第63話
本日は集合墓地のお掃除の日だ。
年に数回、国からギルドに掃除依頼が出るので、手が空いている冒険者みんなで手分けしてやるらしい。
ただこの集合墓地、見えている部分は大して問題ないのだが、地下の部分にゾンビやスケルトン等のアンデッドがうようよいるとの事。
地下から魔物が出てこないよう、それらを討伐するのも今回の依頼に含まれている。
リングで周辺情報が探れる私向きな依頼だ。
基本的に動きが鈍いアンデッドなら遠距離から安全に攻撃できるし。
さてさて。いつも通りやりますか。
などと、意気込んでみたはいいものの。
寝癖を隠すために帽子まで装備して行ったのに、他の冒険者達の満場一致で地上のお掃除担当になった。
地下のアンデッド退治なんて年頃の女の子にさせる仕事じゃないとか何とか。
いや、私解体とか出来るからね? 物理攻撃が効く相手ならそこまで怖くもないし。
……いや、それは言い過ぎか。
まあ、お気遣いは嬉しいんだけどさ。なんか、モヤると言うか。
とにかく。そんな訳で、お手伝いのエリーちゃん含む他の地上組と一緒に、暖かな日差しの中、墓標をせっせと磨いたりゴミを拾い集めたりしている。
厳つい冒険者の集団がゴミ拾いしている光景は中々面白い。
近所の子ども達も手伝いに来ていて、最初は冒険者にびびってたのに、今では普通に会話してたりするのは流石だと思う。
それにしても、意外と誰も文句も言わないで真面目に取り組んでるんだよなー。
普段から魔物と戦うのが仕事とか言ってるけど、こういうチマチマした作業でもちゃんとやるのは凄いと思う。
あとでデザートでも出したげよう。
掃除を開始して二時間。そろそろ出来ることも無くなって来た。
地下組も一旦引き上げて来る頃合いだと思うし、飲み物でも用意してようか。
蜂蜜をエールで薄めてレモンの果汁と生姜の絞り汁を少々。
これを鉄製の筒に小分けして入れておく。
で、こっからが本番。
蜂の巣みたいな魔力の板を作成、その穴に鉄製の筒を差し込んで固定する。
そんで、凍らないように気をつけてキンッキンに冷やす。
つい最近気がついたんだけど、魔力で作った物って暖めるだけじゃなくて冷やすのもできんのよね。
今日は暑いし、こんだけ冷やしてやれば美味いと思う。
量もたくさん用意したし、足りないことは無いだろう。
先に地上組に焼き菓子と一緒に配り、集合墓地の外で一休み。
持ってきた大きな布で日陰を作り、みんなで涼む。
目を閉じると遠くの方で子どもが遊んでるのが聞こえてきた。
しっかし、冒険者になって掃除するとは思わなかったなー。
久しぶりすぎて超楽しかった。
汚れが落ちてくのとか見るの好きなんだよね。
教会に居た頃は洗濯ばかりで年に数回しか掃除出来なかったし、中々貴重な体験をさせてもらった。
見ると、墓標が太陽に反射してキラキラしてる。うん。頑張って磨いた甲斐があった。
雑草もゴミも見当たらない。これでしばらくは大丈夫だろう。
このお墓という物。実は、この世界にその考え自体が無かった。
この世界では、亡くなった人の魂は女神の元に行くと言われている。
そこで新しい命をもらい、世界のどこがで生まれ変わるらしい。
なので、女神教では死は新たな旅立ちなのだと言われ、弔いに関しても祝詞を唱えるだけだった。
その後は疫病対策に遺体を焼き、残った骨を森や海に還す。
そうすることで世界に戻りやすくするのだと聞いたことがある。
墓標を建てる習慣は、英雄がこの世界に持ち込んだ。
彼らの世界では焼いた後の骨を地面に埋め、亡くなった人の眠る場所として墓を建てるのだという。
それに合わせ、戦争で亡くなった身元の分からない人達はみんな、この集合墓地に埋葬された。
『名も無き戦友達、ここに眠る』
墓標にはその一文が刻まれている。
今もここで眠ってるんだろうか。
だとしたら、地下でバタバタしてて寝にくいだろうなー。
綺麗に掃除する為なので、ちょっとだけ我慢してほしい。
しばらくして地下組が戻ってきた。
と思ったら、すぐさまギルドに使いが走って行った。
魔物の数が多くて一旦断念したらしい。
幸い怪我人も居なかったので、一人一人にタオルと飲み物を渡して回る。
鎧を脱ぐのを手伝ったり焼き菓子を配ったりしてると、いきなり後ろ襟を掴まれた。
久々に、ぶらーん、なう。
「……あにすんだこら。撃ち抜くわよ」
「お前、何してんだ?」
案の定、犯人はグラッドさんだった。
困ったようなしかめっ面で、頭を抱えている。
「え、何って。お手伝い?」
「……魔物討伐の人手が足りんと言われたんだが」
「いや、私も地下組に参加しようとはしたのよ。みんなに止められただけで」
「……ああ、大体の事情は理解した。とりあえず、お前行ってこい」
「え。私一人で?」
「お前なら一人の方がいいだろう」
「……むう。なんなのよ、全く」
後ろ襟を離され、着地。
何かよくわかんないけど、今から地下組に移動らしい。
「エリーちゃん、残りの飲み物お願いね」
「はい、任せてください」
「あ。ついでに、帽子もよろしく」
被りっぱなしだった帽子を手渡し、髪を風に流す。うおー。すずしー。
風強いから髪がばっさばっさなるわ。
「んじゃ、頼んだ」
「頼まれました。行ってらっしゃい」
なーんか釈然としないけど……まあいいか。
さっさと終わらせちゃいましょうか。
そんで、終わったらみんなでご飯食べよう。
綺麗に掃除して、みんなで食べた方が美味しいからね。
さって、やるかー。
「……おい、見たか。『
「ああ、帽子で気づかなかったが……」
「おいおい、俺さっき飲み物もらったぞ」
「あの背だと髪隠したらそこらの子と見分けつかんな」
「……お前らな。誰か一人くらい気付いてやれ」
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