102、違和感の正体




 私以外の二人が使う「転送者」という表現に、何か重大な意味が込められているような気がして、私はにわかに落ち着かなくなった。


「データを転送するってどういうこと? 前世で何かしてこの世界に生まれ変わったの?」


 私が尋ねると、ニチカは胡乱なものを見るような目になった。


「前世って……アンタ、ひょっとして患ってる?」

「厨二病じゃないわ! だって、前世以外になんて言うのよ? 前に生きていた世界のこと……」

「まあ、確かに肉体は処分されてるだろうから、死んだといえば死んだんだけどさぁ」


 微妙に会話が噛み合わない。

 処分って……。火葬とか葬儀って言ってもらいたいわ。


「ちょっと待って。一から考えましょう」


 私は額に手のひらを当てて、考えを整理しようと試みた。


 どうやら、ニチカと——おそらくはリリーナも、私が知らない何かを知っている可能性が高い。これを絶対に確認しておかなければならない。


「まず、これは平成の日本で発売されたゲームの世界である。これはいい?」


 ニチカは頷いた。


「そう。そして、私達はこのゲームをプレイして、攻略本や後日談を購入して楽しんだのよね」

「購入? 実験参加者には事前資料として全部送られてきたでしょ?」


 ニチカがかくっと首を傾げた。


「実験とか事前資料とか、私には何にも心当たりがないわ……ゲームが発売されてからしばらくして、関連書籍がたくさん出版されたけれど、私は全部は購入しなかったから……」

「はあ? 何言ってんの?」


 ニチカは訳がわからないと言いたげに眉を跳ね上げた。


「だから、実験参加者とか、意味がわからないのよ。もしかして、何かファンイベントみたいなものがあって、それに参加したの?」

「いやいやいや! アンタ、さっきから何を妙なこと喋ってるのよ!?」


 ニチカが身を乗り出してきた。


「発売されてからしばらく、とか、ファンイベントとか! 変なこと言わないでよ! このゲームが発売されたのは、百年近く昔のことなのに!」


 ニチカのその言葉に、私は愕然として頭が真っ白になった。


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