第77話
武術大会初日。
今日は予選と一回戦が行われるらしい。そんで明日が準決勝と決勝戦。
予選は勝ち抜け式、みんなで一斉に戦って勝った人が本戦に進めるんだとか。
あと、予選では武器の持ち込みが出来ない。
控え室に置いてある物から自分が使う武器を選ぶらしい。
とは言っても力も経験も無い私に使える武器なんてあるはずもなく、見た感じ防具っぽい革の手甲を着けてみた。
いや、鉄製の手甲もあったんだけどさ。そっちは重いしサイズが合わないんだよ。
てかまー、開始早々棄権するつもりだから関係ないけどね。
そのあと誰か知り合いを誘って屋台巡りでもしたいなー。
ちらっと見た感じ、珍しい屋台がいっぱいあったし。
武術大会よりそっちの方が面白そうだ。
あーでも、最終日の英雄の部は見ておきたいかなー。
「あれ? もしかして貴女、オウカさんですか?」
いきなり女の人に声を掛けられた。
誰だろ。知らない人だと思うんだけど。
「へ? あ、はい。オウカですけど」
「やっぱり。聞いてた通りの見た目だからすぐ分かりました」
「えーと……どちら様ですか?」
栗色の髪に白い肌。全体的に細身だけど、革の胸当てはそこそこ膨らんでいる。
何より、顔立ちが愛らしいと言うか、超可愛い。
これはあれかな。英雄の関係者かな。
「あ、すみません。アレイさんの弟子のリリアと言います」
「アレイさんの?」
「自称ですけどね。認めてもらえるまで名乗り続けるつもりです」
「おお……なるほど?」
やっぱ関係者さんでしたか。
てか、アレイさんの、弟子? あの『
何だろう。この人すっごい可愛いんだけど……ちょっと変わってるのかもしれない。
だって自称とは言え、あのデタラメな動きをする英雄の弟子だし。
「オウカさんの話はよく聞かされてます。主に騎士団長から」
「……うっわ。聞きたくないなーそれ」
「ふふ。何でも百年に一度の逸材だとか」
「それ絶対ろくでもない意味ですよね?」
「あと、騎士団長に一撃当てたとか聞いてます」
んん? なんだそれ。全く覚えが無いんだけど。
あの化け物じみた速さのレンジュさんに一撃与えるなんてこと、私には……あ。もしや。
乙女の危機を感じた
「あー。まあ、そんなこともあったような」
「わあ、本当なんですね。凄いです」
「や、あれは何て言うか。乙女の意地です」
「……なるほど。流石です」
何が流石なんだろう。
てか、なーんか距離感掴み難いな、このお姉さん。
ふわふわしてるのに、それでいて芯が強そうな感じがする。
「私も頑張らないと。本戦で当たったらよろしくお願いします」
「あ、はい。その時は手加減してくださいね」
まあ、私棄権するんだけどね。
差し出された手を取り、握手。
にこりと微笑んで、武器置き場の方に去っていった。
予選で使う武器を見に行ったのだろう。
ううむ。何か、変に緊張したなー。
ちょい苦手なタイプなのかもしんない。
まーいいか。どうせ本戦なんて出られないだろうし。
ぱぱっと終わらせて観客席から応援するとしよう。
しばらくして名前を呼ばれ、周りのみんなと闘技場の方に移動した。
てくてくと着いて行くと、次第に歓声が聞こえてきた。
会場に出ると、物凄い数の人が周囲の観客席に立っていた。
うわあ。人の数が凄いなー……何百人いるんだろ、これ。
何となく、隅っこの方に移動。目立ちたくないし。
予選の人数は三十人くらい。そのほとんどが男の人だ。
と言うより、私以外全員だな、これ。
めっちゃ浮いてるよね、私。
て言うか、さすがにこんだけ人が居たらビビるんだけど。
『実況は引き続き、私ことカツラギカノンが担当致します』
『解説はみんなの騎士団長っ!! コダマレンジュだよっ!!』
おっと? 何か知ってる名前が聞こえてきたんだけど。
カノンさん、ただでさえ忙しいのに実況とかしてんのか。
レンジュさんは……まあ。いるかなーって気はしてた。
こういうお祭り騒ぎ好きそうだし。
『そろそろ予選Cグループの試合が開始されます。注目点はありますか?』
『そりゃあもちろんっ!! 王都のアイドル、殺戮幼女、オーガキラー!!
