100、ニチカとレイシール




 ジェンスに送ってもらって女子寮に戻ってきた私は、リリーナ・オッサカーの謎の能力について考えてみた。


 誰も彼女を責めることも捕まえることも出来ない。

 リリーナに会うと彼女にとっての不都合な記憶が消えてしまう。リリーナから離れていれば記憶が少しずつ蘇ってくる。

 ある程度、他人の行動を操ることが出来る。


 あかん。

 なんでこんな悪さし放題な能力を持っているんだ。


 もしかして、異世界転生ものでよくある「チート主人公」って奴なのか? 何故、本家ヒロインであるニチカではなく、リリーナにそのチート能力が宿るんだ。


 でも、そんな能力を持っている割には、それを利用して周りから持て囃されている訳でもない。例えば、リリーナが四大公爵家の誰かを落としたいと思っているなら、もう少し上手く振る舞えばその能力でなんでも思い通りになるんじゃないだろうか。もちろん、そんなことになったら困るけれど。




 火事のためテストが中止となり、学期が早く終わることになった。

 領地に帰るための準備でばたばたとする最中、私には心配なことがあった。

 火事以来、私の傍には常にお兄様かジェンスが付き添ってくれている。リリーナが何も出来ないように、私を一人にしないことにしたらしい。


 しかし、私は大丈夫だけれど、このまま領地へ帰ればニチカは王都に一人残ることになる。

 火事の時、わざわざニチカが呼び出されたことを考えると、リリーナはニチカのことも排除しようとしているのかもしれない。

 なので、お兄様達に相談して、ニチカにも護衛をつけてもらうことにした。一応、この国のプリンセスなので、気合いを入れて守っていただきたい。


「グレゴリー・カゴシマンです! お守りさせていただきます!」

「初めまして。ベンジャミン・クマーモットです」


 おお。なんか頼りがいが半端ないぞ! 鹿児島に熊本!


 なんでも南には優れた武人を多く排出している家が多いらしい。

 私はうんうんと頷いた。


「ちょっとぉ! いきなり家に押し掛けてきたと思ったら、こんな屈強な男達連れてきてどういうつもりよ!」


 ニチカが背後でぎゃーぎゃー喚いているが、私は気にせずに振り向いた。


「突然訪ねてごめんなさい、ニチカさん。お家に上げてくださらない?」

「はあ?」

「お話があるの。——ゲームのことについて」


 私がその単語を口にすると、ニチカは声を失って私を凝視した。



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