第36話


 来た時に自分が掘った穴から飛び出ると、まだ日が高かった。

 今から帰れば日暮れまでに王都に着けそうだ。

 ……今日は何かめっちゃ疲れた。


 魔物とかに会いたくないので、高空を飛ぶ。

 この高さなら周囲を一望できるので安心である。

 良い景色を見ながら焦らずまったり帰るとしよう。



 とか思ってたんだけど。

 なんか、向こうの方にワイバーンの群れが見えるんだよねー。

 しかも何かを襲ってるっぽいし。


「……はぁ。リング」

「――魔族が複数人:襲われています」

「魔族? 魔族って、戦争してた?」

「――肯定」

「ふぅん……ま、とりあえず、行くか」


 高度をそのままに真っ直ぐ突っ込んだ。



 しばらく行くと、詳細が見えてきた。

 たしかに何人かの子ども達がワイバーンに襲われている。

 剣で何とか戦ってるみたいだけど、圧倒的に不利な状況だ。

 中にはうずくまって泣き叫んでいる子もいる。


「やっば! リング!」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」


 桜色の魔力光を曳いてさらに高空へと向かう。


「リング。上空から狙撃する」

「――了解。マップ表示、右目前に出します」

「了解」



 左のコキュートスだけで高度を保ちつつ、右のインフェルノに魔力を込める。

 狙うは斜め下。魔力を最大圧縮。



「さあ、踊ろうか。パーティーの時間だ」


 甲高い音と共に撃ち出された桜色の光は、ワイバーン三匹を纏めて貫き、地面に小さな穴を空けた。

 そのまま斜め下に向かって急降下し、ギリギリでブースター点火、着地の衝撃を和らげ、そのまま駆ける。


「あんた達、伏せときなさいよ!!」


 跳躍、バーニアで加速。再度同高度まで上がり、水平に射撃。

 撃ち抜いた奴を足場にして跳躍、回転、射程圏内全てを狙い撃つ。

 上から突っ込んで来たワイバーンの頭を銃底で逸らし、勢いを殺せず降下する所を撃ち落とした。


 やはり空の敵相手だと効率が悪い。

 射程が伸びたは言え、50m程度では届かない場合もある。

 いっそ下から魔力を圧縮して狙撃するか?

 いや、動いてないとやられるか。


 まあ今回はとりあえず、跳ぶか。


 両側のバーニアに点火、斜め上に吹き飛びながら弾丸をばら蒔く。

 空中を移動しながらだと少し狙いがずれる。

 地上だとそうでもないんだけど……まあ、感覚で補正しながらやろうか。



 片手を推進、片手を攻撃。

 切り替え、加速し、回転、射撃。

 一秒たりとも同じ場所にはいない。

 常に廻り続け、届く範囲を狙う。

 見える物、全て。終わるまで、止まらない。

 ただひたすらに、撃ち抜いた。



 数十秒で全てを撃ち墜とし、着地。

 少しふらつく。今日は飛びすぎだな、私。

 急制動をかける度にどうしても負荷がかかる。

 今の所、対空戦闘が一番のネックだな。

 反撃されない遠距離から攻撃出来ればいいんだけど。


「――周囲に敵性反応無し」

「了解。殲滅完了」


 拳銃をホルダーに差し込み、子ども達を探す。



 あーいたいた。みんなで岩の陰に隠れてるわ。

 青い肌、金色の目。昔聞いた魔族の特徴そのままだ。

 ……なんでか、めっちゃ睨まれてるっぽいけど。


 え、あれ目付き悪いだけじゃないよね?

 なんか露骨に警戒されてるし。剣とか構えてるし。


 その中の一人、一番背の高い子が前に出てきた。

 剣を構えて、こちらを睨みつけている。


「お。見た感じ怪我は無いみたいね。良かった」

「……お前、人間か?」


 うおぅ。その質問、結構刺さるわ…


「人間。っぽいものかなあ」

「……なんで俺らを助けた?」

「え。なに、理由がいるの?」

「普通、人間は魔族を助けたりしない」

「そうかなあ。私の知り合いはみんな助けそうだけど」


 シスター・ナリアとかグラッドさんとか、英雄達とか。

 町のみんなも、多分同じ。

 私の町は戦争の被害が少なかったからってのもあるだろうけど、別に嫌な感情は持ってないし。


 ……あ。そだ、ワイバーンの討伐部位、取らなきゃ。

 確か牙だっけ。めんどいけど……頑張ってナイフで折るか。



「おりゃ。とりあえずあんた達、親は? 一人で来たの?」

「父さんも母さんも、戦争で死んだ。人間に殺されたんだ」


 あー……そっかぁ。だから睨んでたのか。


「んー……とりゃ。自分達でで帰れる?」

「……それは問題ないけど」

「ならいっか。そーりゃ」

「……なんか変な奴だな、お前」

「ええ? そっかなー。普通だと思うけど。せいやっ」


 む。中々、折れない、なっと!


「助けてもらった事には、礼を言う」

「ん。あー、気にしないで。それよりさ、悪いんだけど手が空いてんなら牙折るの手伝ってくんない?」

「ああ、それくらいなら手伝うが」

「まじ助かるわ。とーりゃー!」

「……よっ!」



 しばらくみんなでワイバーンの牙を切り折りした。

 合計二十六匹。大量である。

 皮とか剥ぎ取りたいけど、持って帰れないしなー。

 ガレットさんへのお土産はまた今度だね。



「いやー、助かったわ。ありがと」

「……ああ」

「これ、お礼ね。どうぞ」

「……なんだこれは」


 ポーチから取り出した干し芋を皆に手渡してみた。


「干し芋。いらない?」

「……いや、もらっておく」

「ん。自信作なのよこれ」


 おやつ代わりにしかならないが、携帯食かじるより余程いい。

 その場で座り込み、一口。

 もきゅっとした食感がいい感じだ。


「うまいな、これ」


 お。初めて笑ってくれたな。

 笑うと可愛いじゃん、この子。


「でっしょー?」


 うん。美味しいは正義だ。

 このほのかな甘味と塩味が疲れた体に程よい。

 無言で干し芋をかじる。

 むぐむぐ。



「さって。私はそろそろ行くね」

「ああ……お前、名前は?」

「オウカ。ただの町娘よ」

「フリードだ。お前みたいな町娘はいないと思う」

「……最近よく言われるわ、それ」


 そろそろ返上した方がいいのかもしれない。


「じゃ。あんまし危ないとこ行かないのよ」

「ああ、機会があれば、また」



 ブースター点火、高空に舞い上がる。

 思ったより時間かかっちゃったなー。

 今日はアスーラで宿とった方がいいかもしんない。

 まー、しゃーない。おばちゃんのご飯はまた明日だね。

 ……アスーラだったら海鮮物かなあ。



 空を飛びながら、私の頭の中は既に今晩何を食べるかでいっぱいだった。

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