誰が幼女だこら。降りてこい、風穴開けてやる。
あ、いま拳銃ないわ。くそう……覚えてろよ。
うわ、てか参加者が一気にこっち見た。
やめて、みないで、この人数にやる気マンマンな目で見られんのは怖いって。
『
『……あの、疑問だったのですが。オウカさんって専用武器無しでの戦闘は可能なんですか?』
『あ。………ではCグループ、開始っ!!』
『ちょっ、まさか考え無しですか!?』
号令に合わせて闘技場内の人が動き出す。
……ほーら大正解。やっぱ何も考えてなかったわ。
よっしゃ。こうなったら全力で叫ぼう。
『なおっ!! 大会規定により棄権は認められないからねっ!! オウカちゃん頑張って!! 愛してるっ!!』
…………。
あの人。絶対。ぶん殴る。
あ、いやでも、大きな怪我をする前に適当に負けちゃえば大丈夫なはず。
……大丈夫。大丈夫だから。
だからこっち来ないでぇぇぇ!!
ぎゃああああああ!! 寄るなあああああ!!
筋肉の塊みたいなおっちゃんから、必死になって逃げる。
幸いこっちの方が足は速い。何とか逃げ切れそうだ。
そう思って視線を前に戻すと、待ち構えていた別のおっちゃんが剣を振り上げていた。
あ。やば。
躊躇いがちに振り下ろされる片手剣。凄く速いはずなのに、その軌跡がゆっくりと見える。
自然と剣の横腹に手の甲を添えて流れを逸らす。
くるりと回転して、遠心力を乗せた踵を彼の手に打ち付け、武器を蹴り飛ばした。
……あれ?
私を掴もうと伸ばされた腕を掻い潜り、自然と懐に潜り込む。
強く踏み込み、生まれた衝撃を逃がさず伝え、脚から腰へ流す。
関節を通る度に加速。背中、肩、腕を通り、増幅された力を掌へ。
――衝撃。
私の倍くらい大きな体が、吹き飛ばされた。
なんだこれ。いや、なんだこれ!?
いま、何やったんだ、私!?
……あ、いや。よく分かんないけど、何となく分かる。
トオノリュウ・シャクヤク。
踏み込みで生まれた力を体内で増幅させて打ち出す技。
最小の動きで最大の効果を生み出す技法。
何故だかそれを、理解出来る。
後ろから斬り払い。
振り返り様、地に倒れ込むように身を屈めて、距離を詰める。
生まれた落下の速度と回転の遠心力を利用して、足元を打ち払い、重心が落ちた所に顎を蹴り上げ。意識を刈り取った。
トオノリュウは本来、体の小さな者が大きな者と戦うための技術。
身を躱し、あらゆる力の流れを利用して、敵を打倒する方法。
……あー。何か前に、ツカサさんが言ってたな。
私の戦い方がトオノリュウに似ているとか何とか。
なるほど。魔力を使わない戦闘ならサクラドライブ無しでもいけるっぽい。
ツカサさんが推薦してきたの、これが理由か。
……知ってたなら先に教えて欲しかったんだけど。
びびって損したじゃん。
まあいいや。何にせよ、これならやれる。
体を開く。腰を落とし、左手を前に、右手は肘を上に向け逆手にして、頭の横に。
さて、いつもの私なら、なんて言うかなー。
たぶんだけど、こんな感じかな。
「さあ、踊ろうか」
突き出された棒。左手で内側に払って、回転しながら踏み込む。
螺旋を描く力を身体に流し、裏拳。派手に吹っ飛び、他の二人巻き込んで場外に落ちていった。
その場で止まらず、前方に跳ぶ。踏み込み、掌底。場外に弾き飛ばす。
本来は衝撃を全て相手の体内に向ける技。だけど今やってるのはその真逆。
衝撃の全てを外側に向け、弾き飛ばす。
場外に出しちゃえば怪我も無くて済むからね。
よし、次だ。自分を含めて、怪我人が出ないように気を付けよう。
『うわようじょつよい……じゃなくてっ!! オウカちゃん無双状態だねっ!!
人がポップコーンみたいにポンポン飛び回ってるよっ!!』
誰が幼女だ、こら。まじで喧嘩売ってんだろあの人。
『ええと、あれは遠野流の構えに見えましたが……どうなんでしょうか』
『そだねっ!!
なるほど。本家とは違うらしい。
まーさすがに地面割ったりは出来ないだろうしなー。
『ああ、また一人飛びましたね……これを見越して推薦を?』
『いんやっ!! アタシは面白半分だったかなっ』
『なるほど。後でオウカさんに謝りましょうね』
『にひひっ!! 実はちょろっと後悔してたりっ!! ……あ、終わったねっ!!』
『そのようですね。勝者、オウカ選手!! おめでとうございます』
『オウカちゃん本戦出場おめでとうっ!!』
「…どーも」
皮の手甲のおかげで特に体にダメージは無い。
関節をクルクル回し、頭を振って乱れた髪を背中に流す。
なんて言うか、まー怪我しなくてよかったけどさ。
何とも言えない気持ちなんだけど。
……よし。とりあえずあの解説、ぶん殴るか。
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