第64話


 集合墓地の地下はちょっとしたダンジョンみたいになっている。

 深さは地下三階まで、広さは町の半分程だろうか。

 この広さでも足りないくらいの人が戦争で亡くなったのだと聞いた事がある。


 でまあ、焼いた骨を小さな箱に入れて埋葬するんだけど、埋葬地付近にはアンデッド系の魔物が発生しやすい。

 死者が魔物になるとか、死者が仲間を求めているとか色々言われてるけど、詳しいことは分かっていない。

 アンデッド系の魔物が沸くので、ダンジョン同様定期的に狩る必要がある。らしい。


 うちの町には集合墓地とか無かった。

 アンデッドの知識もシスター・ナリアに聞いた話と冒険者ギルドで聞いた話が元だったりする。



 とにかく、地下三階の隅っこまで行って戻ってくる間、遭遇した魔物を狩るお仕事だ。

 さっき潜ってた人からは数が多くて途中で撤退したって聞いたけど、確かにちょっと数が多い。

 リング製のマップに映し出された赤い光点は約二十個。

 でもま、このくらいなら、特に問題ない。

 アンデッドだけならいける。はず。たぶん。

 ……やばかったら死ぬ気で逃げよう。



 敵を視認して、魔力を圧縮、遠くから狙撃。

 この繰り返しでスケルトンとかゾンビっぽい奴とかバンバン撃ち抜いていく。

 地下一階、終わり。



 続いて地下二階。

 階段降りて角曲がったら、ゾンビが目の前にわんさか居た。


「ぎゃあああっ!?」


 軽くパニクって銃を乱射しながら一階に逃げ返った。



 あーびびったー。

 いや、アイツらそこまで強い訳じゃないんだけどさ。腐りかけの死体が視界の端から端までいたらね。

 しかもこっちに寄ってくるし。

 こう、背筋がぞわわわっと。なんて言うか、こう、生理的にキツいもんがあるのよ。



「うぅぅ……リングッ!!」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition!!」



 見慣れた薄紅色が立ち昇る。恐怖と共に嫌悪感が消え失せる。

 良し、落ち着いた。気を取り直して掃除の続きをやるか。


「踊ってやる。蘇ったことを後悔しろ」



 地下二階。先程と同じようにゾンビの群れが居た。

 臭いが酷い。これ、帰ったら風呂直行だな。


 数は多いけれど動きは遅い。

 近寄られる前に頭を撃ち抜いていく。

 屋外ならともかく、室内なら壁際まで届く。


 一匹一発。両手で交互に撃ち抜きながら、マップで周囲を確認する。

 進行方向以外に赤い光点無し。大丈夫だとは思うが、気は抜かない。


 端まで行って、再度マップを確認。

 綺麗に片付いたようだ。

 少し戻って地下三階に向かおう。


 そう言えば、こいつらの討伐部位ってどうなるんだろうか。

 アンデッドは倒したら塵になって消える。となると、証明部位は残らない訳だけど。

 今度グラッドさんに聞いてみるか。



 地下三階。スケルトンとゾンビに加え、ふわふわ浮いてる白い奴がいた。

 ゴースト、なのか、あれ。

 とりあえず撃ってみる。命中。そのまま、塵となって消えて行った。

 ふむ。倒せるなら何でもいいか。



 戦闘中は、銃で撃てるものは怖くない。

 普段は魔物とか見ると結構怖いんだけど。

 サクラドライブの影響、ヤバいな。


 ……ここだけの話、未だにお化けは怖いけどね。

 いや、ゴブリンとかは大丈夫なんだよ。あれって魔物だし。

 ただなんて言うか、よく分からないものが怖いと言うか。

 単純に、撃ち抜けないものが怖いだけかも知れないけど。


 とにかく、弾丸撃っ放せば倒せる以上、こいつらは怖くない。

 種類が増えてもやることは変わらず。ひたすら撃ちまくって先に進んだ。

 アンデッドって大体動きが遅いから楽と言えば楽だ。



 見た目さえ気にしなければ。

 うん。見た目さえ気にしなければ。

 あとにおいも。



 サクラドライブ使用中なら問題ない。問題ないというか、我慢できる。

 何がヤバイかと言うと、効果終了後だ。

 通常時にアイツら思い出したらトイレとかヤバい気がする。

 ……早く終わらせて早く帰ろう、うん。



