第7話


 がたごとがたごと、朝から馬車に揺られて数時間。

 ようやく王都ユークリアに到着した。


 第一印象。でっかい。

 お城とか、街並とか、門とか。全部でかい。

 ついでに門番の人もでっかい。私が腕にぶら下がれるわアレ。

 …いや、私の背が低いだけかもしんないけど。


 とにかく見えるもの全部が大きい。私が住んでる町の何倍だろうか。

 こんな凄い場所なら美味しいものもたくさんあるだろう。

 今から楽しみ……じゃない。目的は冒険者ギルド。そこ大事。

 ……まあ、少しくらい寄り道してもいいかもしんないけど。



 同じ馬車に乗ってた人たちともここでお別れだ。 

 いい人ばっかりだった。黒髪についても何も聞かれなかったし。また機会があればご一緒したい。


 別れ際、みんなからご飯が美味しかったと感謝され、頭を撫でられ、女の子からは焼き菓子を貰った。

 ……いや、なんかさー。私、幾つくらいに思われてるんだろうか。

 これでも一応、十五歳なんだけど。


 余ったオーク肉関しては、みんなで話し合った結果、商人さん達にあげることにした。

 あんな大量なお肉食べきれないし、腐らせるくらいなら売ってもらった方が良い。

 そのお礼として、私と女の子には飴玉、他の人には銅貨を渡していた。

 ……いや、別にいいんだけど。

 なんかこう、同年代扱いされてないか、これ。



 なんだか少しモヤモヤしたけど、気を取り直して門番さんの所に行ってみた。


「すみませーん。冒険者ギルドってどっちですか?」

「冒険者ギルドかい。それならこの道を真っ直ぐ行けば着くよ」

「お、そうなんだ。ありがとうございます」

「おう、嬢ちゃん可愛いから気をつけてなー」


 ぶんぶんと手を振ってくれるお兄さん。

 いい人だ。こちらもお返しにぶんぶんと手を振る。



 この道を真っ直ぐとなると……あれか。一際大きな建物がある。

 入口にちょい強面のおっちゃん達が居るし、多分間違いないと思う。

 目の前まで行ってみると、なんだかとても迫力がある建物だ。

 灰色の石造りの建物で、なんか蔦が這ってるし。

 ちょっと怖いけど、勇気を出してスイングドアをきぃ、と開けた。


 中に人達が一斉にこっちを見る。

 まあ、残念な事に注目されるのは慣れているし、どうって事ないんだけど。

 自分の髪や目が珍しい色なのはよく知ってるからね。



 構わず受け付けに向かうと、胸のおっきな美人のお姉さんがにっこり笑いかけてくれた。

 ブラウスが凄い張ってて、ボタンが飛びそうだ。

 おお。さすが王都。レベルが高い。


「こんにちわ。グラッドさんはいますか?」

「あら、お嬢ちゃん、ギルマスにどんなご用かな?」

「手紙をもらったんだけど、その手紙の事で聞きたいことがあって」


 鞄から手紙を取り出して見せると、お姉さんの態度が変わった。

 とても真剣な顔で手紙を見てから、こちらに目を向ける。

 こちらを伺うような目。でも、これも慣れている。

 昔はよくこの目を向けられてたからね。


「確かにギルドの焼印ですね。確認するのでお待ちください」


 そう言って、そのまま奥に引っ込んでいった。

 いや、お待ちくださいって言われても。すっごい居心地悪いんだけど。

 怖そうなおっちゃんとかがめっちゃ見てるし。

 そこまで珍しいかな、この髪。王都なら他にも居そうだけど。

 フードとか被ってきた方が良かったかなー。


 ……お。なんか怖いおっちゃんがこっち来た。


「おい嬢ちゃん。冒険者ギルドに何のようだい?」

「え? あ、ちょっとグラッドさんに用があって」


 思ってたより優しい声だった。

 私が落ち着かないのを見て声をかけてくれたのかな。


「グラッド? ギルマスか? 一体どんな用だい」

「よく分からない手紙を貰ったから、その事で」

「はぁん? ギルマスから手紙ぃ? どれだ?」

「さっき受け付けの人に渡しちゃった」

「そうかい……嬢ちゃん、一人か? 親はどうした?」

「いない。孤児だから」

「……そうか。まあ、訳ありっぽいが、何か困ったら遠慮無く言いな。商隊護衛のゴードンって言えば大体の奴が知ってるからよ」


 おおきなゴツゴツした手で頭をなでられた。

 ……やっぱ、子ども扱いされてんなー。


「ありがと。ゴードンさん、顔怖いけどいい人だね」

「一言余計だ。まあ、上手くやんな」


