第78話


 Cグループの予選終了後、私を幼女呼ばわりした解説者を探したけど何処にも居なかった。

 途中から解説者がツカサさんに変わっている事に気がついてからは、探すのを諦めた。

 今度あったら他人行儀で接精神攻撃してやろう。どうせ物理攻撃は避けられるだろうし。



 予選自体は一試合だいたい十分くらいで終わっていき、ついさっき最後のグループが終了した。

 張り出されたトーナメント表を見る感じ、予選前に話したリリアさんとは決勝で当たるっぽい。

 まーお互い勝ち進んだらだけど。


 でもそれより驚いたのが一回戦の相手だ。

 お名前が、ゴードン・マクスウェルさん。

 ……これ多分、森の大規模討伐で一緒に戦った、あのゴードンさんだよね。

 家名持ちなんだ、あの人。元貴族とかなんだろうか。

 てか、あの人と戦うのかー……やだなー。めっちゃ強そうじゃん、ゴードンさん。


 んー。とりあえず、リーザさん探してお昼ご飯食べちゃおうか。



 観客席にいってみたところ、リーザさんは簡単に見つけることができた。

 なんてーか、めっちゃ目立ってたし。周りもチラチラ見てっからなー。

 気持ちは分かる。だって美人で巨乳だもん。


「リーザさーん」

「オウカちゃん、本戦出場おめでとう」

「やー。私的にはめでたくないんですけどねー」


 そんな事を言いながら、今朝作っておいた照り焼きチキンサンドイッチを渡した。


「あら、ありがとう」

「自信作ですよー。あ、お茶出しますね」


 二人してかぶりつく。うむ、美味し。

 照り焼きの甘辛さに、パンに塗っておいたマヨネーズがとても合う。

 先に鶏肉をたれに漬け込んでおいて正解だったなコレ。

 

「そういや本戦から武器の持ち込み出来るんですよね?」

「そうみたいね。オウカちゃんなら優勝狙えるんじゃない?」

「やー、どですかね。適当なところで怪我しないように負けようと思ってますけど」


 ぶっちゃけ、戦う理由はないし。

 危険できないなら負けちゃえばいいじゃん、という感じである。

 

「そっか。でも、戦ってるオウカちゃん、ちゃんと見てみたいな」

「あれ? 見たことないですっけ?」

「ギルマスと戦った時、私は中に居たから見てないのよね」

「そですか……んー。じゃあ、次の試合は頑張ります」


 勝てるかどうかは知らないけど、とりあえずやるだけやってみるかー。


「応援してるから頑張ってね」

「あざますー!」



 昼食を食べ終わった後は再び闘技場に戻った。

 リーザさんからの応援でやる気も十分。なんだけど。


 私は四試合目だから、もうちょい時間があるんだよね。

 その間にゴードンさん見つけたかっんだけど……いないなー。

 こんだけ人が多いと探すのも大変だわ。


 ……あ。違う探し人なら居た。



「愛しのオウカちゃんだやっほおーいっ!!」

「……どちら様でしょうか。公衆の面前で人を幼女呼ばわりする知り合いはいませんけど」


 レンジュさんが抱きついてきたので、とりあえず冷たい視線と共に敬語で接してみた。


「うわっ!? 他人行儀だっ!? あれはその何て言うかごめんなさいでしたっ!!」


 おー。効果的面だな。よし、この手は使える。


「素直に謝れたので良しとします。

 て言うか、私とレンジュさんって体格も大して変わらないですよね?」

「アタシはロリ扱いでも一向に構わんっ!!

 それに、ここ二年で中身が大分変わった実感あるからねっ!!」

「あ、騎士団長謎の失踪事件ですか」

「それそれっ!! アレイと一緒に世界中旅してきたよっ!!

