第23話


 冒険者ギルドにて。


「くく……よう、『夜桜幻想トリガーハッピー』」

「ぶっころす」


 第二回グラッドさん討伐戦、開催。

 リーザさん止めないで、あの半笑いのおっさん撃ち抜いてやる。



「そう怒るな。俺は忠告したろうが」

「私は悪くない。はず……」


 ただ依頼を受けただけだし。


「と言うか、普通は光栄に思うもんだがな」

「町娘に二つ名なんていらんわー」


 つーか二つ名持ちの町娘って何よ。

 真面目に意味分かんないんだけど。


「その自称町娘を止めれば解決するんじゃないか?」

「これは譲れないとこなのよ……」

「そうか。まあ何でも構わんが、『夜桜幻想トリガーハッピー』にお客さんだ」

「今度は何よ……どんな厄介ごと?」

「あれだ、あれ」


 後ろを指差され、振り替える。

 奥の方で中性的な黒髪の美形が、ぶっかぶかの白衣を来て嬉しそうに手を振っていた。

 ……黒髪かあ。最近よく見るなあ。



「……ね、あの黒髪、どちらの英雄さん?」

「リュウゲジマコトだ。お前に会いに来たんだとよ」

「え。うそ、あの美形が?」


 もっかい目を向けると、今度は両手をぶんぶか振っていた。可愛い。

 じゃなくて。

 もっとこう、グラッドさん的な人を想像してたんだけど。

 あんな可愛い人が出てくるとは思わなかった。



「ねー。いつまでボクほっとくのー?」

「あ、ごめんなさい。すぐ行きます」


 ぷんすか怒ってる。可愛い。


 なんだろ。英雄って美形しかいないんだろうか。

 今のところ会ったことある人みんな美形なんだけど。

 ……観賞用としてはとても良いんだけど、関わると途端にめんどくさくなるのが困り所だなー。


「お待たせしました。オウカです。リュウゲジマコトさんですか?」

「うん。キミが新しい楓の被害者だね?」

「……ええ、まあ、はい」


 被害者。うん、確かに被害者だよね。

 と言うか仲間にもそう思われてるんだね。


「あれが無ければいい子なんだけどねぇ」

「お会いしたことは無いですが……なんとなく分かります」


 英雄、癖強い人多そうだもんなー。


「で、聞きたいことがあるって?」

「はい。指輪と、拳銃について」

「んー……それなんだけどね。長くなるから、奥で話そっか。グラッド、奥空いてる?」

「ああ、好きに使え」

「だってさ。いこっかー」


 こちらの手を握りてくてくと歩き出す。

 私は手を引かれるままに着いていった。

 ところでこの人、幾つなんだろーか。



 で。英雄サマ、おんざソファー。

 応接室のソファーの上に、仰向けにごろんと転がっている。

 猫みたいだなこの人。


「指輪と拳銃の話だよね?」

「はい。送ってきたのは貴方だと、グラッドさんから聞きました」

「いやまーボクもアレイから頼まれただけだからね。詳しい経緯は知らないんだ。

 ただ、その指輪型インターフェイスマシンと拳銃型デバイスに関しては、所有者は君だよ」


 気楽な調子で告げる英雄。

 また、詳しいことは分からないらしい。


「ええと。それなら、あなたの知る限りでいいので、教えてください」

「と言われてもねー。ボクが知ってるのは前騎士団長が君を連れてきたらしいって事と、その時一緒に指輪と拳銃を持ってきたらしいって事、くらいかな」

「前騎士団長……ですか」


 三年前、十英雄の活躍で終息した魔族との戦争。

 前騎士団長はその戦いで亡くなった方だったはずだ。


 なるほど、と思った。

 私はてっきりリュウゲジマコトさんが前マスターだと思ってたけど、その前騎士団長さんがリングの前マスターなのだろう。

 だとしたら、リングの検索結果が所在不明となったのも理解できる。


 そして結局、手紙の意図は不明のままだ。

 私の運命とは、何なのだろう。


「ボクとしてはさー、キミに聞いてみたいことがあるんだけど」

「何ですか?」

「ツカサに話を聞いたよ。最適な戦闘記録のインストール、だっけ」

「はい。リング……指輪からそう聞いてます。私が戦えるのは、それがあるからだって」

「何で誰も疑問に思わないかが不思議なんだけどさ」



「戦闘記録を読み込んだインストールしただけで、その行動を真似できる訳ないよね?」



「……え?」


「例えばさ。ツカサの戦闘に関する記録を読み込んだとして、キミは殴って地面を割れるかな?」

「……いえ、無理だと、思います」

「だよね。筋力とか持久力とか、再現するのには十分な肉体性能スペックがいる筈なんだ」

「それ、は……」



 そうだ。例え料理の作り方が分かったとしても、重い鍋を振る筋力が身に付く訳ではない。

 体の動かし方が理解できても、体が着いて来ないはずだ。

 人を蹴って飛び上がったり、宙返りをしたり、身を低くして走ったり、出来る筈がない。



 私はなんで、戦闘行動を再現出来るのだろう。



「あー。自分でも気が付いてなかったのかな」

「……はい。今、初めて自覚しました」

「ま、キミの中では出来て当たり前な事だろうし、普通は意識しないんじゃない?」


 けらけらと笑うリュウゲジマコトさん。

 あまり笑い事じゃないんだけど。

 これじゃ結局、余計に分からなくなっただけじゃないか。

 黒髪、黒瞳、多すぎる魔力に、備わっていない制御力。

 それに加えて、不自然に高すぎる身体能力。


 私は、一体何なんだろうか。


「ま、あれだよね。詳しい事を知りたいならアレイを見つけるんだね」

「カツラギアレイさんですか?」



 十英雄の一人。『疾風迅雷ヴァンガード』のカツラギアレイさん。

 絵本ではあまり描かれていないからよく知らないけど、あのぶっ飛んだ空中機動をしてる、最弱の英雄さん。


「そうそう。ボクに手紙を出すよう頼んだのも、前騎士団長と交流があったのもアレイだからね。

 なにか知ってるとしたらアレイしか居ないんじゃないかな」


 なるほど。つまり、カツラギアレイさんを捕まえれば、今度こそ答えが出るのか。


「でも確か、今は行方不明ですよね?」

「だねー。どうせどっかで人助けしてるんだろうけど」

「そうですか……」


 まあ、一歩前進したと思おう。

 次の一歩が果てしなく遠いけど。


「まあ、まずはカノンに相談するのがいいんじゃない? アレイ探しのプロだし」

「カツラギカノンさんですか?」

「そうそう。伊達に妹やってないからね、彼女」

「そうですか……そうしてみます」


 とりあえず行動指針が纏まった。

 カツラギカノンさんと、一度話をしてみよう。


「……ふうん。やっぱ面白いね、キミ」

「え、はぁ。それはどうも?」

「行動に迷いが無い。アレイみたいだ。好感が持てるね」

「ええと…ありがとうございます」

「うん。頑張ってね、『夜桜幻想トリガーハッピー』さん」


 じゃあね、と手を振り去っていく。

 何だか一方的に話された印象が強いけど、色々聞けて良かったとは思う。

 自分が何なのか更に分からなくなったけど……また今度考えよう。


 とりあえず。まずは王城に行かなければならない。

 主にカツラギアレイさん捜索と、二つ名の撤回の為に。

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