 しばらくの間、見かけ次第撃ちながら進んだ。

 そういやこいつら、倒したら塵になるのは何故なんだろうか。

 死体を元にして生まれるんなら、倒したら死体残るんじゃないだろうか。

 いや、残っても困るからいいんだけど。その辺り、謎だな。



 どうでもいい事を考えていると、黒いぼろ布を着たスケルトンのような奴がふわふわと浮いていた。

 大きなを鎌もって、ケタケタ笑っている。

 なんだろこいつ。初めて見る。



「リング。こいつ、何?」

「――解析結果:名称『リッチ』

 ――上位のアンデッドです。

 ――触れると生命力を奪われるので注意してください」

「……んー。よく分かんないけど、触ったらダメなのか……っと」



 いきなり突っ込んで来たので、伏せて躱す。

 そこそこ速いな。油断は禁物と言うことか。

 まあ、油断なんてしないけど。


 お返しに一発撃つと、鎌で綺麗に弾かれた。

 なるほど。鎌は実体があるのか。

 さて、本体の方はどうなのか。銃弾が効けば倒せるけど……とりあえず当ててみるか。


 疾駆。床を蹴り跳躍、壁を蹴り、天井を足場にして、縦横無尽に駆け回る。

 このくらいの狭さなら、周囲全部が地面と変わらない。


 移動しながら撃つ。

 前から、横から、上から、下から。跳び回り、弾丸を散撒ばらまく。

 その殆どが鎌に弾かれる。凄いなこいつ。でも。

 浮いているレイスの真下に滑り込み、真上に向かって射撃。その一発が頭蓋骨を穿つ。


 パキン、と軽い音を立てて、レイスは崩れ落ちた。



「……上位のアンデッド、一撃で消えたわね」

「――消滅を確認しました:敵性反応ロスト」

「了解。状況終了」


 ホルダーに拳銃を差し込む。

 薄暗がりの中、仄かに光る桜色が散っていく。



 んー。改めて、この拳銃めちゃくちゃだなー。

 楽でいいんだけどさ。


 ……あ、うわ、今更ながら背筋がぞぞぞぞって来た!

 あーやだやだやだ。さっさと帰ろう。こんな所に長居したくない。

 


 念の為マップを確認、赤い光点も無し。今居た分は全部潰したようだ。

 よし。帰ろう。急いで帰ろう。そんでお風呂入ってみんなでご飯にしよう。


 でもまずは上に戻って完了報告しなきゃね。

 ついでにエリーちゃんモフりたいけど、さすがにお風呂の後にしとこう。

 腕を上げて臭いを確認してみる。たぶん、大丈夫、だと思うけど。念の為。

 周りの臭いが酷すぎてよく分かんないけど、私も相当やばい気がする。



「――オウカ!! 魔力反応、背後です!!」



 リングの声に反応し、咄嗟に横に跳ぶ。

 とすん、と後ろから衝撃。私の左腕から、矢が突き出した。



 身をよじり拳銃を向ける。弓を持ったスケルトン、その頭を撃ち抜いた。

 反動に、体が軋む。



 ……だああああああ!? 痛い痛い痛いっ!!

 あーもーちっくしょう。油断したつもりは無かったけど……めっちゃ痛いんだけどこれ!?

 左腕が火傷したみたいに熱い!


 恐る恐る見ると、矢が二の腕をしっかり貫通している。

 応急処置をしようにも、やじりが返しになっていて抜けない。

 てか、触ったらくっそ痛い!


 ぐぅぅ……とりあえず、このまま地上に戻るしかないか。

 やばい痛くて泣きそう。てかもう泣いてるけど。

 もう痛すぎて訳分かんない。


「――オウカ!! しっかり!!」

「大丈夫、じゃないけど、何とかする。索敵任せた」

「――周囲に、敵影無し:オウカ、速やかな帰還を」

「あんがと。さぁて……頑張りますか」



 階段を上がる。通路を横切る。沸いてきた敵を右手で撃つ。反動で左腕が軋む。

 腕が熱い。頭が朦朧とする。あー、ヤバいな。これ、毒かもしんない。

 鼓動が早い。体が異様に熱い。視界が霞む。けれども足を止めず、進む。



 壁に手を着き、支えながら歩く。

 頭がぼうっとする。痛みよりも、熱がすごい。

 身体中がめちゃくちゃ熱い。鼓動にあわせて、ずくんずくんと疼く。



 光と、人の声。

 もう少しだ、と思いながら、意識が薄れていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る