第72話


 オウカ食堂がオープンした三日後、カノンさんからギルドを通して呼び出しを受けた。


 あー。やっぱり呼び出しくらうよね。

 小さな屋台程度のはずが王都全体巻き込んだ話になってるし。

 そんな大事になると思ってなかったから、カノンさんに何も話してないし。

 心境的にはイタズラが見つかったような感じに近い。

 ……怒られるんだろうなー。



 重い足取りで城に向かうと、呼び出したカノンさんとアレイさんに出迎えられた。

 カノンさん、微笑んでるのに何かめっちゃ不機嫌オーラ出てる。

 うわぁ。怒ってる美人こえぇ。


「……ども、お久しぶりです」

「はい。お元気そうで」

「おう、久しぶり。噂は色々聞いてるが」

「……あはは。で、今日はお叱りでしょうか」

「お叱り?……よく分からんが、偽英雄の件だ」

「あ、そっちですか」

「今のところ他の目撃情報は無いが、街道に二体出たのが気になってな。

 で、マコトにこんなもん作ってもらった」


 言いながら少し長めの箱みたいなものを取り出した。

 ……なんだこれ。なんか棒が飛び出してるけど。


「通信機と言う。離れた場所とも会話が出来る魔導具だ。これを定期巡回してくれる冒険者に持って貰う。

 一方通行の使い捨てだが転移機能がついてる奴もあって、こっちは俺ら全員が持つつもりだ」

「……国宝級の魔道具じゃないですかそれ」


 なんてもん量産してんだ、あの人。


「冒険者に渡すのは転移機能が無い通信機だから大丈夫だ」

「それでも大概だとおもいますけど……でもそれがあれば被害抑えられそうですね」

「やっぱりそう思うよな? けど何か、カノンが反対しててな」

「当たり前です。転移機能がある方は持つ人間は限定すべきです」

「この調子でな……」


 なるほど。でも英雄が持つ分には凄く便利な気がするけど。

 ……ん? ちょい待った。


「その転移って好きな所に行けるんですか?」

「ああ、他の通信機のある場所限定だがな」

「あー……私、カノンさんに賛成です。怖い人が一人いるんで」

「分かってくれますか……」

「ええ、そりゃもう……」


 二人揃ってため息をつく。

 悪い人じゃないのは分かってんだけどね。

 そんなアイテム渡したら絶対悪用するよね、レンジュさん。


「……流石にそこまでは無いと思うんだが」

「いや、絶対やらかしますって」

「はい。絶対やらかします」

「ふむ……だが、王国の最高戦力を外すのはなあ」

「あ、それならレンジュさんには普通の通信機渡したらいいんじゃないですか?

 あの速さなら何処に居ても間に合いますし」

「ああ、それは良さそうですね。王都内ならどこでも数秒で合流できそうですし」


 何せ世界最速だ。王都付近ならほんとに数秒で現場に駆けつけられるだろう。

 その能力を有効活用してくれれば尚良いのだけど。


「……なあ。あまり聞きたくないんだが、そんなに酷いのかアイツ」

「私こないだ胸揉まれました」

「私は剥かれましたね」

「お、おう……そうか、分かった。アイツには普通の通信機を渡そうか」

「それがいいです、まじで」

「これで被害を未然に食い止めましたね」


 いえーい、とハイタッチ。

 実は意外とノリがいいよね、カノンさん。


「さて、では次の議題と言うか本題ですが」

「……え?」

「オウカ食堂でしたか。王都中を巻き込んでの大事業、説明して頂けますよね?」


 ハイタッチした手をしっかり掴まれた。

 あ、よく見たら目が笑ってない。

 ちょ、力強い! 痛い痛い痛い!


「待って、私は無実だから待って!! 手がヤバい音鳴ってる!!」

「ああ、すみません。最近の仕事量を思い出してつい力がこもってしまいました。で、無実とは?」

「……いや、最初はギルドの一部を間借りするって話だったんですよ。

 それが、私の知らない間にみんなが話を大きくしちゃってて」

「ほう。しかし、オウカさんの名前が堂々と書かれていますが」

「あれは周りに押し通されました」


 これに関しては、私は潔癖の無実だと主張したい。

 いや真面目に。周りの悪ふざけなのか善意なのかわからない何かで、いつの間にか決まってた事だし


「……全く。あまり仕事を増やさないでくださいね」

「ええ……私悪くないのに」

「最初に言い出した責任はありますよね?」

「あー。それは、ごめんなさい」

「よろしい。それで、順調なんですか?」

「順調過ぎて手が足りないから困ってます」


 初日とか死にかけたからね……


「私も噂は聞いていましたが……それほどですか」

「いやー。焼肉弁当と唐揚げ弁当だけにしたんですけど、売れる速度が初日と変わらなくてヤバいです」

「……今更ですが、お呼び立てして大丈夫でしたか?」

「ああ、大丈夫です。私はお店にあまり出ないんで」


 孤児院のみんなの仕事が的確すぎて、私がお店にいても出来る仕事がほとんど無いのだ。

 せいぜい朝に特製弁当を数十人分作って持っていくだけである。

 嬉しいことに今のところ売れ残りは無いし、美味しく食べてもらえるなら細かい事は気にしない方針で。

 まあ、オウカ食堂にオウカがいないのは変な話だけど。


 今のところ、人手を確保したり食材を調達するのが私の主な仕事である。



「王都の孤児院で働ける子全員来てもらってるのに、まだ人手が足りなくて……いまアスーラの孤児院と相談中です」

「なるほど……王都だけでは難しいですか」

「無理ですねー。休みも交代制にしないとあの子達は延々と働きたがるし……他所から来て住み込みで働けるように、冒険者ギルドの空き部屋借りれないか調べてもらってます」


 休んでほしいって伝えてもこっそり働いてたりするしなー。

 あれ、まじでどうにかなんないかな。


「なるほど……なかなか大変そうですね」

「や、カノンさんほどでは無いです。それに、今だけですし」


 一人で王都全体の経済を指揮しているカノンさんに比べれば、どうという事もない。

 実際、最初を乗り切れば後はスムーズになるだろうし。


 ……まあ問題は、その最初を乗り切れるかどうかなんだけどね。

 人手も確保できそうだし、多分大丈夫だとは思うけど……まー、やってみないと分からないところではあるからなー。



「ふむ……オウカさん、一段落したらこちらも手伝ってみませんか?」

「あはは。またまたご冗談を」

「いえ、割と本気ですよ?」

「……さーて、そろそろ帰らないと。お邪魔しましたー」

「あ、ちょっと、オウカさん!?」


 ちょっと目がマジだった。

 捕まる前に、逃げるが勝ちだ。

 幾らなんでも私にカノンさんの手伝いが出来るとは思えないし。



 空を飛びながら、今度はお弁当をもってこようかなと思った。

 お世話になってるし、一度食べてもらいたい。


 ……もうちょい時間が出来たらね。

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