 そん時にまあ、色々とあったのさっ!!」


 実はこの人、騎士団長なのに二年前いきなり姿を眩ませて、つい最近戻ってくるまで行方不明だったのだ。

 その間、副騎士団長のジオスさんが団長代理をしていたらしい。


 大分メチャクチャ迷惑な話であるが、実は国が関与できない地方の町なんかの問題を解消して回っていたんだとか。

 カノンさんがため息を吐きながら教えてくれたところによると、氷の都でオーガの群れの討伐、南の砂漠でスフィンクスの討伐、魔法都市で巨大なミスリルゴーレムの破壊。

 そして極めつけが、ゲルニカでの龍の巣の壊滅。

 それら全てを、たった二人で成し遂げたらしい。


 ちなみにこの偉業は全て、アレイさんが持ってきたのが話の発端で、その全部が誰かの為だったらしい。

 幼い子どもとの戯れのような約束や、老人の今際の際の頼み、酒場で聞いた細やかな願いまで。

 それらを叶える為に、この英雄達はたった二人で旅を続けていたのだとか。



「アレイは約束を守っちゃうからねっ!!」

「……現実味の無い話ですよねえ、ほんと。

 てかよくよく考えると、まともに見えて実は一番ヤバいですよね、アレイさん」

「そりゃあ十英雄アタシ達のリーダーだからねっ!!」

「うわ、凄い説得力が……」


 癖の強い十英雄を纏めてる人だもんね。

 普通な訳がないか。


「それはそうと、時間は大丈夫なのかなっ!?」

「あ、そろそろっぽいですね。行ってきます」

「頑張ってねっ!!」


 ひらひらと手を振って闘技場に向かう。

 ……何だかんだ言って、もうレンジュさんを許しちゃってる辺り、私も甘いなー。



 闘技場に着くと、すでにゴードンさんが待っていた。

 片手剣と盾。一般的な装備を身につけて、こちらを睨みつけてくる。

 相変わらず怖い顔だなー。眉間にシワよってるし。


「くそ、ついてねぇ。名前が同じだけだって期待したんだがな」

「こんな珍しい名前、他にいないと思う」


 自分で言うのもなんだけど。似たような名前聞いた事ないしなー。


「二つ名持ちが相手とか思いたくなかったんだよ、ちくしょうが」

「あはは……あ、そういやゴードンさん、家名持ちなんだね」


 この国で家名持ってるのって基本的に貴族しかいないんだけど、ゴードンさんもそうなのかな。


「ああ、田舎貴族の次男だ。今じゃ年一回くらいしか帰ってねえよ」

「そうなんだ。貴族が冒険者って珍しいね」

「おっさんにも色々あんだよ……さて、そろそろか?」

「えっと……手加減してね?」

「喧しいわ、くそったれ」


 お互いの開始線の位置まで下がり、向かい合う。



『皆様、長らくお待たせ致しました。これより、第一回戦四試合目の選手を紹介します。

 実況は私、カツラギカノン。解説はカツラギアレイです』

『白門側、ベテラン冒険者のゴードン・マクスウェル。顔が怖いが面倒見もよく、周りから慕われています。

 剣の腕前もかなりのもので、期待できそうです。


 対して赤門側、オウカ。二つ名持ちの冒険者で、その功績は王都で知らない人はいないでしょう。

 予選では素手での戦闘を見せてくれましたが、本戦ではどうなるのか楽しみですね』


 あれ、解説アレイさんじゃね? こういうのやるんだ。意外。

 あーいや、カノンさんに頼まれたのかな。何だかんだ言って妹に甘そうだからなー。



『それでは第一回戦四試合目、開始!!』



「おっと。んじゃ、やりましょうか。リング!」


 拳銃を引き抜いて相棒に声を掛ける。


「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 足元から立ち昇る薄紅色の魔力光。

 戦友とも言える人と今から戦う。それが何だかおかしくて。

 自然と笑みが零れる。


「弾丸を非殺傷に変更」

「――完了しています」

「花丸をあげる」


 腰を沈め、構える。左手を突き出し、右手は逆手、顔の横。

 浮かんだ笑みはそのままに、告げる。



「さあ、踊ろうか」



 言うのと同時に駆け寄ってくるゴードンさん。肉薄。迫る剣。

 やはり、優しい人だ。こんな場面でも加減してくれている。


 突き出した左の拳銃、その銃底をそっと這わせ、軌道を外に逸らす。

 近接距離。勢い余って踏み込んだ足、それが地に着く前に、膝を蹴り飛ばす。

 体勢を崩しながらも突き出された盾は、回りながら躱した。


 剣を狙い、銃撃。手から弾き飛ばし、流れるように左の肘を腹に突き刺す。

 右手側にブースター展開、出力最大で加速。


 深く差し込まれたそれは、ゴードンさんの身体を場外まで吹き飛ばした。


 壁に叩きつけられ、咳き込む姿が見える。

 狙い通り、大きな怪我は無いようだ。


『勝者、オウカ!!』

『正に圧巻、二つ名持ちは伊達ではなかったようです。準決勝出場、おめでとうございます』


 魔道具で拡大された声を聞きながら、ゴードンさんに歩み寄る。


「大丈夫?」

「くそったれ。化け物かよ」

「失礼な。ただの町娘よ」

「お前のような町娘がいるか」


 いつかと同じやり取り。相変わらず失礼な物言いだ。

 私自身はただの町娘なのに。


 状況終了。ホルダーに拳銃を戻し、桜色が舞い散る中で彼に手を差し伸べた。



 手を掴んで引っ張りあげようとして、力が足りず、すっぽ抜けて後ろにひっくり返ってしまった。


「あだっ!?」


 お尻! お尻ゴンっていった! めっちゃ痛い!


「……これが俺に勝った奴か。なんとも言えん気持ちなんだが」

「あ、えーと。なんか、ごめん?」


 お尻をさすりながら、とりあえず謝っておいた。



 さて、準決勝は知らない人が相手だけど……

 まあ、怪我しないくらいで頑張りましょうか。


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