第6話


 馬車に戻ると、みんなにめちゃんこ心配された。

 みんなして怪我の心配をしてくれたり、お婆ちゃんが無茶な行動を叱ってくれたり。

 女の子とか泣きながらしがみついて来たし。


 ……ほんとごめんなさい。 

 お詫びに今日もご飯作ります。



「しかし驚いたよ。お嬢ちゃん、冒険者だったのかい?」

「や、違いますよ。ただの町娘です」

「……まあ、語りたくない事もあるんだろうな。深くは聞かないよ」


 とても優しい目で見つめてくるお父さん。

 違うんです。語りたくないと言うか、自分でも良く分からないから語れないだけです。


「……あ、そうだ。川辺に寄ってもらっていいですか? オーク解体したいんで、できれば誰か手伝ってください」


 解体方法に関しては、前に肉屋さんで見せてもらった事がある。

 手順は覚えてるし、ナイフ持ってきてるからそれでいけるはず。

 せっかくの食肉なんだし、しっかり血抜きしてバラしておかないとダメになっちゃうからね。


「ああ、それなら私が魔法で水を出してあげようか?」

「わ、すごい助かります。ちなみに、解体できる人って他にいます?」

「おう。俺は一応冒険者だからな。オークくらいなら解体した事はあるぜ」


 冒険者さんが手を挙げてくれた。

 おー、さすがベテラン。


「なら、ぱぱっとやっちゃいましょうか。七匹分だとかなり時間かかっちゃいますけど」

「旅路の食料を確保出来たんだ。そのくらいどうって事ないだろ。

 おいアンタら、礼の代わりに運ぶの手伝ってくれ。商品捨てずに済んだんだ、そのくらい軽いもんだろ?」


 晴れやかな笑顔で商人さん達に話を振った。

 二人とも、安心しきった顔でこちらを見ている。


「ああ、そんな事で良ければ手伝うよ。嬢ちゃん、本当にありがとう」

「これが無けりゃ大事だったからな。僕からも礼を言わせて欲しい」

「えーと……どういたしまして。

 あ、御者さん、ちょっと出発待ってください」

「話は聞こえていたよ。こちらとしても助かるし、私も手伝おう」

「それならみんなで行きましょうか。馬車残していくのも嫌ですし。

 お婆ちゃんもそれでいいかな?」

「もちろん構わないよ。気を使ってくれてありがとうね」

「んーん。んじゃ、行きましょっか」


 御者さんには馬を引いてもらって、みんなでオークの群れが居たところまで歩いて行った。

 改めて見てみると、中々凄い光景だな、これ。


「あー……お婆ちゃん、ちょっと馬車の中でその子と待っててもらえますか?」

「そうしようかね。ほら、こっちにおいで」

「うん、分かった」


 あまり小さな子に見せたい光景でもないので、二人には中に入って待っててもらう事にした。


 さてさて。頑張りますか。

 



