71、麗人





「見つけたわよ悪役令嬢!」

「あら、ニチカさん。待ってたわ」

「さあ、私のお弁当を見なさい! でも、おじさんが作ってくれたお弁当を「家畜の餌」なんて言ったら許さないわよ!」

「まあ、お店のご主人が作ってくださったの? 良かったわねぇ。そこに座って食べなさい」


 私の向かいを指してやると、ニチカは素直に座っていそいそとお弁当の包みを解いた。


「遠足があるって話したらおじさんが「貴族の中で恥を掻いたらかわいそうだ」って、奮発してお肉をたくさん入れてくれたのよ!」

「まあ、雇い主と仲がいいのね。いなり寿司も食べなさい」

「もぐもぐ……おじさんは私が学園でいじめられてないかいつも心配してくれるのよ!」

「そうなの。みたらし団子も食べなさい」

「もぐもぐ」

「レイシールが気にするなというから何も言わないようにしているけれど、この子は本当にこれでいいの?」


 私がせっせとニチカに食べ物を与えていると、ティアナが呆れた様子で言った。いいのよ、害はないし。

 でも、目の前にアルベルトがいるというのに、いつものぶりぶり症候群は発症しないのだろうか。


「もぐ……あ、そうだ」


 ニチカが何か思い出したように私を見た。


「新学期が始まってから私がアンタに……」

「おや、美男美女が集まってなんだか華やかだね」


 色づいた秋の風をまとわせて颯爽と現れたフレデリカ様が、お兄様の肩越しに私達を覗き込んだ。


「フ、フレデリカ樣!」


 エリシアとチェルシーが真っ赤になった。さては二人ともファンクラブ会員だな。


「フレデリカ樣! 今日も八頭身だわ! あ、私、ニチカっていいます!」


 そういや、お前もファンクラブ会員だったな。人間の頭身は日によって変わったりしないぞ。フレデリカ様は今日も明日も八頭身だ。


「フレデリカ嬢、一人かい?」

「ああ。少し池の周りを歩いてきたところだよ」


 フレデリカ樣はそう言って亜麻色の髪をかき上げてふっと笑った。う、う、麗しい……。


 これはうっかりファンクラブに入ってしまっても責められない。


「神が私に歌劇団を作れと囁いている……っ!」

「歌劇団? ああ、そういえば」


 フレデリカ樣が私とジェンスを見てにんまりとした。


「西方歌劇団の劇場でイチャイチャしていたそうじゃないか」

「え?」

「親戚が所属していてね。一応、貴族だからサイタマーの顔を見知っていたようだ。かわいい婚約者と人目もはばからず睦まじくしていたと……」


 お兄様が無言で腕を伸ばしてジェンスの首を絞め始めた。


 えー。フレデリカ様の親戚? あの時、ジェンスと一緒にいたのを見られて……って、


「もしかして、ユージーン・キョートフ?」

「そうそう」


 まあ、フレデリカ樣の親戚だったなんて。確かにフレデリカ樣も背が高いし、中性的な雰囲気が似ているといえば似ている。二人が並んだら絵になりそう。


「あいつは昔っから根無し草みたいにふらふらしていたんだが、一年ほど前に急に歌劇団に入るって言い出して。まあ、珍しく真面目にやっているようだからいいけれど」

「……仲がいいのか」

「ああ。小さい頃はよく一緒に遊んだからね」


 ジェンスを締め上げながら尋ねるお兄様に、フレデリカ様は笑顔で答えた。



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