第62話


「今回は、発生理由の調査を兼ねてるから、ちょっと調べる、ね」 


 という事で、周辺におかしな所がないか調査中。カエデさんは魔法で、私はリング任せだ。


「リング、なんかあった?」

「――否定:残留魔力が強すぎて検索が困難です」

「そっか。んー。ヒュドラが出てきた原因があるはずなんだけどなー」


 オーガの時も思ったけど……あんなでかい魔物、頻繁に出るもんじゃない。

 聞いた話だけど、魔物は空気中の魔力が溜まって発生するか、動物が魔力を持って変化するか、基本的にそのどちらかしか無いらしい。

 でもあんだけでかいヤツとなると、急に発生するのは無理があると思う。

 誰かが連れてきたか、それか、誰かが手を加えたか。


「――オウカ。地形情報で検索した結果:人が居た痕跡があります」

「お、当たりかな。どの辺り?」

「――マップに表示します」


 えーと。あそこか。

 ……あ。うっすらと足跡がある。よく見つけたな、こんなの。


「他に何かある?」

「――微かにですが:魔道具を使用した痕跡があります。

 ――用途は不明です」


 にゃるほろ。うーむ。とりあえずカエデさんに報告すっかな。


「カエデさーん。ここ、見てもらっていいですか?」



 少し遠くにいたカエデさんに声を掛け、足元を見てもらう。


「確かに、魔道具を起動した痕跡がある、ね」

「他は特に見付からないっぽいです」

「ん、これだと……多分、周囲の魔力を、凝縮する機能、だと思、う」

「え、分かるんですか」

「うっすらと、だけど、ね」


 まじか。リングでも分かんないのに。さすが英雄。

 ふむ。魔力を凝縮って、ハンバーグみたいな感じかな。

 それで無理矢理ヒュドラを生み出したのか。


「でもこれだと、ヒュドラに核が残るんじゃないか、な」

「核? あ、ゴーレムの心臓みたいな?」

「そう。拳より大きな塊だと思うけ、ど」

「……まあ、仮にあったとしても、跡形も残ってないですね」

「…………えへへ」

「可愛いけど褒めてはないですからね?」


 照れ笑いしても誤魔化されませんからね。可愛いけど。

 あれ。てか、オーガの時はどうだったんだろ。核とかあったのかな。

 ギルド戻ったらグラッドさんに聞いてみた方がいいかもしんない。


「ん……探査しても何も引っ掛からないし、帰ろう、か」

「あ、行き先はギルドでお願いできますか? グラッドさんに確認したい事があるんで」

「了解。じゃあ、跳ぶ、ね。魔導式展開」

「あ、ちょっと待って心の準備が――」


 ぱしゅん……っ



◆視点変更:グラッド・ベルガレフ◆



 王都ユークリア、冒険者ギルド。

 いつもの職場で、馬鹿どもがようやく馬鹿騒ぎを終わらせつつあった。



「それでは第四十八回、オウカちゃんと仲良くなろう会議を終わります」

「…やはり、甘味か」

「で、あれば。王都に専門店を作るべきだろうな」

「貴族の旦那、人員手配は俺らに任せてくれ」

「うむ、宜しく頼む。出資は任せよ。我らは同志であるからな」


 心底思う。馬鹿だろコイツら。


「……お前らな。どうでもいいがギルドを占拠するのは止めろ」


 頭痛を感じ、額に手を当てた時。

 ぱしゅんっ、と転移魔法独特の音が聞こえた。


 見ると、入口付近にオウカと英雄のミナヅキカエデが姿を現していた。


「……ぬあー。めーがーまーわーるぅー」

「ただい、ま」


 ふらふらしながら立ち上がろうと頑張っているが、力が入らないようだ。

 尻を着けたまま、ぐらぐら揺れている。

 一方ミナヅキカエデは慣れた様子で、普通に挨拶をしてきた。



「うおっ!? 『天衣無縫ペルソナ』!? それにオウカちゃん!?」

「なんだ!? 転移魔法か!?」

「不味い、書類を持っていけ!」

「旦那、こっちに裏口が!」

「すまん……!!」



 慌てて逃げ出す馬鹿ども。

 どうせなら、もう少し早く帰ってきて欲しかった。



「もー……るっさいわねー。何の騒ぎよ?」

「おう、おかえり……まあ、人がいきなり沸いて出たら驚くだろ」


 一応フォローを入れておく。

 オウカには黙っていて欲しいと頼まれているからな。


「あ、グラッドさん、ただいま。てか、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「分かったから、奥で話すぞ。先に行ってろ」

