第61話
レクリア湖。ユークリア王国最大の湖で、小さな町ならすっぽり入ってしまうくらいの大きがある。
水棲の魔物が多く、ここで捕れる大亀はなかなか美しいらしい。
亀は食べたことないなー。どんな味なんだろうか。今度、市場で探してみるのもいいかもしれないなー。
「あの、大丈、夫?」
「……あー、もうちょい待ってください」
ぱしゅんっ、という軽い音がして転移した後、目眩にやられて座り込んだまま、そんな事を考えてみた。
うおぅ……まだ気持ち悪い。
なんだろ。強いて言うなら目隠しして回転しながら落下した直後、みたいな。いや、体験したことないから何となくだけど。
「そう言えば、昔はみんなも、転移酔いしてた、かも」
「あー。ですよねー」
初見にはちょっと辛いわ、これ
しばらくして、ようやく立ち上がれた。
少しふらつく気がするけど、まあ、直に慣れるだろう。
「あ、そういやヒュドラの居場所って分かってんですか?」
「レクリア湖の西側って、聞いてる、よ」
「んじゃ、ぱぱっと行っちゃいましょっかね」
「ん、ちょっと、待って、ね……魔導式起動」
私達を包むように、白い魔法陣が広がる。
「展開領域確保。倫理式、其は星の重み、真なるは除外、偽りを持って綻びとする。対象範囲設定、実行」
お。何か白い光が足元からふわふわと……おお!?
あれ、私、浮いてる!?
「起動を確認。お待た、せ」
「いや待って、これ、どう飛べばいいんですか!?」
「進みたいと思えば、進める、よ」
試しに前に進みたいと念じてみると、私を包み込んだ光はふわふわと前方に漂いだした。
うわ、すごい!
「わぁ。魔法って、何でも有りなのね」
「理屈を理解できれば、ある程度何でもできる。と思う、よ」
「やっぱ便利だなー魔法」
いやまあ私にはリングがいるからね。
魔法なんて使えなくても……いや、いつかは使ってみたいな、やっぱ。
そのまましばらくふわふわしていると、目標発見。
うわぁ。目立つというかなんというか……あれかぁ。
「……あ、発見。大きい、ね」
「あー。そですね。でかいですねー」
ヒュドラ、大きいわー。普通の家と同じくらいでかい。
てか首全部こっち向いてるし、気づかれてるよねこれ。
不意打ちできたら楽だったんだけど。
しっかし、あのサイズの蛇って、だいぶ怖いなー。
私なんか一口で食べられるんじゃないかな、あれ。
「オウカちゃんが撹乱して、私が仕留める、でいいか、な?」
「はいはいさ。んじゃまあ、やりましょっかー……リング」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition」
立ち昇る薄紅色の魔力光。敵に対する恐れが薄れていく。
既に慣れしたんだ感覚。これも、悪くない。
「踊ろうか、化け物。捕まえてみな」
右手に魔力を廻す、先ずは一撃。
地を駆けながら照準。最大圧縮した魔力弾を射出。
狙い通り、首の一本を吹き飛ばした。
残りの首が全てこちらを向く。
そうだ、私を狙え。
弾丸からブースターに切り替え、右に飛び、噛みつきを躱す。
続けて伸びてきた首を避けながら、隙を見て銃底で殴り飛した。
思ったより面倒だな。首を一つ潰しても、まだ手数が四倍差ある。その上、当たれば即死だ。
集中しろ。先の先を読め。
地に降り立ち、構える。
身を沈め、左手を突き出し、右手は肘を上にして逆手に。
初撃。恐ろしい勢いで近付く牙。銃底で逸らし、銃撃、目を潰す。
その頭を足場に跳び、二撃目の頭を躱す。
三撃目、下から蹴り上げ無理矢理口を閉ざし、反動を利用して下へ潜り込み。
四撃目をやり過ごし、地を蹴り五撃目を避け、銃口を押し付け発砲。
即座に真横に跳ぶ。過ぎ去った頭を撃ち抜き、弾丸を
怯んだ隙にブースターを吹かし離脱。
こいつ、思ったより遅い。これならいけるか。
そう思った瞬間、最初に潰した頭がメリメリと再生した。
速いな。けど、予想が当たってれば普段の応用で行けるはずだ。
けれど、外れていたら、それは致命となる。
構うものか、突っ込め。
「リング、焼き切る」
「――弾装変更:いつでもどうぞ」
「お利口さん」
大きく開いた口、その中に弾丸を叩き込む。
着弾時、込められた熱量が爆発、頭が破裂した。
狙い通り、焼けた箇所は直ぐには再生出来ないようだ。
よし。行ける。
伸びてきた首を躱し、射撃、爆発の勢いで浮き上がる首を下から蹴り上げる。
加速、蛇の化け物に急接近、首を避け、その根元。
射撃、空いた穴に銃口を射し込み、連射。
胴体を蹴って追撃を躱し、離れ際に弾幕を残す。
追ってきた首は二本。
銃底で軌道を逸らし、回転、銃底で殴り飛ばしながら、もう一本を狙い撃ち爆散させる。
身体を左に倒れこませる。その一瞬後、過ぎ去っていく蛇の頭。
側面から圧縮した弾丸を浴びせて潰し、のたうち回る胴体を撃ち抜く。
ちらりと目を向けると、カエデさんは小さく頷いた。
ブースター展開。後方へ加速、動けないヒュドラの攻撃圏外へ。
止めは最強の魔法使いに任せるとするか。
私は巻き込まれないようにだけ気をつけ――
「ふははははは!!我が力、我が業、我が極致を見よ!!
大いなる闇の魔力の前に平伏すがいい!! 『
放たれる
…………は?
思わず戦意が途切れ、サクラドライブが解除される。
薄紅色が舞い散るが、今はそれどころではない。
……ええぇぇぇ。地面、半円に抉れてんだけど。
いや、魔法の威力がおかしいのはこの際おいとくとして。
誰だよ、あんた。私の知ってるカエデさんは悪の親玉みたいな笑い方しないんだけど。
ちょっと控えめで内気な小動物系お姉さんはどこ行った。
「ふははははは!! ………はぁ。おつかれさまでし、た」
すとん、と無表情に戻り、こちらに歩いてくる英雄様。
「いや待って、頭が追い付かない」
「……?」
「や、何で不思議そうに小首を傾げてんですか。こっちは疑問しかないんだけど」
マジで意味が分からない。なんだ、立ったまま夢でも見たか、私。
「……ああ。アレは気にしない、で。加護の副作用だか、ら」
「気にしないでって言われても……えぇ?」
「テンションが、上がった時だけ、性格が切り替わる、の」
「それ、大丈夫なんですか?」
「今のところ、支障はないか、な」
「……おっけい。そういうもんだと理解します」
なんか、あれだね。英雄って、凄いわ、うん。
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