 ひらひらと適当に手を振って去っていくゴードンさん。

 気が付くと、周りからの視線が消えていた。

 ……なるほど。周りを牽制する為にも声をかけてくれたんだろうか。

 やっぱりめっちゃいい人だ。顔は怖いけど。

 顔の怖いおっちゃんはみんな優しい気がする。

 パン屋の旦那さんもいい人だし。


 グラッドさんも顔が怖かったりすんのかなーとか思っていると、美人受け付け嬢のお姉さんが戻ってきた。


「お待たせしました。ギルマスが中で話したいと言ってます。こちらへどうぞ」

「はい、ありがとうございます」


 受付の奥の部屋に通されると、そこに悪役の親玉が居た。

 絶対何人か殺してるような顔に、服の上からでも分かるくらい筋肉質な体。

 ニヤリと笑いながら、火の着いていない葉巻をくわえている。


「どうも。貴方がグラッドさんですか?」

「ああ、俺がグラッドだ。嬢ちゃんが?」

「はい。手紙を貰ったオウカです」

「ほおぉ……どんなガキかと思っていたが、中々どうして。肝が座ってやがる」

「あー。なんかよく言われます、それ」

「冒険者は見掛けに依らないと言うが……しかしまあ、そのナリでなぁ」


 うっさい。背の事は言うんじゃない。

 あと私、冒険者じゃないんだけど。


「で、だ。手紙の件だったか」

「はい。あれ、何なんですか?」

「…ああ? なんだ、知らんのか?」

「身に覚えは無いですね」

「そいつぁ困ったな……いや、俺も頼まれて手紙と荷物を送っただけでなぁ」

「え。頼まれたって……誰からですか?」

「英雄様だよ。二ヶ月前だったか、いきなりギルドに来てなぁ」

「……は? 英雄って、あの絵本の十英雄?」

「おう、それだ」


 いやいやいや。意味が分かんないんだけど。


 魔王を倒した救国の十英雄の話は、私も絵本で見たことがある。

 五年前。人間と魔族が戦争をしていた時、別の世界からやってきた十人の英雄たち。

 その英雄たちが魔族の王を倒してくれたおかげで、世界に平和が戻ったってお話だった。

 私も大好きなお話で、何度もせがんで読んでもらったものだ


 そして、彼らは今も実際にこの世界に居るんだと、シスター・ナリアは言っていた。

 未だに王国の復興を助けてくれているらしい。

 うん。言ってはいたけどさ。

 なんでそんな人達から手紙が来るのよ。

 こちとらただの町娘だぞ。


「……どゆこと?」

「いや、それがなぁ。文章書いて送るだけって話だったから詳しくは聞いてないんだわ」

「えええ……そんなぁ」


 ここに来たら何か分かると思ってたのに。

 これじゃ来た意味ないじゃん。


「すまんなぁ。あの人もアスーラに帰っちまってるだろうし……」

「うっわぁ。アスーラって港町の? めっちゃ遠いじゃん……」


 王都からアスーラまでだと、馬車で一ヶ月くらいだったと思う。

 行けと? 一ヶ月かけて、アスーラに?

 さすがに無理じゃないだろうか。いくら何でもアスーラは遠すぎる。

 でも、何も分からないまま帰るのもなあ……んーむ。どうしたもんかなー。


「……なんとかなんないかなぁ」

「飛竜便で手紙を出すってのは出来るかもしれんが……それなら往復で一週間くらいだな」

「おぉ、なるほどね……それでも、一週間かー。

 うああ、滞在費がなぁ……」

「……あん? お前さん、冒険者だろ? 幾つか依頼こなせばいいだけじゃねえか」

「いやいや。私、ただの町娘なんで」

「はあ? そんなよく分からんごっついもん、腰にぶら下げてんのにか?」


 言われて腰の後ろの拳銃を思い出した。

 ……あ、そっか。戦えるんだ、私。

 今の私なら、冒険者登録さえしてしまえば何とかなるかもしれない。

 確か魔物を倒す討伐依頼や護衛依頼以外にも、薬草とかを集める採取依頼があるってシスター・ナリアに聞いたことがある。

 魔物と戦うのは怖いけど、薬草集めたりしてお金稼げばなんとかなるかも。

 教会には手紙を出せばいいだろうし。


 ……よし。決めた。


「グラッドさん。私、冒険者登録する。で、お金稼いで手紙を書く」

「おぉ、そいつぁ構わんが……」

「……でさ。冒険者登録ってどうすんの?」

「そっからか。よし、じゃあ、受け付け行くぞ」


 案内してくれるらしい。

 やっぱり顔が怖い人は優しいようだ。

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