第67話
夢を見た。黒と赤に彩られた、遠い何処かの夢物語。
「――Sakura-Drive:Limiter release. Ready.」
「
紅い魔力光を無駄に撒き散らし、世界を朱色に染め上げた。
「――識別完了:敵性個体をマップに表示します」
「さあて………では、やろうか」
眼前には万を越える軍勢。
他のシリーズは皆撃破された。
残るは当機のみ。
勝ち目などある訳がない。
それでも、遂行されるべき使命がある。
「ソロモン。付き合わせてすまないな」
「――お気遣いなく。私の役割は貴女のフォローです」
「損な性分だな、お互い」
「――この身は常に貴女と共に」
「ハ……ならば、噛み殺すぞ。
ここは殺戮の庭。我が魔弾は全てを貫く。
其は即ち、『
「逝くぞ。化け者共を片っ端からぶち抜いてやる」
闇色の髪が風に
戦場を駆ける私は、一発の弾丸。
赦しなど求めていない。
唯この身は敵を殺すために。
手当たり次第撃ち抜く。
この数なら狙わずとも外しはしない。
さあ嘲笑おう。終わりを示す凱歌を歌おう。
我らはここに敗北する。
そしてそれが、次の世代の糧となる。
今日この場で
死んで初めて意味を成す。
試作機として産まれた命だ、元より惜しくはない。
唯、この頑固で一途な相棒に。
広い世界を見せてやりたかったとは思う。
叶わぬ夢だが、我らも願いを持つ程度は赦されるだろう。
さあ、殺し、殺される戦争だ。
一匹でも多くを撃ち貫き、血を浴びて踊ろう。
黒髪を赤く染めて嘲笑おう。
我らが戦友が逃げ延びるまで。
この場は一匹足りとも通しはしない。
「死にたい奴からかかってこい。その命、極彩と散らせてやろう」
自然と、笑みが溢れた。
そして私は目が覚めた。
……なんだか、おかしな夢を見た気がする。
私は私ではなく、リングはリングでない、似ているようで全く似ていない人達の夢。
んー。最近、たまにおかしな夢を見てる気がする。
誕生日にも似たような夢をみたような。
いや、朝起きると大体忘れちゃうけどさ。
眠りが浅いんだろうか。んーむ。枕変えてみるかな。
でっかくて使い心地悪いんだよね、あれ。
ギルドに顔を出すと、珍しいことに誰もいなかった。
受付のリーザさんが暇そうに両手を組んで伸びをしている。
おお……なんか、凄い光景だ。でっかいのがぶるんってなってる。
何食ったらあんなに育つんだろうか。くそう。
「おはよーございます。人、いませんね」
「おはよう。定期的な大規模討伐が終わったばかりだからかしらね」
「にゃるほろ。んじゃ今日はお休みですかね」
「ああ、急ぎじゃないけど一つ珍しい依頼があるわよ」
「お。どんなんですか?」
「アスーラへの配達依頼よ。ただし、壊れ物だから馬車は使用禁止」
馬車禁止。まじか。馬車で一月の距離を歩けと。
てかそれ、アイテムボックス入れちゃえば関係なくね?
うーん。確かに珍しいっちゃ珍しいけど。
「……そんなん受ける人いるんですか?」
「ギルドの配達って、元々届けばマシなレベルに思われてるから」
「なるほど? まー、アスーラなら受けますよ。どうせ買い出しに行く予定だったんで」
「ほんと助かるわー。はい、受領証と小包ね」
すぐさま荷物を渡された。まるで事前に用意していたかのようにスムーズだ。
「……受けさせる気満々でしたね?」
「オウカちゃん、頼りにしてる」
「うぐっ。その笑顔は反則です……やめて、目ぇキラキラさせないで」
「それじゃ、よろしくねー」
「……はーい。んじゃ、ちょっくら行ってきます」
ついでに魚介類を仕入れてしまおう。
今日はお魚が食べたい気分だし。
空を行き、アスーラに到着。
「ちわーす。どもです」
「おう嬢ちゃん。久しぶりだな。今日も買い物か?」
慣れたもので、門兵さんは空から飛んできた私に普通に挨拶を返してくれた。
「や、今日は配達依頼です。そだ、これ、誰宛かわかります?」
「んー。多分これ、リュウゲジマコトさんとこだな」
「……それって、英雄の?」
「ああ、たまにおかしな条件で依頼出すんだよ、あの人」
うわ。嫌な話を聞いた。また英雄絡みか
てことは多分これ、冒険者ギルドじゃなくて直接持ってかなきゃダメだよね。
私が持ってくるのを見越して王都の冒険者ギルドに依頼したんだろうし。
「はぁ……持ってくんで場所教えてください」
「ああ、大通りの一番端だ。目立つからすぐに分かる」
「どーもです」
教えられた通りを歩きながら、手の中の小包に目をやる。
馬車禁止なんて意味不明な条件を着けたのは、私に受けさせたかったからだろう。
何か用事があるならギルド経由で言ってくれたらいいのに。
しっかし、目立つ家って言われても……あ。あれか。
いや、うん。めっちゃ目立つっていうか。なんだあれ。
灰色の滑らかな岩で囲われた箱?
