第71話


 晩御飯を食べに来たギルド職員全員に、先生役の話をしてみた。

 結果は上々。

 元々が冒険者お人好しを支えるために働いてる人たちだ。

 殆どの人が二つ返事で参加したいと言ってくれた。



 そんな中、違う意味で予想外だったのがリーザさん。

 参加の意志を伝えてくれた後、ギルド職員全員分のスケジュール表を作ってくれて、その上教材として簡単な文字の書かれた絵本なんかを持ってきてくれた。


「実はね。私も休みの日に教えに行ったりしてたの」

「おー。そうなんですか」

「完全に無償労働なんだけどね。何か出来ることをって思って」

「さすがリーザさんだー」


 という事で、リーザさんには先生役を纏めてもらうことにした。


 それが一番の失敗だったと思う。



 なんか、私がいない内に常連の冒険者から待ったがかかったらしい。


「面白いことやってるじゃねえか。俺達にも手伝わせろよ」

「そうねえ……先生役は足りてるから、後は店舗なんだけど」

「知り合いに腕のいい大工がいる。任せろ」

「食材の仕入れが必要だろ。商隊に話を付けてやるよ」

「おい、料理出来る奴がいたろ。あいつら呼んでこい」

「どうせなら揃いの仕事着作ろうぜ。大通りの服屋も巻き込むぞ」

「ちょっと待った、食器とかいるんじゃないか?」

「そっちはツテがある。椅子とか机は家具職人とこに話を持っていくか」



 と、このような盛り上がりを見せたと聞かされた。


 一方その頃、私はエリーちゃんも一緒にどうかな、という話をガレットさんのところに持っていっていた。

 見事に撃沈して看板娘をゲット出来なかった訳だけど、その話し合いの場に居なかったのは痛恨だった。

 ツッコミ不在のまま話がどんどん広がり、ギルドの一角を借りる予定だった話が、王都中を巻き込んだ大事業になっていた。



 で、話の全貌を知るまでにかかった日数が三日。

 その間、王都の孤児院で院長さんと話をしたり、お城に呼び出されて偽英雄の件の詳細を話したりしていた。

 これなら何とかなるなー、なんて気楽に思いながらギルドに寄った時、冒険者ギルドの隣に、ギルドより少し小さめな店舗が建設される計画を聞いた時、ちょっと真面目に意味が分からなかった。


 私、数人で細々とやるつもりだったんだけど……



「……リーザさん?」

「止める人が誰もいなくてね」

「……グラッドさん?」

「諦めろ。既に職人連中とも話が着いている」

「…………ええい!! こうなったら仕方ない、希望者全員雇う方向で!!」


 こうして、当初は数人だけで細々やる予定だったお弁当屋さんが、従業員五十名を越える立派なお店へと姿を変えた。



 そして恐ろしいことに、話が決まってたった二週間で建物が完成した。


 働く孤児院の子達は注文を聞いて代金を貰う係と料理を作る係でしっかり組分けしてあり、いつのまにか決められていたメニューは五種類もあった。

 既に食材も届いており、料理係の子達がせっせと下拵えをしている。


 さすがに話が早すぎないかと思ったら、王都中の冒険者が悪乗りして全力で取り組んだらしい。

 善意からの行動なので文句が言いにくい。

 ……まあ一応、後でお礼言っておこう。



 さて、実はこの期に及んで大事なことが一つ手付かずになっている。

 何で今まで誰も気がつかなかったのか不思議な話なんだけど。

 実は、お店の名前、決まってないのだ。


 と言うか、店名が無いことを関係者の誰もが気にしてなかった。

 私はそもそもお店をやるつもりは無かったし、他の人たちは「オウカの店」で通していたらしい。


 いざ開店となり、店名が無いことに気がついた私に、グラッドさんがニヤニヤ笑いながら教えてくれた。

 あの悪人面、分かってて言わなかったな。



 色々な案を主に私が出してみたものの、結局分かりやすいからという理由で、満場一致で店名が勝手に決められてしまった。


 その名も「オウカ食堂・王都本店」

 先に作られていた黒髪の女の子の絵が書かれた看板に、私の目の前でそう書き込まれてしまった。


 私の名前なのに私の意志は無視だ。

 教会に逃げ帰ろうかと結構真面目に考えた。


 てか王都本店ってなに。支店出すつもりとか無いよ?

 ねえ、そこで次のお店の話しないで。出すつもりないんだってば。



 ところで、私の料理を食べたいという要望から始まった話なのに、このままではその要望が果たされない。

 お店に並ぶのは他の子達が作った料理だし。


 という事で、私は作れる時に作れるだけ、お弁当を納品する事になった。

 その時は特別品として売り出して、通常時は定番メニューを提供する方針だ。



 ……むう。話が大きくなりすぎてちょっと意味が分からないけど、目的は果たされたから良しとしよう。

 とにかくお店は明日オープンだ。

 料金高めだし、それほどお客さんが来るとは思わないけど、頑張ろう。





 うん。死ぬかと思った。

 初日だからと強気で用意していた100人前用意してた食材は午前中で完売。

 王都中の肉屋さんや八百屋さんを周り食材を確保、みんなでひたすら料理を作り続けた。

 二百人前売り上げた時点で食材が底をつき、残りのお客さんには急遽手作りしたクッキーを渡して帰ってもらった。


 ……これは、だめだ。

 とても手が回らない。



 という事で、メニューの数を五種類から焼肉弁当と唐揚げ弁当の二種類に変更。

 ご近所さんに話を通し、明日だけ優先的に食材を回してもらえるように交渉。

 明日の仕込みをみんなに任せ、私は食材を求めてビストールへ向かった。


 ビストールの冒険者ギルドにも協力してもらい、食材や調味料を買い集めたり狩りに行ったりして、しばらくの分を確保した。

 これで数日は何とかなる。

 その後は冒険者頼りで王都近隣から食材の確保ができると思う。

 ダメだったらまたその時に考えよう。



 今日はとにかく、休みたい。

 ……つかれたー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る