第22話
◆視点変更:トオノツカサ◆
なかなか興味深い人だった。
立ち振舞いはごく普通の、何処にでもいそうな感じ。少し雑だけど明るく気のいい女の子。
それが、戦闘時にはがらりと印象が変わった。
彼女には戦闘に対する恐れや気負いが全くない。
少し間違えば大怪我をするような場面で、楽しそうに笑っていた。
戦闘技術も高かったけど、それ以上に心が強い。
あれほど自然体な戦闘は中々見れるものではない。
あの人は、まだ強くなる。
更に強くなった時、手合わせするのが楽しみだ。
彼女の心の在り方が俺の憧れの人に似ているから、というのもあるけど。
……あの人は今、何処にいるんだろうか。
魔王を倒した、俺達のリーダーは。
京介さんも同じ事を思ったらしく、目を向けると珍しく苦笑してた。
今度また、
そんな事をぼんやり考えていると、目の前に白い魔力が渦巻きだした。
次第に像を結び、知ってる顔が現れる。
「あ、れ。お客さん、帰った、の?」
黒髪で顔半分を隠した小柄な女性。
どこからか、俺達の様子を見ていたんだろう。
「…楓か。オウカさんはさっき帰った」
「そっか……残念」
俯き気味に呟く。なに、知り合いなの?
「…何か用があったのか?」
「最近有名になってるか、ら。二つ名を、贈ろうと思って」
「おや。どのような二つ名ですか?」
ああ、またか。楓は気に入った人に二つ名を付けたがる癖がある。
俺たちは発言力が高いから控えるようにって言われてるのに……。
「うん、と…桜色の魔力に黒髪だ、から……『
「それはそれは。ギルドに通達しておきましょうか」
京介さん、絶対楽しんでる。
相変わらずだな、この人も。
「…文句言いに来る気がするけど」
「それならそれで面白そうですし」
「…まあ、そうかもね」
多分オウカさんが知ったらぶちギレると思う。
けど、京介さんの言うとおり、それはそれで面白そうだ。
英雄と呼ばれるようになって、不審者扱いされたのは初めてだった。愉快な人だと思う。
普通なら黒髪の時点で気付くんだけどな。
……黒髪。そう言えばオウカさんも黒髪だった。
それに眼も。黒真珠みたいに黒かった。
名前も俺達の故郷のものに近い響きだし。
偶然なんだろうか。
……まあ、いいか。悪いことにはならないだろう。
それにもし何かあっても、大抵の事なら何とかなるだろうし。
◆視点変更:オウカ◆
「リーザさん、ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
お昼御飯を食べ終え、冒険者ギルドに帰り着くと、いつものようにリーザさんが出迎えてくれた。
「騎士団行ってきたよ」
「お疲れ様。どうでした?」
「うん。二度と行きたくないかなっ!」
満面の笑みで答えてやった。
「えと、何かあったんですか?」
「五十人くらいの騎士に襲われた」
「うわぁ……それはまた」
「で、それは撃退したけど、勇者に投げ飛ばされた」
「……ええ? どういうことですか?」
うん。訳わかんないよね。私も分かんなかったし。
「何か、悪者と勘違いされたみたい」
「オウカちゃん、改めて滅茶苦茶ですねぇ……今度は勇者ですか」
呆れられた。いや、私は何も悪くないと思うんだけど。
「それに、騎士団員五十人がかりでオウカちゃんに負けちゃったってことでしょ?」
「や、前も言ったけど、私じゃなくて武器が反則なだけだからね?」
「流石に『ただの町娘』は無理があると思うの」
「う……いや、そんな事はないと思う……思いたい」
私自身はごく平凡な町娘なんだけど……最近、巻き込まれ方が凄いからなー。
「それにさっきね、王城から緊急連絡が回って来たんだけど」
「え、なに、いきなり」
「オウカちゃん。正式に二つ名が贈られましたよ」
「……はぁっ!?」
「はいこれ。
ギルドが発行してる通知書を渡される。
そこに私の名前と、その横にしっかり二つ名が書き込まれている。
……おい。発行者、また違う英雄の名前があるんだけど。
ミナヅキカエデ。十英雄の魔法使いだよね? どんだけ英雄と縁があるんだ私。
「……ねえリーザさん、これって拒否とか」
「出来ませんね」
「……自分から名乗る必要は?」
「それはないけど……名乗らないの? 似合ってるのに」
「いやほんと、勘弁してください」
教会戻ったとき、盛大に笑われるネタが出来てしまった。
「あのね、申し訳ないんだけど。これ、ギルドの掲示板に張り出す義務があってね?」
本当に心から申し訳なさそうに紙を見せてくる。
なるほど。つまり周りに知られるのね。
「……しばらく宿に引きこもろうかな」
「えっと。大丈夫、名誉な事だから」
「うあー。二つ名持ちの町娘って意味わかんないんだけど」
「オウカちゃん、町娘ってとこにこだわりがあるの?」
「こだわりっていうか……まあ、事実なんで」
だって私、何者かと聞かれたら町娘と言うしかないし。
最近だと冒険者と名乗ることも出来そうだけど、それはあくまで期間限定。
リュウゲジマコトさんとお話するまでの間、滞在費を稼ぐためにやむを得ずだ。
だとすれば、やっぱりただの町娘になるんだと思う。
それに、凄いのは武器であって私じゃないし。
「とりあえず私、しばらくギルドに顔出すのやめよっかな」
「気にする事ないと思うんだけど……」
「ですかね? うーむ」
「よしよし。元気だしてね」
カウンターに顎を乗せて項垂れていると、頭をぽんぽん撫でられた。
その心遣いが傷心の身に染みる。
「ありがとうございます……」
「こんなに弱ってるオウカちゃん初めて見ました」
うーん。マジで王城に殴り込みして撤回してもらおうか…
いや、さすがにそれはダメか。
今度十英雄に会ったら直接頼んでみるか。
……いや。会わない方がいいんだけど、何となく、遭遇する気がするんだよなぁ。
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