第37話


 結局昨日は日の暮れまでに間に合わず、アスーラで一泊することになった。

 取れ立ての焼き魚が美味しかったので、まあ良しとする。

 今が旬の魚らしく、味は淡白なのに脂がのっていて、噛む度にじゅわっと魚の旨味が広がる良い焼き魚だった。


 ああいうのは港町じゃないと食べられないんだよねー。



 で、翌朝。朝方に出発し、昼前に王都に到着。

 ひとまず、ワイバーンの牙を持って冒険者ギルドに行くことにした。

 討伐部位、何気にちょっと匂うんだよね。これ持ったまま宿に戻りたくはない。 


「ちわーす」

「あら、おかえりなさい」


 ギルドの受付に向かうと、いつも通りリーザさんがふんわり微笑んでいる。

 眼福である。癒されるわー。


「ただいま。ワイバーン狩ったからこれお願いします」

「はい、預かるわね……って。ねぇ、これ全部?」


 袋を受け取って、リーザさんが尋ねてきた。

 若干、顔が引き攣ってるようにも見える。


「これで全部ですよ」

「……そう。今度はワイバーンの群れかあ。私の常識がおかしくなりそうね」


 ……なんか、ごめんなさい。

 いや、私もちょっと多いかなーとは思ったんだけど、残すの勿体ないし。


「はい、討伐報酬。それで、怪我はしなかった?」

「ありがと、大丈夫です。それに、大分ふっきれたし」

「そう、それなら良かったわ」


 優しく微笑んでくれた。

 心配してくれてたんだ。ちょっと嬉しいかも。


「えっと……じゃ、私ご飯食べてきます」

「あ、オウカちゃん向けの依頼があるんだけど、どうする?」

「え。どんなんです?」

「すぐ近くの炭鉱に出たゴーレムの討伐よ。一週間以内が目安かな」


 ゴーレムかぁ。あの箱っぽいやつを思い出すけど、多分普通のゴーレムだよね。

 岩とか鉄とかで出来た、魔法仕掛けの大きな人形。

 何だっけ。核を元に作られるんだったかな。

 受けるのはいいんだけど……今日はゆっくり休みたい。


「んー。すみません、受けるの明日でもいいですか?」

「ええ、どうせ他に受けられる人いないから」

「わかった。じゃあそうする。またね、リーザさん」

「はい、またね」


 手を大きく振って別れる。

 さて、宿に戻りますか。



 帰りついたらちょうど良い時間になっていたので、そのままお昼ご飯にした。

 今日のランチは鶏肉のトマト煮込みパスタ。

 まずは鶏肉を一口。

 煮込んだからかトマトの酸味が少なくて、むしろ甘い。

 それが香ばしく焼かれた鶏肉と合わさって、何とも言えない風味になっている。

 うまうま。やっぱおばちゃんのご飯は美味しいわ。


 スパゲティをくるくる巻くとソースが程よく絡む。

 これがまた美味しい。歯応えも丁度いい。



 夢中で食べていたら気がついたら全部無くなっていた。

 ううむ……結構な量があったと思うんだけど……

 仕方ない。ここはひとつ。


「おばちゃん、おかわり!!」

「あいよっ」


 育ち盛りだと自分を誤魔化しておこう、うん。


 なんだか最近、食事量が増えた気がする。

 体型は変わってないんだけどなー。

 ……変わってないんだよなー、全く。

 くそう。まだ伸びるはず。きっと。



 昼食後、宿の部屋に戻り、服を部屋着に着替えた。

 髪を櫛でといて、後ろでゆるく括る。

 あー。髪伸びたなー。そろそろ切らなきゃなー。

 でもめんどいんだよなー……うーん。今度適当に切るか。


 何だか疲れてたので、今日はお休みにしよう。

 ああ、自由って素晴らしい。だらけても誰にも怒られないし。

 ベッドに横たわる。ぐでー。


 そう言えばと、遺跡で拾ったカードを取り出してみる。

 やっぱり何て書いてあるか読めないや。


「リング、これ何て書いてあるの?」

「――解析未完了:ですが、古代語です」

「あー、やっぱり古代語なんだ。昔使ってた言葉だっけ」

「――肯定」


 遺跡にあったガラス板に書いてあったのと同じ言葉って事だよね。

 詳しい人に聞いてみないと無理かなー。


「てかリングに彫られてるのも古代語だよね?」

「――肯定」

「んー。まあ、解読できたら教えてね」

「――了解:解読を進めます」

「頼んだー……あたっ」


 転がったまま眺めてたらおでこに落ちてきた。

 地味に痛い。むう……

 もそもそと手探りで探す。あ、頭の上にあった。

 ぬ、取れん……もうちょい……よし取れた。


 あー。髪ほどけたや。まあいいや。

 腹も捲れてる気がすっけど、寒くないし、動くのがめんどい。

 日差しがぽかぽかする。やばい。これ、寝る……




 目が覚めるとなかなかひどい格好だった。

 ……誰かに見られたらやばかったな、これ。


 服の乱れを直し、窓を見ると既に日が暮れていた。

 おお、結構寝てたっぽい? 晩御飯、間に合うかなー。

 お腹も空いたし、ちょっとおばちゃんに聞いてみよ。

 うあー……でもまだ、ちょい眠いなー。


「おばちゃん、晩御飯あるー?」


 一階に降りておばちゃんに声を掛ける。

 なんか、目をまん丸にしてこっちを見てきた。


「そりゃあるけど……あんた、何て格好してんだい」

「ふぇい?」


 なに、格好? 別に何も……

 あ。私、めっちゃ部屋着じゃん。


「あはは。着替えてきます」

「用意しとくからそうしな」

「はぁい」


 一旦部屋に戻り、外着に着替える。

 あーもー。やらかしたわ。



「戻りましたー」

「お。来たね寝坊助」

「あはは。失礼しました」

「ほら、用意してあるから食べちゃいな」

「ありがとございまーす」


 おお。揚げ物だ。それにかぼちゃのスープかな、これ。

 これ何の揚げ物だろ。ん、食べても分からん。美味い。


「おばちゃん、これなに?」

「キラーラビットだよ、昼に仕入れたばかりさ」

「へぇ。キラーラビットってこんな味なんだ」


 角の生えたウサギだけど、食べたのは初めてだな。

 町の周りには居なかったし。


 鶏肉みたいだけど、もうちょい噛み応えがある。

 これ、煮込んでも美味しいだろうなー。


 もっきゅもっきゅ。


 あれ、パンに胡桃入ってる。カリっとして美味しいな、これ。

 お?カボチャスープは、なんだろこれ、ジャガイモかな。

 どっちも茹でて磨り潰してんのね。手が混んでるわ。

 あー。幸せだ。うまうま。


「オウカちゃん、最近よく食べるわねー」

「うっ……何かお腹すいちゃって」

「そんだけ食べりゃすぐ大きくなるわね」

「伸びてくれりゃいいんですけどねー」


 まー大丈夫、横に伸びてはいないし。

 でも運動量増やした方がいいんだろうか。

 うーん……まーいいや。とりあえず、食べちゃおう。冷めると勿体ないし。

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