「あーい」

「お邪魔しま、す」


 普段通りの軽い調子で中に入ったのを確認し、後ろを振り返る。



「……グラッド、行ったか?」

「ああ」

「……危なかったな。間一髪だ」

「……まだ俺達の活動を知られる訳にはいかん」

「……作戦決行は近い。皆、気を付けろよ」

「……応っ」


 馬鹿どもが。いいから仕事しろ。



◆視点変更:オウカ◆


 いつもの応接室っぽい部屋に通されて待っていると、なんだか不満げな顔のグラッドさんがのしのしやってきた。

 向かいのソファに座ると、相変わらず椅子が小さく見える。


「で、さっきの何?」

「……俺も良くは知らん。たまに集まって情報交換してるみたいだが」

「へー。みんな意外と真面目なのね」

「まあ、命懸けの仕事だからな。ああやって団結力を高めてるんだろ」

「そなんだ。今度私も混ぜてもらお」


 そう言えばあまり他の冒険者と話したことが無い。

 今後の為にも、もうちょい絡んどかなきゃダメだよね。

 ごついおっさんばかりなのがアレだけど、みんな良い人だし。


「……いや、それは……あー、ところで、聞きたい事ってなんだ?」

「あ、そうそう。前に討伐したオーガなんだけど、ゴーレムの核みたいなの出なかった?」

「核? ああ、そう言えば大きめの魔石が出たな」

「それそれ。まだ保管してある?」

「いや、確か当日に卸したと思うが」

「ありゃ。そっかー」


 まーそりゃそうだよね。なんか高く売れそうだし、レアだから欲しがる人も多いだろうし。

 うーん。わかってたらあの時に取り置きしてもらったんだけどなー。


「なんだ? あれがどうかしたのか?」

「もし、卸し先が分かったら、お城に連絡をくださ、い」

「それなら調べておくが……必要なのか?」

「不自然に発生した、魔物の核なので、調べたら何か、分かるか、も」

「なるほどな。職員にも通達しておく」

「お願いしま、す」


 どうやらオーガの核を誰が買ったのか調べてくれるらしい。

 凄いな。そんなん分かるもんなんだねー。

 でもそれならとりあえず、一安心かな?


「さてと。ひとまずこれで終わりですか?」

「うん。ご苦労様でし、た」

「んじゃご飯でも食べます?」

「あ、そだね。お腹すいたか、も」

「よっしゃ。準備してくるんで待っててください」


 さって。最高傑作のお披露目と行きますか。

 表の連中にも声かけなきゃなんないから、急ごうか。



◆視点変更:ミナヅキカエデ◆



「……で、どうだった?英雄から見たアイツは」


 走っていくオウカちゃんを見届けていると、グラッドさんから声をかけられた。


「強い、ね。単独で、ヒュドラ退治、出来そうだった、よ」

「危険性は?」

「無いと思う。オウカちゃん、良い子だか、ら」


 そう。良い子なのだ。

 いきなり力を手に入れたにも関わらず、それに依存していない。

 それは、とても稀な事だと思う。

 私もこちらの世界に来た当初は、何でも出来るって勘違いしていた。


 力を使うためには、それを制御する強い心が必要だ。

 オウカちゃんは、それを持っているように思う。


「……そうか。一安心だ」

「ただ、オウカちゃん以外に似たのが居たら、怖いか、な」

「人造英雄か。今のところ発見報告は無いが」


 人造英雄。何者かに創り出された、力を持つ何か。

 その全てがオウカちゃんのように善良という訳では無いだろう。


「もし見つかったら、教えて、ね」

「ああ、その時は英雄に助けてもらうとするか」

「……グラッドさん、過保護だよ、ね。私たちの時もだ、し」

「うるせぇ。面倒事が嫌いなだけだ」


 この人も、顔はとても怖いのに、とても優しい。

 悪い人も中には居るけれど、オウカちゃんの周りには良い人が集まっている気がする。

 それも人徳なのかな? だとしたら、とても良い事だ。

 

 あの子には幸せでいて欲しい。何となく、そう思う。

 それは多分、オウカちゃんを取り巻く人達が、みんな思っている事なのだろう。


 本当に良い子だ。戦わずに済んで、良かったな。

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