第65話


 目を覚ますと、知ってる美少女カエデさんの顔が目の前にあった。


 目を合わせる。一秒、二秒、三秒……


 むう。やっぱり可愛いな顔してるなー。


 ……じゃなくて。なんだこの状況。



「ええと……おはようございます?」

「……よかった。意識は、戻った、ね」


 口元を拭いながら、にこりと微笑んでくれた。

 おお、眼福。いや、そうじゃなくて。


「えっと、ちょっと現状が把握出来ないんですが」

「刺さってた矢を抜いて、解毒した後に、自己治癒能力を高める、ポーションを飲ませ続けた、の」

「……矢?」



 ……あー。ちょい思い出してきた。

 骨野郎に後ろからやられたんだっけ。で、入り口まで何とか歩いて……

 あれ? その後、どうなったんだ?


「集合墓地からは、グラッドさんが抱えて、運び出したんだ、よ」

「なるほど。今度お礼言っときます。あ、てか、カエデさんもありがとうございます」

「ん……腕は大丈夫?」


 左腕を見ると包帯が巻かれていた。

 動かしてみると違和感はあるけど、そこまで痛くはない。


「キョウスケさんはいないし、すごく困った、よ」

「へ? そうなんですか?」

「うん。解毒のポーションとか、久しぶりに、作った」

「あー……なるほど。ご迷惑お掛けしました。

 ……で、あの、ここどこです?」

「治療院だよ。ベッドが空いてたから、運んでもらった、の。

 ちなみに、倒れてから三日経過してる、よ」

「え、三日も!?」


 まじか。そんなに寝てたのか私。めっちゃ迷惑かけちゃったな。

 関係者みんなにお礼言わないと。


 ……てか、あれ?

 なんか、服が、変わってんだけど。

 襟口引っ張って中見たら、下着着けてないんだけど。


「…………あの。服って」

「臭いと汚れが、酷かったから、私が体を拭いて、着替えさせたの」

「……そですか」


 つまり、見られた訳ね、全裸。

 まーカエデさんならいいけどさ。

 ……いや待て。まてまてまて。


「あの。ポーション、飲ませ続けたって……どうやって?」

「……医療行為だから。気にしない、で」


 頬を赤らめて目を逸らすカエデさん。そういえばさっき、口元拭いてたな。


 ……いやほんと、すんませんでした。ありがとうございます。




「うん。毒も消えてるし、怪我も問題ない、ね。痕も残らないとら思う、よ。

 でも、オウカちゃん。怪我の治りは、早いけど、強度は並だから、気を付けて、ね」

「はい……心配かけてすみません」

「ん。みんな心配してたから、後でギルドに顔出してあげて、ね」

「そうします。色々と面倒かけました」

「うん。じゃあ、ね」


 カエデさんは小さく手を振って、そのままぱしゅんっ、と転移で消えてしまった。あれ、やっぱり便利だなー。



「――オウカ」

「お。どした?」

「――申し訳ありませんでした」

「……うん?なにがよ」


「――あの時:警告が遅れました。

 ――私がもっと早く:魔力反応に気づいていれば、貴女は負傷せずに済みました。

 ――貴女をサポートする役割を:私は果たす事が出来ませんでした」


 ……ほう。こいつ、そんな事考えてたのか。

 ちょっと真面目すぎないか。


「あのさぁ。あんたはちゃんと教えてくれたじゃん」

「――しかし:もっと速く正確なアドバイスが出来たかと思われます」

「しかしもカカシもねーわよ。あんたは悪くない。油断した私の責任。私はいつも、リングに助けられてるわ」


 実際、リングが居ないと戦うことすらロクに出来ないんだし。

 他にも、探してもらったり、アドバイスしてくれたり。


「――オウカ。私は……」

「気になるんなら、次から気を付ければいいじゃん。私も気を付けるけど、大雑把だからさ。

 ……頼んどくわよ、相棒」

「――……了解:常に最善を尽くします」

「ふふ。固いのよあんた。もうちょい適当にやんなさいよ」

「――努力します」


 本当に、いつも助けられてばかりなんだけどな。


「ま、近い内にリベンジはしたいけどね」

「――魔物は96%撃破済の為:必要性が感じられません」

「あー。ま、それもそだね。じゃあ、いつか、だね」

「――はい:いつか」


 くすりと笑った。

 何となく、リングも笑っている気がした。



 ギルドに顔を出したら、グラッドさんが死にそうな顔で正座してた。その後ろでリーザさんが仁王立ちしてる。

 ……なんだこれ。


「…………あの」

「オウカちゃん! 怪我は大丈夫なの!?」

「はい。ばっちりです。起きるの遅くなってすみませんでした。

 ……で、そこのギルマス何してんですか?」

「この人は目下反省中よ」

「は? 反省?」

「通常なら複数人のパーティで当たる仕事にオウカちゃん一人で行かせた件に関して」


 えぇ。大分今更じゃないかな、それ。

 自慢じゃないけど色々とやらかしてますよ、私。


「そんなん、冒険者なら自己責任じゃないですか? 私も断りませんでしたし」

「そうも行かないわよ。十五歳の女の子を一人で行かせるなんて普通は有り得ないんだから」

「……この件に関してはリーザが正しい。俺の判断に誤りがあったのは事実だ」


 うーん。そんな事言われてもなー。

 私も納得済みで行ったんだし、グラッドさんだけの責任じゃないと思うんだけど。

 さて、どうしたもんかな、これ。



「んー……んじゃ、グラッドさんの奢りで美味しいもん食べましょう。それでチャラで」

「おま、さすがに軽すぎないか?」

「や、だって私の油断が原因ですし。それに今、生きてますから」

「……そうか、分かった。今日は俺の奢りだ、好きなもん食わしてやる」

「お、やった。じゃあ材料費頼みます」


 よっしゃ。久々に全力を出そうか。


「む? 材料費だと?」

「迷惑かけた全員分。心配かけたお詫びを兼ねて、作ろうかなーと。

 あ、みんな知り合いの人じゃんじゃか呼んでください。今日はグラッドさんの奢りなんで!!」



 私の言葉にギルド内が沸いた。

 何せタダ飯だからね。お誘い合わせの上、お越しください。

 今日は作りたい放題だ。腕がなる。

 手を上げて場を煽ると、皆で乗ってくれた。良い感じだ。


「……大した奴だな、お前」

「にひ。よく言われます。んじゃ、食材の買い込み行って来ますね」

「ああ、ギルドに請求する形にしとけ。俺は少し寝る」

「……ギルマス、三日も寝てないのよ」

「……うわ。分かり辛い優しさですね。強面の癖に」

「うるせぇ、さっさと行ってこい」


「んじゃ、行ってきまーす!!」



 さあて。お肉屋さんを攻める前に、エリーちゃんに顔見せとくか。

 たぶん心配かけちゃっただろうし、お詫びに誘ってしまおう。

 ご飯はみんなで楽しく。それが一番だ。





 震える指先は、拳を握って隠した。


 死の恐怖に怯えるのは、一人でベッドに潜った後でいい。

 みんながいる間は、いつものようにひたすら楽しもう。

 強く明るく。私は、私らしく。強い私でいる為に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る