104、オプション




「とにかく、リリーナも「転生者」ではなく「転送者」なのね」


 意外な事実が明らかになったが、リリーナが危険なことには変わりがない。


「ねえ、リリーナの不思議な能力に心当たりはない? リリーナに都合の悪いことは忘れられてしまうの」


 私がガウェインから聞いたことをかいつまんで説明すると、ニチカが顔をしかめて言った。


「それって、「プロテクト」じゃない」

「プロテクト?」

「さっきも言ったけどさぁ、いくら事前に予習したからって、日本の一般庶民がいきなり中世ヨーロッパの貴族社会とかに放り込まれたら、何か失敗したりするかもしれないでしょ? 何か失敗して周りの人から怒られたり嫌われたりしても、時間が経てば「転送者」に都合の悪い事実は忘れてもらえるっていうオプションサービスがあったのよ。もちろん、くっそ高くて大富豪じゃないと買えないけどね!」


 私は唖然とした。

 そんなオプションがあるなんて。


「他にもいろいろオプションがあったわよ。「認識阻害」とか「お助けキャラ」とかね」

「なにそれ?」

「「認識阻害」はその場にいても認識されなくなるってやつ。危ない目にあって逃げる時とか隠れたい時に使える能力よ。「お助けキャラ」は、ゲームキャラの誰か一人を自分の都合のいいように動かせるっていうオプション」

「なによ、それ? そんなの無敵じゃない!」


 私は頭を抱えた。階段で誰もリリーナを捕まえなかったのは「認識阻害」の効果じゃない?


 どれだけオプションがあるのかわからないけれど、リリーナがそれらを使えるとしたら、がウェイン達がこれまでリリーナを野放しにしてしまった理由もわかる。


 でも、そんな風に自由自在に人の精神を操れる相手に、どうやって打ち勝てばいいのだろう。

 これは、私が思っていたよりも遙かに恐ろしい事態なのかもしれない。


「うーん。でもね、電脳空間でも転送者にはちゃんと法律が適用されるのよ」

「は?」

「だからさぁ、電脳空間で架空のキャラだからって、暴力奮ったり殺したりしたら罪になるの。違法行為は禁止だから、奴隷を買うとか権力でハーレムを作るとかも駄目。架空の世界だからといっても人倫にもとる行為をしてはいけないって、きちんと誓約書を書かされるのよ」


 ニチカの説明によると、電脳世界であっても現実の法を冒す行動をとれば逮捕されるらしい。


「逮捕って、どうやって?」

「噂でしか知らないけど、なんか電脳空間パトロールみたいなものがあって、罪を犯した奴のデータは一時的に電脳空間の檻に入れられるらしいわ」


 ゲームの世界に転送されたからといって、すべてのしがらみから解放されたと思って他人を傷つけたりしちゃいけないってことかしら。


 そうよね。お兄様もジェンスもこの世界で生きているのだから、傷つけたらいけないし、死んだらもう戻ってこないのだ。


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