 数時間かけて解体したオークは、綺麗に洗った後、お父さんの魔法で一部を氷漬けにしてもらった。

 馬車の空きスペースに乗せられるだけ乗せて、後は氷をロープに繋いで引っ張って来ている。

 ちなみに、食べられない部位は穴を掘って埋めてきた。

 他の魔物や肉食動物が寄ってきたら怖いし、出来るだけ血の匂いは消しておきたいからね。


 日が暮れる前に何とか次の馬宿に到着。

 昨日の場所より綺麗にしてあったから、今日は掃除せずに済みそうだ。

 予定外の事があって疲れたし、かなりお腹もすいた。

 ちゃっちゃと準備しちゃおう。

 でっかい鉄板もあるし、新鮮なお肉もあるし、もってきたドライフルーツあるし。

 ここはやっぱり、アレでしょ。




 ◆オウカのかんたんクッキング◆


 いち。オーク肉にフォークで穴をたくさん空けます。

 に。オーク肉をドライフルーツと玉ねぎで作ったタレに浸けます。

 さん。タレがたっぷり染みたら焼きます。

 よん。オークの最強焼き肉の完成です。

 ご。いや、すぐ取り分けるから待って、お願いだから。ちゃんと並んでってば。



 用意した三匹分のオーク肉のうち、その半分を食べ尽くされた。

 まあ、そう言う私もかなり食べすぎちゃったけど。

 脂の乗ったオーク肉の香ばしさと、果物ベースで作った甘いタレが相性良すぎる。

 教会でも年に一回くらい作ってたけど、やっぱり何処に行っても美味しいものは美味しいのだ。

 つまり、美味しいは正義だね、うん。


 調理したオーク肉の残り半分は唐辛子を混ぜた辛味ダレに浸けている。

 保存食にもなって二度美味しいので、後で煙度燻そうと思う。

 薫製機は無いから即席で作る必要があるけど、美味しい物を食べる為には手間を惜しんではならないのだ。

 もうちょい食休みしたら早速作ろう。


 ……さて。周りに誰もいないな。



「リング。説明してよ」

「――確認:戦闘行動に関する説明で宜しいですか?」

「宜しいわよ。あれ、何なの?

 なんかこう……知ってたことを思い出したような感じがしたけど」

「――肯定:マスターにインストールされた戦闘記録です」

「……つまり?」

「――意訳:魔銃型デバイスを使用時、最適な戦闘行動を行えます」

「あの拳銃での戦い方が分かるってこと?」

「――肯定」

「ほほぅ? 拳銃の名前が分かったのもそれかぁ」


 んー。どうなんだろ。便利な魔法、で済ませていいんだろうか、これ。

 そんな魔法聞いたこと無いけどさ。

 それに違和感が無いのが逆に怖いのよね。


「ねえ、そのインストールって何か悪いことある?」

「――不明:私のデータベースには情報がありません」

「んじゃいいや。信用しとく」

「――疑問:私を信用する理由が分かりません」

「ああん? 疑う理由がないからよ」


 理由も無しに疑うのもめんどくさいし。

 それにこいつ、悪い奴じゃないと思う。

 さっきの戦いの時も手助けしてくれたし。

 それに、もし騙されてても困るのは私だけだ。

 なら信じた方がいいに決まってる。

 ……まあ、だいぶ分かりにくい喋り方する指輪だけど。


「――疑問:理由として不適切です」

「理由なんて無いのよ。そういうもんだと思っときなさい」

「――了解:登録します」

「ん。それでよし」


 まあとにかく、明日王都に着いたら何か分かるだろうし、考えるのはそれからでもいいだろう。

 お腹いっぱいで頭回んないしなー。


 あ、てか、まずは今日も寝床の割り振りせにゃ。

 なんかみんな待ってるっぽいし。

 そのあとオーク肉のピリ辛薫製作らなきゃね。



 オーク肉を燻したり、水を浸して絞った布で体を拭いたりした後、みんなで馬宿の中に入って人心地着いた。

 冒険者さんは昨日と同じように寝ずに見張りをしてくれるらしいので、お礼に干し芋を渡しておいた。

 ちょっと嬉しそうだったので、逆に得をした気分だ。


 隅っこの方で毛布にくるまって、ふと思った。

 手紙に書かれていた運命って、リングの事だろうか。

 それとも、二色の拳銃の事なんだろうか。

 ああ、両方って可能性もあるか。

 なんにしても、私みたいな平凡な町娘に送りつけてくるような物ではないと思う。

 使い方までセットだし。なに考えてんだ、まじで。


 サクラドライブを使っている時の私は、多分普通の冒険者より強い。

 跳んだり駆けたりする速さが凄いし、オークの攻撃を受け流したり、一発で頭を砕いたりした。

 自分より大きな生き物の攻撃を受け流したりとか、中々に普通じゃない。


 でも、今の私には理解できる。

 ただ向かってくる力の流れを逸らしたのだけなのだと。

 こう構えて、こうやれば、敵を撃てる。

 こう跳んで、こう回れば、敵を倒せる。

 それを、たかが15歳の町娘が理解していて、実践した。


 これが、運命なんだろうか。だとしたら、少し困る。

 シスター・ナリアに迷惑をかけることはしたくない。

 今回も馬車の同乗者に心配をさせてしまった。

 それは、なんて言うか、心配してくれたのは嬉しいんだけど、申し訳ない気持ちになる。


 戦い方なんて知らなくてもいい。

 ただ、いつもの日々に戻るために、冒険者ギルドで事情を聞くのだ。

 みんなが安心して暮らせるように。

 それだけでいい。平和が一番なのだから。


 あーもー。なんだか、頭の中がごちゃごちゃする。

 うーん。どうも最近、難しいことを考えすぎてる気がする。

 ……寝ちゃおう。隣で寝てるお嬢ちゃん起こしちゃっても悪いし。

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