103、「転生者」と「転送者」
話が噛み合わなかった理由がわかった。
私は平成に生まれて死んだ。
ニチカが生きていたのは、平成より百年ほど後の日本だった。
「あたしが生きていた日本は……つーか、地球全体で人口が増えすぎて、食料は全て配給制だったのよ」
私はニチカの説明に聞き入った。
「でも、それもあと十数年で破綻するって言われていた。実際に、年々配給の量が減らされていたし。そんな絶望的な状況に追いつめられた人類に、とある大企業から福音がもたらされたの」
ニチカは聞いたこともない会社名と、その会社の商品の名を述べた。
「それは夢の技術が完成したってニュース。過去のゲームや漫画を参考にして電脳空間に作られた世界に、生身の人間の脳から記憶をデータ化して取り出して、電脳空間に作られたキャラに「転送」するっていう技術だったの」
生まれ変わった、よりよっぽどファンタジーな気が……いや、SFか?
「このまま生きていてもいずれ食料の奪い合いで死ぬだけだもの、肉体を捨ててでも別の世界に行きたいって思ったわよ」
ニチカはそう言って溜め息を吐いた。うん。飽食の時代に生まれ育って死ぬまで食べることに困らなかった私では、想像もつかない。
「でも、ものすごーく高いお金を払わないといけないから、よっぽどの金持ちじゃないと「転送」してもらえないの」
「でも、こうしてここにいるってことは、その高い料金を払ったの?」
「違うわよ。そんな夢のような新技術だけど、高い料金を取るんだから安全性を確実にしないといけないでしょ? だから、正式に売り出される前に「実験参加者」が募集されたのよ。「転送」の実験……失敗しても自己責任。でも、成功すれば、辛い現実を抜け出して違う世界に行ける」
信じられないような話だ。けれど、ニチカとリリーナが自分を「転送者」と呼んだ理由がわかった。
「私は家族もいなくて未来に希望がなかったから、実験参加希望したの。「転送」前に事前資料としてゲームの関連書籍は全部目を通さないといけなかったから、後日談も全部読んだわよ。せっかくヒロインの言動を丸暗記したのに、悪役令嬢が仕事しないせいで全部無駄になったわよ!」
すまん。
「まあ、あたし自身は別に攻略対象と絶対に付き合いたいって訳じゃなかったから別にいいけど……」
「そうなの? でも、最初はアルベルトの前でぶりぶりしてたじゃない」
ひどいです~とかやっていた癖に。
「だって、ゲームの通りにすればハッピーエンドになるってわかってるもん。こんな貴族社会に放り込まれて、ゲームとは違う行動して何か問題が起こったら怖いじゃない。だから、最初はずっとゲームの通りにしようと努力していたの。それなのに! 攻略対象達は全然思う通りにならないし、悪役令嬢は全然知らん奴と婚約してイチャこいてるし! 立夏祭で一人で真面目に夜露に濡れていたあたしが馬鹿みたいじゃない!」
うん。
「途中で馬鹿馬鹿しくなって、攻略対象にこだわるのはやめたの! どいつもこいつもゲームとは違うことしてんだから、あたしもゲームのシナリオは無視して幸せになるわ! そもそも、攻略対象どもは無駄にキラキラしくてずっと見てると目が疲れるのよね! 遠くから鑑賞する分にはいいけど、毎日隣で見てるとうんざりしそう! アンタ、あんなキラキラした金髪青瞳が兄貴でよく平気ね? あたしはもっと地味な外見の方が落ち着くわ!」
失敬な。
確かにお兄様は目もくらむほどの眩いイケメンだけれども。
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