューだ。

 これに作り置きしてあるスープを付けて準備完了。

 全部合わせて十分。慣れたものだ。



「んじゃ、いただきます」

「……それなぁに?」

「お祈りみたいなもんよ。命を頂くわけだから、いただきます」

「そっか……いただきます」



 パクリと一口。途端に眠そうだった目がキラキラしだした。

 ふふ。うちのチビ達にも人気なメニューだからね。

 おかわりあるからゆっくり食べなー。



 朝御飯を食べながら事情を聞いたみたけど、ミールちゃん自身も何故私の部屋に居たのか分からないらしい。

 何でも、昔からたまにこういう事があるんだとか。


 ……それ、大問題じゃないかなと思うんだけど。

 今までは孤児院の院長室などで目覚めることがあったらしく、王都に来てからは今日が初めてらしい。

 鍵がかかった部屋でもお構い無しだそうで、実際ウチのドアも鍵が掛かったままだった。


 ううむ……今んとこ実害は無いみたいだけど、今度誰かに相談してみるかな。


「あ。ミールちゃん、口元汚れてるじゃん。ちょい動かないでー」

「んーっ! んーっ!!」


 ちょ、わかった、美味しいのは分かったからじっとして、拭けないから!



 ミールちゃんを寮の部屋に連れていくと、同室の子がちょうど探しに出ようとするところだった。

 事情を説明すると、迷惑をかけてごめんなさいと謝られてしまった。


「ミールが寝ている間に移動するのは、昔からたまにあって…」

「…いや、ミールちゃんに聞いたときも思ったけど、それ大丈夫なの?」


 魔法かなんかだろうか。何にせよ、かなりまずくないかそれ。


「今までは院長先生の部屋か他の子の部屋にしか移動してなかったので……

 それに、理由が分からないからどうしようもないんです」

「あー……なるほどね。私も知り合いに聞いてみるわ」

「はい。ありがとうございます」

「んじゃ、またね。仕事は…まあ、頑張りすぎないようにね」

「……了解です」



 ……念押ししといた方がいいだろうか。

 いや、大丈夫。だと、思いたい。

 お休みの日もお給料出るんだし、マジで体壊さないでね。



 朝っぱらからなんか疲れたけど、とにかく闘技場に行くか。

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