101、転送者
「やっぱりアンタも転送者だったのね!! どーりでおかしいと思ったのよ!!」
私が持ち込んだ鍋セットで作った石狩鍋を食べながら、ニチカが憤る。
「はふはふ。ヒョードルが生きてるし、アルベルトじゃなくてなんか知らない奴と婚約しているし、私をいじめてこないし! もぐむぐ」
「ええ。それで、さっきも言った通り、貴女の知っているゲームの知識を全て教えて欲しいのよ。特に、西について」
「リリーナが全然違う性格になっているから、それもおかしいと思っていたけど……にしても、一つの世界に三人だなんて、酷いミスだわ」
ニチカは汁を啜りながら眉をしかめた。
「リリーナについてだけど、私はリリーナっていうキャラを知らなかったのよね」
「ああ。後日談の西ルートの小説に出てくるのよ」
やはりか。
「ガウェインの従姉妹で、大人しくて優しい性格なんだけどいきなり出てきたニチカにガウェインを取られちゃって、内心では複雑なのね」
「ふんふん」
「ガウェインのことが実は昔から好きだったから、素直に二人を祝福出来ないの。二人の姿を見たくなくて気分転換に町に出たリリーナは、怪しい奴に「愛の妙薬」を渡されるのよ」
「きな臭くなってきたわね」
「そうよ。リリーナは悩みながらも結局「愛の妙薬」を使うことが出来なくて、返しにいくの。そこで悪の組織にさらわれちゃうのよ。西ルートの後日談は「愛の妙薬」を売りさばく組織からリリーナを救い出して、反省したリリーナと親友になるのがメインのストーリーなの」
なるほど。リリーナはおそらくその後日談を読んでいるんだろう。それで、どこに行けば「愛の妙薬」が手に入るかわかっているのだ。
私のところに「愛の妙薬」が来るようにし向けてくれたけれど、ゲームと違って私の周りには私を信じてくれる人ばかりだからな。そこはリリーナも計算違いだったかもな。
「にしても、いくら実験データだからって……一つの世界につき転送者は一人だってうたっていた癖にね。こりゃ、商品化まで無事にこぎ着けたかわかったもんじゃないわね」
私が〆の雑炊を作りながら考えていると、ニチカが憮然として言った。
「……?」
ニチカの言葉の意味がわからず、私はお玉をかき回す手を止めて首を傾げた。
実験データって……? あれ? 前にも聞いたことがあるような……
他にも何か違和感を覚えて、私はニチカの言葉を思い返してみた。
そうだ。
ニチカは「転送者」と言った。確か、階段から落とされる直前に、リリーナも「転送者」と言っていなかったか。
「ねえ、「転送者」って何? 「転生者」でしょ?」
私が尋ねると、ニチカはきょとん、とした。
「転生? そんなファンタジーな呼び方してんの? データを転送するんだから「転送者」でいいでしょ」
私は眉をひそめて、ニチカをみつめた。
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