72、レベッカとジョージ





「あ、あの、フレデリカ樣!」


 一人の少女が駆け寄ってきて、フレデリカ様の前にラッピングした包みを差し出した。


「これ、我が家の料理人の自慢のパンプキンパイです! どうか、受け取ってください!」


 あら。ファンの子ね。


「レベッカ!」

「ジョージ!?」


 知り合いらしき男子生徒が登場したわ。


「君は俺というものがありながら、またそんな奴に……っ」

「誤解よジョージ!」


 ただのファン活動よジョージ。


「あの朗読会の日以来、君は変わってしまった……! 俺と一緒にいても心ここにあらずで……」

「そんな! あなたの勘違いよジョージ! 私はただ、フレデリカ樣を純粋にお慕いして……遠くから眺めていたいだけなの!」


 許してあげてジョージ。


「君は俺の婚約者だ……っ! 誰にも渡しはしない! 君の心を奪ったフレデリカ・エヒメンに、俺は決闘を申し込む!」

「ジョージ!!」


 ジョージ!!


「困ったな。私はそんなつもりはないのだが」


 突然、男子生徒に決闘を申し込まれて、フレデリカ樣が困惑している。そりゃあそうだろう。


 フレデリカ樣が困っていると、立ち上がったお兄様がすっとフレデリカ様を庇うように前に立った。


「ジョージ・ナッガノンだな。男が令嬢に決闘を申し込むなど正気の沙汰ではない。今なら聞かなかったことにしてやる。ナッガノン家への恩情だ」


 秋の空気が凍る凍る。さすがお兄様。氷の貴公子。睨むだけで辺りが絶対零度。ジョージが真っ青になっている。

 ドンマイジョージ!!


「ジョージ! お許しくださいホーカイド樣! 私がジョージをないがしろにしたのが悪いのです!」

「レベッカ! 俺は、君に見てもらえなくなるのが不安で……っ」

「わかってるわジョージ!!」


 繊細なのねジョージ!!


 仲直りして抱き合う婚約者同士を眺めて、私達はもそもそお弁当を食べた。ちなみに私の婚約者はお兄様に絞め落とされていたので、膝に頭を乗せて寝せてやった。


「う~ん……レイシー? はっ! これはまさか、膝枕!?」

「目が覚めたらどいて。重いから」

「俺の婚約者が優しくてかわいい……っ!」 


 敷布の上にジェンスの頭を落とすと、ジョージと抱き合っていたレベッカが私を見てはっとした。


「あ、あの……レイシール樣。突然申し訳ありません。ニチカ、という方をご存じではないですか?」


 おずおずと尋ねてきたレベッカに、私とニチカは思わず顔を見合わせた。



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