第54話


「ただいまー。当事者連れてきました」

「イグニス・フォレンシアだ。此度は迷惑をかけた」

「……まさか連れ帰ってくるとはねぇ」


 ビストールのギルドにて、三者面談中である。

 アグリアスさんにめっちゃ呆れられた。



「ふん。つまり今回の事は完全に事故だったと?」

「うむ。研究中の事故であって他意は一切無い。すまなかった」


 腕を組むアグリアスさんに、堂々と謝罪するイグニスさん。

 うん、やっぱ悪い人じゃなさそうだな。


「一応お城は潰してきたけど、どうします?」

「悩み所だね。被害範囲が広すぎて、はいそうですか、じゃ済まないからね」

「ああ、そこなのだが。魔物避けの魔道具を持っている。それを提供させてもらえまいか。

 故意では無いにせよ、我輩の犯した罪だ。償いはさせてほしい」


 んー。じゃー後は荷馬車が襲われて流通が止まっちゃった件、かな。


「あ。て言うかイグニスさん、ゴーレム作れたりします? 早く走れるやつとか」

「む? 既に持っているぞ。自走式俊足ゴーレム君三号というのだが、我輩の自信作でな」

「それってどのくらいの速度出ますか?」

「陸地なら、そうだな。我輩の飛行魔法と同程度か」


 はっや。私が飛ぶのと同程度の速度は出せるって事だよね、それ。


「アグリアスさん、イグニスさんのゴーレムなら王都まで一日かからずに着きます。それに荷物を運ばせたらいいかもしれません」

「……それはまた出鱈目だね。流石は魔王軍四天王ってことか」

「む? その四天王と言うのは何なのだ?」

「え。魔王の次に偉い四人とか言われてるやつだけど」

「……我輩が? 魔王なぞ会ったことも無いが」


 まさかの情報だった。

 え、じゃあなんでこの人、四天王とか言われんの?


「……あ。もしかして、人間の軍と戦った事あります?」

「軍かは知らんが、何十年か前に城に不法侵入してきた完全武装した人間達はおったな。その時は自慢のゴーレムで撃退したが」


 なるほど。絵本でも確かに、怪しい城を調べたら四天王のイグニスが現れました、みたいに書かれてたな。

 この人、もしかして何十年も前からずっと勘違いされてた、とか?

 うーん。なんかこのおじ様だと有り得る気がする。


「……ちなみに、イグニスさんって戦争とか好き?」

「馬鹿な事を言うな。我輩は争いは好かん。魔法学さえ研究できればそれで良い」

「人間の事は?」

「それは相手によるのである。気に食わん輩もおれば、オウカのように好ましい人間もいるのでな」


 ふむ。これは、決まりかな。イグニスさん、良い人認定。

 何て言うか、口調は尊大だけど、普通に気のいいおじ様って感じだ。

 今回の件も悪意は無かったみたいだし。


「じゃあイグニスさんは魔物避けとゴーレムを提供してください。

 アグリアスさんも、それで手打ちにしましょう」

「ああ、それならみんな納得行くだろうさ」

「我輩もそれで構わん。他に何かあれば都度言ってくれ」

「んじゃ、私は買い物に行ってから帰りますね」


 さて。様々な香辛料達が私を待っている。

 胡椒に唐辛子、シナモン、バニラ、ローリエ、ナツメグ、オレガノ……ああ、夢が広がる。

 普段は高くて中々使えないけど、ビストールなら格安で買えるし。

 ふふ。大量に買い付けて教会にお裾分けに行こう。


 コートをアイテムボックスに突っ込み、スカートを叩いて伸ばす。



「オウカ、ありがとね。あんたが来てくれて良かったよ」

「どういたしまして。あ、くれぐれも国の方には内緒でお願いしますね」

「ああ、みんなにも口止めしておくよ」

「お願いします。イグニスさんも、私は王都ユークリアにいるから。何かあったらギルドに来てください」

「うむ。世話になったな」

「じゃあまた。今度は遊びにきますねー」


 大きく手を振って、ギルドを後にした。



 市場で大量の香辛料を購入し、店番の犬系亜人の女の子をモフって親御さんに警戒されたりしながらも、目的は達成。

 後は帰るだけ、なんだけど。ま、心残りと言うか。

 後始末のお手伝いくらいはしていこうかな。


 高空でバーニアを吹かしながらリングに話しかける。



「リング。周囲の魔物の位置を出して」

「――検索中……完了:マップに表示します」


 うへぇ。かなりの数がいるなー。

 ……ま、適当に狩っていきましょっかね。



「さってと。全力全開で行くかー。リング」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 桜色を空に撒き散らし、急加速。

 目標。周辺の魔物、全て。



 赤い点に向かって加速。速度を残したまま弾丸モードに切り替え、最大圧縮して射程を伸ばした魔力弾で狙撃。

 巨大な狼の頭が弾け飛ぶ。

 高度が下がる前にバーニアで再加速。


 高度と速度を維持し、遠距離からの狙撃を繰り返す。

 誰かと交戦中の魔物が居れば優先的に向かい、射程内に入った奴はついでに仕留める。


 大猿、大熊、ゴーレム、大カマキリ、地竜、グリフォン。

 その全ての弱点を、寸分の狂い無く撃ち抜いた。


 討伐部位は分からないので、全てそのままアイテムボックスに突っ込んでいく。


 土着の魔物を全部狩ってしまうと他の冒険者の仕事が無くなるので、そこは程々に。

 デカい奴らは元々この大陸に居なかった魔物だし、狩りきっても問題はないだろう。



 夕方辺りまで、ただひたすら狩り続け、赤い点がほとんど無くなったのを確認して王都に戻った。

 討伐数は五十から先、面倒なので数えるのを止めてしまった。

 ギルドで精算する時が楽しみだ。




 王都についてすぐ職員寮のキッチンに向かい、大量のオーク肉を特製のたれに漬け込んだ。

 醤油をベースに臭み消しの香辛料とニンニクを入れた甘辛だれ。

 こいつに一時間くらい漬けて揚げると、ただでさえ美味しいオーク肉が絶品になるのだ。

 今日は強気に五十人前。余ったら私の非常食にするので問題なし。

 漬け込んでる間、ギルドに顔を出すとしますか。



「たっだいっまでーす」

「おお、帰ったか。怪我はないか?」

「オウカちゃん、お帰りなさい。それに、お疲れ様」


 ほっとした様子のグラッドさんと、ニコニコ笑顔のリーザさんがお出迎えしてくれた。


「大丈夫。問題も解決したみたいだし」

「そうか。大事が無くて良かった」

「あ、今晩はめちゃんこ美味いもん作るから期待しててね」

「お前の飯は美味いからな。みんな楽しみにしてるぞ」

「ふふ。きっと驚くわよ? 期待しててねー?」




 晩御飯は、荒れに荒れた。


 いやほんと、まるで嵐のような忙しさだったわ…

 私は結局一口分しか食べられなかったので、後日改めて作ろうと思う。


 あと、ビストールからの連絡を受けたグラッドさんが額を押さえて唸ってたけど、それは見ないふりして早々と自室に逃げ込んだ。

 多分、帰りに狩った魔物の件だと思うし、逃げるが勝ち。

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