あ、でも扉っぽいのあるな。ここに住んでんのか。
英雄、やっぱよくわからん。
家? とドアの前に行くと、またよく分からないものがあった。
なんか四角いボタン。その下には、「御用の方は押してください」って書いてある。
えーと。こいつを押せばいいのかな。
……そいやー!
ピンポーン♪
「うわわっ!? え、なにこれ!?」
なんか音が出たんだけど!
しばらくわたわたしていると、がらがらとドアが開かれた。
おお、このドア横に開くのか。始めてみるタイプだわ。
「はいはーい。あ、オウカちゃんじゃん。おひさー」
相変わらずぶかぶか袖のリュウゲジマコトさんが、にっこりと迎えてくれた。
うーむ。観賞用としては良いんだけどなー。
関わるとめんどくさい人が多いのが英雄の難点だよね。
「ども。配達です」
「ありがとー。んじゃちょっと上がってってよ」
「……やっぱ確信犯かこの人」
「えー? 最初から分かってて来てくれたんでしょ?」
「いや、依頼受ける人いなさそうだから受けただけです」
「あ、そなの? ふうん。とりあえず、上がってー」
おう。この人、話を聞く気ゼロだわ。
まーとりあえず、お誘いに乗っておくか。
途中の通路や部屋の中には、見たことが無い物が溢れていた。
と言うか雑多な物で溢れかえっていた。人が一人ギリギリ通れるスペースしかない。
……よくここで生活できんな。
通された部屋でお茶っぽいものを出してもらった。
これ、緑茶ってやつかな。
渋いけどなかなか癖になる味だ。
「んで、アレイには会えたんだよね?」
「おかげさまで。色々と聞けました」
「その当たりはカノンから聞いてるよ。人造英雄だっけ」
「らしいですね。自分でも驚いてます」
「んー。ね、オウカちゃん。「サーバー接続」って言われて、意味分かる?」
「……なんかそれ、聞き覚えがあるような気がします」
なんだっけ。魔法用語?
何となく、よく知ってる言葉のような、そうでもないような。
「対魔王用人造英雄Type-0【killing Abyss】
Type-0ってことは試作機かな。て言うことは、収集したデータをバックアップする機構があるはずなんだよね。だとしたら、無線接続できるサーバーが理想なんだけど、設置するとなると上空になっちゃうし、そうなると空中都市か或いは衛生軌道上、はたまた世界そのものをデータ蓄積の為のシステムに組み込んだのか。いずれにしても興味が尽きない話になるんだけど、一番気になるのは【killing Abyss】がシリーズ番号なのか個体番号なのかってところなんだけどボクの所感では個体番号に該当すると思うんだけどそこんとこどうなのかな」
……は?
「いや、なに言ってるかさっぱり分かりません」
「えー……そっか、残念。とりあえず、はい。これあげるね」
「なんですか、これ」
ギルドカードみたいな物を渡された。
て言うか、偽英雄が落とす銀のカードの方が似てるかも。
「えーと。情報媒体、でしたっけ?」
「そうそう。それ読み込めば使用デバイスが増える他にリソースの効率が高まるはずだよ」
「……つまり?」
「拳銃無くても空飛べる」
おお。それ超便利だわ。
「ありがとうございます。試してみますね」
「……そこで受け入れるのが凄いよねえ」
「え。ダメでした?」
「いんやー。あ、それ背中に展開されるように設定してるから使用時は……っと。まあ、とりあえず広いとこで使ってみて」
「了解でっす」
なんか便利そうなのもらったな。帰ったらさっそく試してみよ。
「あとね、オウカちゃんはもっと人を疑うべきだと思うよ?」
「え、何ですかいきなり。ちゃんと相手を見てるつもりですけど」
少なくとも知らない人からお菓子もらったりは……してるわ。
うーん。でも、相手は見てるつもりだけどなー。
「よく知らない人間の出したよく分からない飲み物を、疑いもせずに口をつけるのは危ないよ?」
「……へ? や、知ってる人ですし」
「ふむむ。この先、色々と苦労しそうだなぁ。アレイに似てる気がする」
「止めてくださいよ、縁起でもない」
あの人絶対十英雄の中で一番の苦労人だと思うし。
見た目はぱっとしないけど、なんか頼りたくなる人なんだよね。
「ま、何かあったらいつでもおいで。話くらいは聞いたげる」
「そりゃどうも。何もないのが一番ですけどね」
「そう? ボクは波乱万丈な方が人生楽しめると思うけどねー」
「勘弁してください。平穏無事が一番です」
「……ほんと、アレイみたいな事言うねえ」
じっと猫のような瞳で見つめてくる英雄に、少したじろぐ。
この人、目力凄いな。奥底まで見透かされてる感じがする。
何となく、居心地悪いというか…
「……とりあえず、今日はもう帰りますね」
「あ、そう? また遊びに来てねー」
「ええと…機会があれば」
いつかのように袖をぶんぶん振られながら、謎屋敷を後にした。
何かあの人、やっぱりちょっと苦手だわ。
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